三重県情報公開審査会 答申第400号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年12月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「社会福祉法人に対する補助金交付事業の工程進捗状況」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成25年2月7日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定の社会福祉法人に関する補助金交付事業において、当該社会福祉法人が発注した工事についての工事進捗状況報告書である。
本件対象公文書において、実施機関が非開示とした情報であって、異議申立人が開示を求めている情報は、工事請負業者の現場代理人の印影である。
4 異議申立人の理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
現場代理人の氏名は工事現場に掲示されており、公になっているため、氏名を表すものである印影を開示することはできる。
そして、本件対象公文書に押印された印鑑は偽造されると問題が大きいとされる、実印や銀行印とは考えられず、認印程度のものであるはずである。どこにでも売っている三文判でも認印として機能するため、認印を使った印影ならば開示してもなんら問題はない。
また、本件対象公文書には、印影の他に現場代理人の署名など、その氏名を確認できる情報が存在しないため、本件対象公文書の真正を確認するには現場代理人の印影を開示するしかない。
以上から、単に印影の秘匿義務を盾に開示しなかったことは原則開示を定める条例及び法規則をないがしろにするものであり、当該情報を開示すべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
非開示とした工事請負業者の現場代理人の印影は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、条例第7条第2号本文に該当する。
そして、当該情報の現場代理人氏名は工事現場での掲示等により公にされるものの、その印影については一般に公開されている情報ではないことから、同号ただし書イには該当しない。
また、当該情報は同号ただし書ロに規定される、「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境」という権利利益のいずれにも該当しないため、当該情報は同利益を保護するために公にすることが必要であると認められる情報にも該当しない。
なお、異議申立人は、現場代理人の氏名は工事現場に掲示されるものであり、氏名の代わりとしての印影を開示すべきと主張しているが、印影は氏名の一部であるとはいえず、あくまで特定の個人が識別され得る個人情報に該当する。
以上の理由により、当該情報は非開示と判断した。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)本件条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が非開示とした工事請負業者の現場代理人の印影の本号への該当性を検討する。
異議申立人は、現場代理人氏名はすでに公になっているため氏名を表すものである印影も開示すべきであり、用いられた印鑑について、認印程度のものならば開示できるはずであると主張している。
しかし、印影は、氏名のみに止まらず、その形状には、印鑑の種類に関係なく、特定の個人に関する情報が含まれており、直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。
そして、当該情報は、建設業法等に基づく閲覧制度においても閲覧の対象となる情報ではなく、当該情報は、本号ただし書イに該当すると認められない。
また、本件対象公文書の真正を確認するには印影の開示が必要であるとの異議申立人の主張をもって、直ちに本号ただし書ロの情報すなわち「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとまではいえない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、印影の開示のあり方について次のとおり意見を申し述べる。
印影については、氏名が明らかになっている場合であって、当該公文書中に印影以外にその氏名を確認し得る情報が記載されていないような場合には、その書類の真正を担保するために当該印影の開示の必要性が認められることもあり得る。
したがって、このような場合における当該印影の取扱いについては、個人情報が識別され得ることに配慮しつつ当該印影の一部を開示する運用を可能とするなど、プライバシーの保護と条例の趣旨を十分考慮した上での開示のあり方を今後検討することが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
_別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
25. 3. 15 |
・諮問書の受理 |
25. 3. 18 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
25. 3. 26 | ・理由説明書の受理 |
25. 3. 27 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
25. 5. 24 |
・書面審理 (平成25年度第2回B部会) |
25. 6. 21 |
・審議 (平成25年度第3回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |