三重県情報公開審査会 答申第389号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年8月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「保育園建設予定地附近の賃貸マンション浄化槽の悪臭原因について立会いした検査記録等」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「平成23年度浄化槽法定検査結果書」を対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)として特定し、平成24年9月14日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第2項に規定する第三者である異議申立人が取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は、本請求に際し、本件対象公文書に第三者(以下「異議申立人」という。)の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対し意見照会を行った上で、本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対し、条例第7条第3号(法人情報)ただし書イに該当するとの理由で条例第17条第3項の規定に基づき本件対象公文書を開示する旨を通知したところ、「本件対象公文書に記載されている外観検査結果、水質検査結果、所見」を非開示とすることを求めて異議申立てが提起された。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成24年10月3日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見書の提出及び意見陳述が行われなかったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
本件公文書が開示されることにより、検査結果以上の悪いイメージを与えるおそれがあるため、これらの情報を開示されると支障がある。
また、この開示請求は、市職員により、地域住民の一部に対し当浄化槽が匂いの原因であると断定した後の開示請求であり、これ以上の誤解を避けるためにも情報を非開示にし、その上で、地域住民の不安感を取り除くために両者立会いの下、浄化槽の検分を行いたい。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
本件対象公文書は、平成23年度浄化槽法定検査結果書である。この検査は、浄化槽法第11条第1項の規定に基づき、浄化槽管理者が年1回受けることを義務付けられており、県が指定した指定検査機関が実施するものである。
指定検査機関は、浄化槽の機能が正常に維持されているかを水質検査や外観検査及び書類検査から総合的に判定し、法定検査結果書を発行する。浄化槽管理者は、この結果書に基づき、不具合があれば早期に改善を行い、浄化槽の機能を良好に維持することが求められる。
異議申立人が所有する浄化槽の平成24年3月17日に実施された法定検査の検査結果書によれば、消毒剤が充填されておらず清掃の実施が必要である旨の所見がなされていた。
この法定検査結果に基づき、県は平成24年7月4日付けの公文書により、異議申立人から管理を委託されている管理会社へ改善報告を求めた。その結果、消毒剤は補充されたが、清掃については異議申立人の意向により、浄化槽法に定められた清掃回数(1回/年)を実施しているとの理由から実施されなかった。
さらに、平成24年7月27日の県及び市による現地確認において、放流水に臭気を確認し、当該浄化槽については、今後、悪臭による健康被害や、蚊、ハエの発生等の公衆衛生上の問題が生じるおそれが極めて強いと判断した。
このことから、異議申立人にかかる法人情報は、条例第7条第3号のただし書イにより、「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当すると判断し、開示を決定した。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)本文の該当性について
本件対象公文書は、浄化槽の法定検査の結果書であり、当該検査結果書に記載された検査結果及び所見を開示することとした実施機関の決定について、異議申立てが提起されているものである。
当該情報は、異議申立人に管理運営上の問題点があることを指摘するものであり、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを否定し得ない。
よって、本条本号本文に該当すると判断する。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)ただし書イの該当性について
一方、条例第7条第3号ただし書イは、法人情報であっても公益上公にすることが必要であると認められるものについては公開の対象となる旨規定している。これは、法人等に関する情報であっても、「事業活動によって生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康または財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」については、条例第7条第3号の例外として公開の対象とする旨定めたものである。
本件浄化槽については、今後周辺住民に対する健康被害や公衆衛生上の問題が生じるおそれが極めて強いとの県及び市による判断が出されていることに加え、住民にとって環境、生活、健康に対する強い不安感を抱かせることは、容易に想像できる。そのため、当該情報は、浄化槽管理者が被る不利益を考慮してもなお、開示される必要性のある公益性の高い情報であると考えられる。したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書イに該当し、開示すべきものと考えるのが相当である。
なお、実施機関によれば、異議申立人は本決定後の11月9日に当該浄化槽の清掃を実施しており、現在では浄化槽の状態は改善されているとのことであるが、当審査会は、実施機関が本決定時に行った判断の妥当性を調査審議するものであるため、当審査会の判断を左右するものではない。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24.10.16 | ・諮問書の受理 |
24.10.16 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24.10.23 | ・理由説明書の受理 |
24.10.26 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24.12.20 |
・書面審理 (平成24年度第8回A部会) |
25. 1.22 |
・審議 (平成24年度第9回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。