三重県情報公開審査会 答申第388号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年7月23日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の事業協同組合の文書」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年8月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定の組合連合会から提出された中小企業等協同組合決算関係書類である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
「反社会勢力」との交流を指摘された事実があることから、資金の透明性を疑わせるもので、マネーロンダリングの防止の観点からも決算関係書類を公開させるべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
対象公文書は、中小企業等協同組合法(以下「組合法」という。)第105条の2第1項(決算関係書類の提出)の規定により提出されているものであり、一般に誰でも入手できる情報ではなく、組合の経営等に関する内部情報である。
決算内容のうち、金額欄等は組合の財務に関する極めて重要な情報であり、一般に公開されることが予定されておらず、仮に公開されると組合の運営に影響が及ぶことは明らかである。
異議申立人が主張する「反社会勢力との交流」と法人情報該当性は別個のものであり、「反社会勢力との交流」を指摘された事実をもって、条例第7条第3号ただし書に規定する情報に該当するとは判断できない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
ア) 表彰者の氏名、勤務先、役職名
イ) 議長及び出席理事の印影
実施機関が非開示としたア)、イ)の情報は、特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当することは明らかである。このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、これらの情報を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
ウ) 財産及び損益の状況
エ) 貸借対照表、損益計算書、財産目録及び剰余金処分案の各項目金額
オ) 収支予算書
カ) 賦課金徴収額
キ) 借入金残高最高限度額
ク) 取引金融機関の名称
ケ) 役員報酬額
コ) 未収入金の相手方
実施機関が非開示としたウ)、エ)、オ)の情報は、一般的には、当該組合連合会の全般的な財務状況を把握することが可能な情報である。
これらの情報は法人等の内部管理情報ではあるが、当該組合連合会が県内で唯一の連合会であり、競合する相手が存在しないことから、開示することによって、競争上不利益を与えると認めることはできない。また、当該組合連合会の主要な事業が、会員の砂利採取に関する申請手続代行業務及び砂利採取に関する保証関係等の業務、公害防止の啓発活動、教育情報事業及び会員の福利厚生に関する事業であり、内部管理情報であっても、開示することにより、直ちに、当該組合連合会の事業活動が損なわれるとも認められない。
しかしながら、本件決算関係書類に記載されている数値からは、様々な財務指標を算出することが可能であり、当該組合連合会の経営規模、資産構成、収支バランスなどが把握できることが認められる。
以上の点から、各項目の詳細の金額については、当該組合連合会の正当な利益を害するおそれがある情報として保護すべきであるが、別表で示した合計額を開示したとしても、同連合会の競争上の地位、その他、正当な利益を害するとまではいえないことから、開示すべきである。
カ)の情報は、連合会の所属員に対する賦課金の徴収額である。これらの情報は、連合会へ加入する団体等へは、提示される情報と考えられ、当該連合会の競争上の地位その他正当な利益を害する情報であるとは認められないことから、非開示とした実施機関の判断は、妥当でない。
キ)、ク)の情報は、連合会の借入金の限度額及び取引金融機関の情報であり、これらの情報は法人等の内部管理情報として保護されるべきものであり、非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
ケ)の情報は、連合会の役員に対する報酬額の金額についての情報であり、すでに開示している損益計算書の一般管理費に役員報酬の項目がないことから、無報酬であることは推測でき、非開示とした実施機関の判断は、妥当でない。
コ)の情報は、未収入金の相手方に関する情報であり、未収入金がある法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報であると認められることから、非開示とした実施機関の判断は、妥当である。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 8.24 | ・諮問書の受理 |
24. 8.27 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 9.10 | ・理由説明書の受理 |
24. 9.12 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24.11.27 |
・書面審理 (平成24年度第7回A部会) |
24.12.20 |
・審議 (平成24年度第8回A部会) |
25. 1.22 |
・審議 (平成24年度第9回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。
別表
No. |
頁 |
対象公文書名 |
開示項目 |
1 |
6、30、56 |
Ⅰ直前3事業年度の財産及び損益の状況 |
資産合計、純資産合計、事業収益合計、当期純利益金額 |
2 |
10、34、60 |
貸借対照表 |
資産合計、出資金、出資金計、純資産合計、負債及び純資産合計 |
3 |
11、35、61 |
損益計算書 |
事業費用合計、一般管理費合計、当期純利益(損失)金額、申請手数料収入及び合計、事業収益合計、賦課金等収入及び合計、事業外収益合計 |
4 |
12、36、62 |
財産目録 |
資産合計、正味財産 |
5 |
16、40、66 |
収支予算書(収入の部) |
事業収益計、賦課金等収入計、事業外収益計、合計 |
6 |
17、41、67 |
収支予算書(支出の部) |
事業費用計、一般管理費計、合計 |