三重県情報公開審査会 答申第391号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件部分開示決定のうち、本件異議申立てに係る「聴取り対象職員の氏名等」を非開示とした部分を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年9月3日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「鳥羽港改修事業における公文書改ざん事件に関して分かる全ての文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年9月18日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、鳥羽港国補港湾改修(地方)工事(以下「本件工事」という。)に関する公文書について書換え等を行った事案に関して、「三重県県土整備部公共工事適切執行調査委員会」及び「鳥羽港改修工事に係る調査チーム」による調査の過程で作成された聴取り調査等に関する一連の文書である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、次のとおりである。
本件事案は、公文書開示請求を受け、公文書を改ざんしたものであり、これは刑法上の虚偽公文書作成罪及び同行使罪に該当するとともに、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第29条に規定される罰則事由にも該当するものである。
さらに、県職員は、地方公務員法第32条において法令遵守義務を求められている他、同法第30条、第33条及び第35条において職務専念義務や公益優先義務等の服務が課せられているが、本件事案に関与した当該職員はいずれもこれらの服務規定を犯しており、同法第29条に規定される懲戒処分に該当する。
それにも関わらず、本決定は、関与した当該職員及び事情を知り得る立場にあった関係職員に対し調査委員会が行った聴取記録において、その職員名を非開示としており、本件事案に係る真相解明を求める県民の「知る権利」を侵害する不当な決定である。
当該職員の氏名は、既にその氏名を公表された職員もいる他、職員録及び事務決裁委任規則又は公文書の決裁欄の記録等を確認すれば容易に類推されるにも関わらず、敢えて全面非開示としたことは極めて不当であり、本件不正事案をいたずらに隠ぺいし、県民の追及の手をかわそうとする卑劣な手法に過ぎない。
一旦失墜した信頼を取り戻そうとするなら、事の経過、事実をつぶさに明らかにし、広く県民の評価を求めることこそ肝要である。
以上より、実施機関は、本決定を取消し、非開示部分を開示するべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
請求に係る公文書は、条例に基づき開示請求のあった本件工事に関する公文書について書換え等を行い開示した事案に関して、「三重県県土整備部公共工事適切執行調査委員会」による調査、「鳥羽港改修工事に係る調査チーム」による調査の過程で作成したものである。
請求に係る公文書には、処分が検討されることになる不適正な事務を行った職員が選別される情報が記録されており、これらの情報を公にすることにより当該職員の自宅等に取材が行われることなどが懸念され、当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあると判断した。
このことから、職員の氏名、所属等は職員が識別される情報であり、条例第7条第2号に該当することから非開示とした。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であれば全て非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
(a)公務員の職務情報の原則開示
本号は、「公務員の職務に関する情報」を個人情報から除外し、原則開示することとしている。これは、公務員の職務に関する情報は、そもそも公務員の職務の性格上公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まないこととし、当該情報を原則開示することとしたものであると解される。
(b)公務員の職務情報の中の例外的非開示
しかし、公務員の職務に関する情報であっても、例外的に「公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」については非開示とすることができるとされている。
これは、(1)公務員の職務に関する情報であっても、同時に公務員の私事に関する情報の側面もあり、同側面の方が、明らかに大きいような場合(特定公務員の「給与額」「勤務成績」「処分歴」等)、さらに(2)公務員の私事に関する情報の側面は大きくなくても、これを開示することにより、「職務の性質」等から、特定の公務員に対する不当な個人攻撃が強く危惧される場合がこれに該当すると解される。
(c)本件対象公文書は「公務員の職務情報」か
本件対象公文書は、本件工事に関してなされた公文書開示請求に対し、開示された公文書について、書換え等の疑いがあることが報道されたことを受け、事実確認のために「三重県県土整備部公共工事適切執行調査委員会」が行った調査関係書類及び、その後に詳細な調査を行うために設置された「鳥羽港改修工事に係る調査チーム」が行った調査関係書類である。
このうち、実施機関が、本決定において非開示とした情報であって、異議申立人が開示を争っている部分は、下表左欄の各対象公文書について、同表右欄に示す部分である。
上記のとおり、本件対象公文書は、本件工事における事故繰越の手続き及び公文書開示請求への対応に関する不適切な事務処理を調査するため作成された文書であり、聴取り調査の内容だけでなく、聴取り調査自体が職務行為であり、当該情報は、「公務員の職務に関する情報」であると認められる。
(d)開示により私生活上の権利利益を害するおそれがあるか
実施機関は、聴取り対象者の氏名等は、処分が検討されることになる不適正な事務を行った職員が選別される情報であり、これらの情報を公にすることにより、当該職員の自宅等に取材が行われることが懸念され、当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとして本条本号に該当する非開示情報であると主張している。
しかしながら、職員が職務行為に関し、「取材を受けるおそれ」があるとしても、公益性の高い職務である以上、職務に関し、取材を受けるのは、職務に伴う責任の範囲内といえ、これをもって、私生活上の権利利益を害するおそれがあるとは解することはできない。
また、実施機関の主張によれば、本件に限らず、一般的に、職務行為が不適正であれば、メディアの取材を受けるおそれは高く、これを理由に非開示とすることができることになり、反対に適正な職務行為であれば、通常のこととして、取材を受けるおそれは低く、開示すべきとなる。
このように実施機関の考えによれば、結果として、職務行為が適正な場合は開示され、不適正なときは、非開示とすることができることになってしまうが、このような考え方により運用すると、公務員の職務情報を原則開示とし、県民による監視を可能にした本条例の趣旨に明らかに反する結果となってしまう。ただ、反対に、職務行為が不適切な場合は、本来非開示とできる場合でも、開示すべきであると考えるのも、本情報公開制度が、開示される公務員に制裁を課す制度ではない以上適切ではない。すなわち、職務行為が適正か否かによって開示非開示を決めるのではなく、前記のとおり、当該情報が私事に関する情報の側面が強いか、「職務の性質」等から個人攻撃を受けるおそれが強く懸念されるか否かによって判断すべきである。
以上の点から、実施機関が非開示とした「聴取り対象者の氏名等」の情報は、全て開示するのが相当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24.10. 1 | ・諮問書の受理 |
24.10. 1 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24.10.22 | ・理由説明書の受理 |
24.10.22 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24.12.27 |
・書面審理 (平成24年度第8回B部会) |
25. 1.24 |
・審議 (平成24年度第9回B部会) |
25. 3. 1 |
・審議 (平成24年度第10回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |