三重県情報公開審査会 答申第397号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年10月19日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「補助金適正化法又は県条例に違反した事業について、行政処分、事実公表若しくは法的対処を行った事案について分かる全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年11月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書及び本件非開示部分について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、ふるさと雇用再生特別基金事業における委託料の不正受給事案に係る一連の文書である。
4 異議申し立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
委託料の全額が公費支出の対象であり、支出証拠書となるべき領収書や賃金台帳等の個人名を非開示とすることは、公費支出の正当性を毀損し疑惑を深めるだけであり容認できず、当該氏名は開示すべきである。
また、賃金台帳等については、金額を含めすべて開示すべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
非開示とした部分で異議申立人が開示を求めているのは、領収書や賃金台帳等に記載された受託者に係る従業員や有償ボランティア等の氏名であるが、当該情報は個人に関する情報であって、特定の個人を識別し得るものであり、条例第7条第2号本文の個人情報に該当する。
また、当該情報は、法令の規定や慣行により公にされていない情報であり、同号ただし書イに該当しない。
さらに、これらの情報は、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報に該当しないことから、同号ただし書ロにも該当しない。
以上の理由により、当該情報については非開示と判断した。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)本文の該当性について
本件対象公文書は、特別基金事業における委託料の不正受給事案に係る一連の文書である。実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち、異議申立てに係る情報は、本件対象公文書のうち領収書や賃金台帳等に記載された受託者に係る従業員や有償ボランティア等の氏名である。これらの情報は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
また当該情報は、法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められず、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、これらの情報を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当するとはいえず、本号に該当する個人情報を開示することは是認できない。
一方、異議申立人は意見陳述において異議申立ての対象について賃金台帳の金額についても開示すべきであるとの主張を追加している。
また、県の説明責任という観点からいえば、不正受給の状況を検証するために、給与額等の一連の金額について開示すべきであったと考えられる。
当該基金事業は、委託の条件として委託料の2分の1を人件費に充てることとしており、そのため、当該事業の事業計画において、対象となる従業員の氏名を記載し、実施機関のホームページにおいて公開していることから、事業当初に従事した従業員については、すでに公にされた情報となっている。
そのため、実施機関は、公になっていない従業員の氏名を非開示として、給与支給額を開示することにより、今回の請求で開示する他の公文書と組み合わせることにより、すでに公開している従業員への給与支給額が明らかとなると主張している。
確かに、公開された従業員の氏名を非開示としても対象となる従業員数が少数であり、給与支給の根拠となる業務日報等の記載内容から、特定人の給与額を推測することは可能であり、やむを得ず給与額を非開示とした実施機関の判断は、不当とまではいえず、妥当であったと判断せざるを得ない。
したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24.12.13 |
・諮問書の受理 |
24.12.20 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
25. 1.25 | ・理由説明書の受理 |
25. 1.28 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
25. 3.11 |
・書面審理 (平成24年度第11回A部会) |
25. 4.16 |
・審議 (平成25年度第1回A部会) |
25. 5.14 |
・審議 (平成25年度第2回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |