三重県情報公開審査会 答申第403号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、次に掲げる部分については開示すべきであるが、その他の部分について非開示とし、特定の業務報告書を不存在とした決定は妥当である。
・株式会社三重県四日市畜産公社の職員の氏名
・牛特定部位の取扱いに関して過去に開催された説明会へ出席した食肉関係業者又は牛生産者の名称又は氏名
・過去に実施機関が営業禁止処分を行った営業者の名称
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成25年3月11日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った牛肉の特定危険部位持ち出しの通報にかかる公文書についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成25年3月22日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、牛肉の特定危険部位持ち出しの通報を受けて、実施機関が平成19年10月15日から平成20年2月15日にかけて作成又は取得した業務報告書等の文書である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
本件非開示決定は、開示しない理由がないにもかかわらずなしたもので違法である。
また、平成19年8月3日から9日までの間、四日市畜産公社内の頭部処理室で立会いをした際の「業務報告書」が存在するにもかかわらず、不存在としたもので違法である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
通報においてこめかみ肉を持ち出したとされた人物の氏名、四日市畜産公社の職員の氏名及び牛頭部の処理作業者の通称は、特定の個人が識別され、又は識別され得る条例第7条第2号に該当する個人に関する情報であると判断した。
通報者から情報提供があった飲食店営業店舗の名称等、出荷事業者の名称は、営業等の情報であって、条例第7条第3号に該当する競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報と判断した。過去に営業禁止処分を行った営業者名称は、今回開示請求のあった四日市畜産公社からこめかみ肉が切り出されているとの申告があった事案には関係しない内容であり、また、当該事業者にとって条例第7条第3号に該当する競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報と判断した。
また、異議申立人の求める四日市畜産公社内の頭部処理室で立会いをした際の「業務報告書」については、口頭での復命を行ったものであり、異議申立人の想定する文書が作成された事実がないため不存在である。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書及び非開示部分について
本件対象公文書は、平成19年に四日市市食肉センター(以下「食肉センター」という。)から牛海綿状脳症(BSE)特別措置法で特定危険部位とされている牛のこめかみ肉が持ち出され、四日市市内の飲食店で提供されているとの通報(以下「本件通報」という。)があったことを受け、実施機関が平成19年10月15日から平成20年2月15日にかけて作成又は取得した業務報告書等の文書12件である。
そして、実施機関が本決定において非開示とした情報のうち、異議申立人が開示を求めている情報は、次のとおりである。
(a)本件通報によりこめかみ肉を持ち出したとされた人物の氏名
(b)本件通報によりこめかみ肉を提供したとされた飲食店に関する情報
(c)食肉センターでの調査を行った期間における牛頭部の出荷事業者に関する情報
(d)食肉センターでの調査を行った期間における牛頭部の処理作業者に関する情報
(e)牛特定部位の取扱いに関して過去に開催された説明会へ出席した食肉関係業者又は牛生産者の名称又は氏名
(f)株式会社三重県四日市畜産公社(以下「公社」という。)の職員の氏名
(g)過去に実施機関が営業禁止処分を行った営業者の名称
また、異議申立人は平成19年8月3日から9日にかけて行われた立入調査についての業務報告書の不存在についても異議を申立てているが、実施機関は本件異議申立てを受けて、平成25年4月1日に当初決定の一部を変更し、当該期間に取得した文書を整理した平成19年8月10日付けの供覧文書を対象に加えた上で、異議申立人に対し開示を行っている。
そこで、異議申立人が開示すべきとしている、上記非開示部分及び一部の不存在とされた文書について、当審査会において本件対象公文書及び追加で開示された公文書を見分した結果を踏まえ、以下、非開示情報該当性及び当該不存在の妥当性を検討する。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(4)本件条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示とした情報は、前記(a)、(d)及び(f)の各情報である。以下においては、それぞれの情報ごとに本号への該当性を判断することとする。
ア (a)の情報(通報においてこめかみ肉を持ち出したとされた人物の氏名)
当該情報は、平成19年10月15日付けの業務報告書に添付された通報者からの告発書及び通報者との対応記録に記載された特定人A及び特定人Bの氏名である。ただし、特定人Aの氏名については、新聞報道等で広く公にされており、実施機関も本決定で開示しているため、特定人Bの氏名について判断する。
特定人Bの氏名については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であることは明らかである。
また、当該情報は、特定人Aとは異なり、新聞報道等で公にされているという事実も確認できず、本号ただし書イに該当するとは認められない。
さらに、異議申立人の主張をもって、直ちに本号ただし書ロの情報に該当するとまではいえない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
イ (d)の情報(食肉センターでの調査を行った期間における牛頭部の処理作業者に関する情報)
当該情報は、平成19年10月15日付けの業務報告書に添付された調査期間における牛頭部の処理状況表に記載された頭部処理作業者の通称である。
これらの情報は、氏名そのものではないものの、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報であると認められる。
また、当該情報は、一般に公にされる情報ではなく、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当すると認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
ウ (f)の情報(公社の職員の氏名)
当該情報は、平成19年10月15日付けの起案文書に添付された公社の定める特定危険部位除去手順書に記載された公社の職員の氏名並びに平成19年10月18日付け、同年12月12日付け、同年12月19日付け及び平成20年2月15日付けの各業務報告書に記載された食肉センターにおける内臓処理等の管理体制を見直すための会議に出席した公社の職員の氏名である。
これらの情報は、いずれも個人の氏名であり、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得る情報である。
ところで、公社は、三重県が25%の出資を行っている法人であり、条例第47条の「法人その他の団体で県が出資その他財政支出等を行うもののうち、知事が別に定めるもの(以下「出資法人等」という。)」に該当すると認められる。同条においては、出資法人等に対して、条例の趣旨にのっとり、当該出資法人等の保有する情報の公開に関し必要な措置を講ずるよう努めるものとしており、実際に公社においても情報公開実施要領が定められ、運用されていることが確認できる。そして、同要領第6条第2号によれば、公社の職員の職務に関する情報については非開示とされる個人情報から除外されていると認められる。
これらの規程を踏まえると、公社の職員の氏名については、その職務に関する情報であることは明らかであるから、公社に文書開示請求を行えば、開示される情報であると推認できる。そのため、公社の職員の氏名は、本号ただし書イの「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当すると認めるのが相当である。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当ではない。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(6)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示とした情報は、前記(b)、(c)、(e)及び(g)の各情報である。
以下においては、それぞれの情報ごとに本号への該当性を判断することとする。
ア (b)の情報(こめかみ肉を提供したとされた飲食店に関する情報)
当該情報は、平成19年10月15日付けの業務報告書に添付された通報者からの告発書並びに通報者との対応記録等の文書に記載された特定の飲食店の「屋号」、「所在地」、「関連店舗の屋号」、「経営者の氏名」、「特定人Aと経営者の関係」及び「食肉の入荷先」である。
当該飲食店は、本件通報及びそれに基づく調査の対象となった店舗である。そして、その屋号等の情報は、新聞報道等においても公にされていると認めるに足る事情もないことから、これらの非開示とされた情報を開示すると、当該飲食店の社会的評価や信用の低下を招くなど、当該飲食店の競争上の地位又は正当な利益を害すると認められる。
また、本件通報に基づく疑惑をもって、これらの情報まで公開すべきとする公益上の必要があるとまではいえず、本号ただし書にも該当しない。
したがって、当該情報は本号本文に該当し、これらを非開示とした実施機関の判断は妥当である。
イ (c)の情報(食肉センターでの調査を行った期間における牛頭部の出荷事業者に関する情報)
当該情報は、平成19年10月15日付けの業務報告書に添付された調査期間における牛頭部の処理状況表に記載された出荷事業者の略称である。
これらの記載内容は、具体的な牛の処理頭数が開示されていることから、当該出荷事業者が食肉センターにおいて食肉処理を行ったという事実にとどまらず、各出荷事業者の牛の出荷頭数が明らかになる情報となる。一定期間とはいえ、出荷事業者にとっての出荷頭数は、当該事業者の取扱う食肉量を類推させるものであり、かかる情報はその事業経営上の内部管理に属する情報である。このような情報は、一般的には、専ら事業者の内部管理情報として保護されるべきものと考えられ、これらの内部管理情報を公にすることについては、本件事業者が他の事業者等と食肉業に係る競争を行う地位にあることから、本件法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
したがって、当該部分を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
ウ (e)の情報(牛特定部位の取扱いに関して過去に開催された説明会へ出席した食肉関係業者又は牛生産者の名称又は氏名)
当該情報は、平成19年10月15日付けの業務報告書に添付された「牛特定部位の取扱の経過と考え整理」と題された文書に記載されたものであって、過去の牛特定部位の取扱いに関して開催された説明会へ出席した食肉関係業者又は牛生産者の名称又は氏名である。
これらの食肉関係業者及び牛生産者は、牛肉の取扱いに関係を有する法人その他の団体又は事業を営む個人であると認められるところ、当該文書から判明するのは、当該法人等が過去に特定の説明会へ出席したという事実である。
しかし、かかる事実が公になったとしても当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当ではない。
エ (g)の情報(過去に県が営業禁止処分を行った営業者の名称)
当該情報は、平成19年12月6日付けの復命書に記載された県が営業禁止処分を行った営業者の名称である。当該復命書は、本件通報を受けた問題への対応状況を報告するため厚生労働省を訪問した際の復命として作成されたものであるが、本件通報に係る問題のほか、特定の商品の不適正表示を行った営業者に対して実施機関が営業禁止処分を行った事案についても同時に報告を行っており、実施機関はこの営業者の名称を非開示としたものである。
実施機関は、当該情報について、本件通報に係る事案には関係しない内容であり、その名称を開示することで、当該営業者にとって競争上の地位その他正当な利益を害すると認められると主張している。
しかしながら、非開示理由への該当性の判断は、当該情報が開示請求者の意図するものであるかに左右されるものではなく、開示の対象公文書となった以上は、条例に従って一律に判断されるべきものである。また、当該営業者の行った商品の不適正表示については、広く報道等がなされるとともに、実施機関は当該営業者に対し営業禁止処分を行った事実を公表していることが確認できる。
そのため、当該情報を開示したとしても、新たな事実を明らかにするわけではなく、当該営業者の競争上の地位その他正当な利益を害するものとは認められない。したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当ではない。
(7)業務報告書の不存在について
異議申立人は、平成19年8月3日から9日までの間、公社内の頭部処理室で立会いをした際の「業務報告書」が存在するはずであり、これが存在しないのは、不自然であると主張している。
確かに、三重県公文書管理規程(平成18年三重県訓令第4号)第3条においては、事務の処理は、原則として文書によることを規定しており、実施機関の職員が本件のような特殊な問題事案に関して立ち 会った調査記録については、その報告書を作成し保存すべきであったと考えられる。しかしながら、そのような事務処理の適否を除けば、業務報告自体は、上司に口頭で報告し、調査で取得した文書のみを供覧したとする実施機関の説明に特段の不自然な点は認められず、また、当該業務報告書が存在することを窺わせるような事情もない以上、当該業務報告書を不存在とする本決定は、やむを得ないものといわざるを得ない。
したがって、事務処理の方法に問題はあるものの、当該業務報告書を不存在とした本決定自体は妥当である。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については、実施機関の事務処理の一部に不適切な点が見受けられることから、審査会として次のとおり意見を述べる。当審査会が本件対象公文書を見分したところ、本件異議申立ての対象ではない部分において、決定通知書では開示しないことを明記していない箇所を被覆処理するなど不適切な点が見受けられた。
また、上記のとおり、実施機関の事務処理は、三重県公文書管理規程で定められた手続を経ていないため、異議申立人の主張に係る文書の作成その他本件通報を受けての調査内容が不明確となっている。
このような事務処理は慎重さを欠くものであったといわざるを得ず、実施機関においては、今後同様のことが起こらないよう、開示・非開示部分の内容を十分精査する等慎重かつ丁寧な対応に努めるとともに、事務処理に係る県民への説明責任の観点からも、三重県公文書管理規程に基づき適切に事務を処理することを徹底し、公文書の管理についても適切な運用に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
25. 4. 22 |
・諮問書の受理 |
25. 4. 23 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
25. 5. 17 | ・理由説明書の受理 |
25. 5. 20 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
25. 6. 21 |
・書面審理 |
25. 7. 26 |
・審議 |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |