三重県情報公開審査会 答申第387号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年7月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「教職員の懲戒処分に関する情報」についての開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成24年7月19日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
(1)懲戒申立について(伺い)(平成24年6月29日)
(2)職員懲戒審査委員会議事録について(伺い)(平成24年7月2日)
(3)危機管理統括監報告について(伺い)(平成24年7月3日)
(4)職員の懲戒処分について(伺い)(平成24年7月3日)
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
懲戒処分の発令行為は公開であり、昇任転退任の発令行為同様非開示とすることは許されない。調査を十分に行わず、刑事告訴、告発を怠り、刑事処分を受けなかったから氏名や行為の事実の詳細を不開示とすることは、二重三重の信用失墜行為にあたる。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
対象公文書の記載事項のうち、被害生徒の氏名、その特定につながる情報や関連する情報については、個人識別情報又は人格と密接に関連する情報を含むため、公にすることによって当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
被処分職員の氏名等については、公務員の職務に関する情報を含むが、公にすることにより当該職員の私生活上の権利利益を害する情報である。これらの情報は、法令等又は慣行により公にされ又は公にすることが予定されている情報や、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために公にすることが必要な情報であるとは認められない。
また、懲戒処分の詳細な量定判断とその内部的な審査の過程に係る情報については、これらの情報が公になった場合、今後、当事者や関係者に誤解や予断を与え、彼らからの協力が得られなくなるおそれがあり、当該事務に著しい支障をきたし公正で適正な意思決定が妨げられる可能性があることから、公正かつ円滑な人事の確保に支障をきたすおそれがある。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
ア) 被害生徒に関する情報、被害生徒の特定につながる情報
イ) 職員の氏名
ウ) 職員の生年月日、本籍、現住所、生活の本拠地、学歴、職歴、担当する職務内容、
勤務の状況、過去における懲戒処分の状況、家族状況、始末書の内容
エ) 学校名
オ) 校長名、学校長印印影
カ) 嘆願書の提出者に関する情報
実施機関が非開示としたア)の情報は、特定の個人が識別される情報と特定の個人は識別されないが、特定の個人の思いや信条、行動内容等を記載した情報がある。
ア)の情報のうち、特定の個人が識別される情報は、本号本文に該当することは明らかである。このような情報が法令や慣行により公にされ又は公にされることを予定しているとは認められない。また、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、これらの情報を公にすることが必要であるとも認められない。したがって、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当せず、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。
また、特定の個人は識別されないが、特定の個人の思いや信条、行動内容等を記載した情報については、個人の人格と密接に関係する情報であり、当該個人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり、本人の同意なしに第三者に流通させることは適切でなく、個人識別性がない場合であっても、開示するべきではないと考える。しかしながら、実施機関が非開示としたア)の情報のうち、別表1に掲げる情報については、個人が識別される情報ではなく、特定の個人の思いや信条、行動内容等を記載した情報でもないこと、また、すでに実施機関により公表された資料に記載された情報であることから、開示すべきである。
次にイ)の情報は、懲戒処分を受けた職員の氏名であり、特定の個人が識別される情報であるが、公務員等の職務に関する情報であることから、基本的には開示すべきものである。しかし、本件対象公文書に記載された職員は、既に懲戒処分を受けた者であるから、氏名を開示することにより、当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがある。したがって、上記イ)及びウ)からオ)までに掲げる情報については、他の情報と組み合わせること等により当該職員を識別することが可能であり、また、本号ただし書のいずれの情報にも該当するとは認められないため、非開示とすることが妥当であるが、その余の別表2に掲げる情報については、個人が識別される情報ではなく、また、すでに実施機関により公表された資料に記載された情報であることから、開示すべきである。
また、異議申立人は当該事案に対する民事訴訟においてア)からオ)の情報については、すでに公にされており、非開示とする理由はないと主張している。たしかに民事訴訟法第91条に「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と規定していることから、条例第7条第2号ただし書イ「法令若しくは他の条例の規定によりまたは慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当する。しかしながら、同法第91条第2項の規定により公開を禁止される場合もあり、特別の場合は閲覧を禁止できるとしていることから、訴訟の内容によっては、非開示とする場合も当然にあり、原告被告を非開示とすべき正当な理由のある場合もありえることから、民事訴訟事案というだけでただちに開示しなければならないということにはならない。
次にカ)の情報は、嘆願書の提出者に関する情報であり、特定の個人が識別される情報であり、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当しないことから、これらの情報を同号に掲げる非開示情報に該当するとした実施機関の判断は妥当であるが、その余の別表3に掲げる情報については、個人が識別される情報ではないことから、開示すべきである。
(4) 条例第7条第6号(事務階業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(5) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報は、以下のとおり分類することができる。
キ) 懲戒処分の量定判断とその過程に係る情報
ク) 聴き取りの内容に関する情報
実施機関が非開示としたキ)の情報は、規律違反を行った職員に対する処分に際し、実施機関が行った懲戒処分に至る量定判断とその内部的な審査の過程に関する情報である。
また、ク)の情報は、実施機関が懲戒処分を行うにあたり、事実関係を確認するため実施した当事者及び関係者に対する聴き取りの内容に関する情報である。
これらの情報が公になった場合、今後、当事者や関係者に誤解や予断を与えることにより、正確な事実の把握や公正で適正な意思決定が妨げられるおそれがあることから、人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとして非開示とした実施機関の判断は妥当である。
しかしながら、実施機関が非開示としたキ)の情報のうち、別表4に掲げる情報については、懲戒処分の種類別に対象となった行為の種類、その態様及び結果別に過去の量定判断をまとめたものに過ぎず、既に公開している「懲戒処分の指針」(平成19年10月1日策定、平成22年12月24日改正)における標準例と比較して、異なった判断をしているものではないことから、当事者や関係者に誤解や予断を与えるおそれは少なく、開示すべきである。また、その他の別表4に記載の情報は、すでに実施機関により公表された資料に記載された情報や事務に支障を及ぼす情報と認められないことから、開示すべきである。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 8. 2 | ・諮問書の受理 |
24. 8. 6 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 8.27 | ・理由説明書の受理 |
24. 8.28 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24.10.23 |
・書面審理 (平成24年度第6回A部会) |
24.11.27 |
・審議 (平成24年度第7回A部会) |
24.12.20 |
・審議 (平成24年度第8回A部会) |
25. 1.22 |
・審議 (平成24年度第9回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学・寢w長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 |
藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。
別表1
No. |
対象公文書名 |
頁番号 |
行番号 |
備考 |
1 |
議案第18号資料 |
11 |
12 |
|
2 |
11 |
12~13 |
|
|
3 |
11 |
20 |
1~9文字目を除く |
|
4 |
11 |
21~22 |
21行目6~24文字目を除く |
|
5 |
11 |
24~25 |
|
|
6 |
11 |
27~28 |
27行目1~15文字目を除く |
|
7 |
11 |
29~31 |
29行目20文字目から30行目2文字目及び31行目15文字目以降を除く |
|
8 |
危機管理統括監報告 |
27 |
25 |
|
9 |
懲戒申立書 |
32 |
15 |
|
10 |
32 |
15~16 |
|
|
11 |
32 |
23 |
1~9文字目を除く |
|
12 |
32 |
24~25 |
24行目6~24文字目を除く |
|
13 |
32 |
27~28 |
|
|
14 |
32 |
30~31 |
30行目1~15文字目を除く |
|
15 |
32 |
32~34 |
32行目20文字目から33行目2文字目及び34行目15文字目以降を除く |
|
16 |
規律違反報告書 |
41 |
16~17 |
|
別表2
No. |
対象公文書名 |
頁番号 |
行番号 |
備考 |
1 |
議案第18号資料 |
11 |
15~17 |
|
2 |
11 |
27~28 |
27行目1~15文字目を除く |
|
3 |
12 |
21 |
|
|
4 |
危機管理統括監報告 |
27 |
36 |
25~32文字目までを除く |
5 |
懲戒申立書 |
32 |
18~20 |
|
6 |
32 |
30~31 |
30行目1~15文字目を除く |
|
7 |
33 |
29 |
別表3
No. |
対象公文書名 |
頁番号 |
行番号 |
備考 |
1 |
議案第18号資料 |
14 |
6 |
|
2 |
14 |
6~8 |
|
|
3 |
17 |
19~21 |
|
|
4 |
懲戒申立書 |
35 |
14 |
|
5 |
35 |
14~16 |
|
別表4
No. |
対象公文書名 |
頁番号 |
行番号 |
備考 |
1 |
議案第18号資料 |
17 |
19~21 |
|
2 |
懲戒申立書 |
37 |
10~27 |
|
3 |
38 |
31~33 |
|
|
4 |
規律違反報告書 |
42 |
9 |
|
5 |
|
56 |
5~8 |