三重県情報公開審査会 答申第382号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年4月10日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の事業者に係る廃棄物処理法、建設リサイクル法、再資源利用に関する全ての文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「産業廃棄物管理票(以下「マニフェスト」という。)のリスト」を対象公文書(以下「本件対象公文書」という。)として特定し、平成24年5月24日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第2項に規定する第三者である異議申立人が取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
(1) 実施機関は、本請求に際し、本件対象公文書に異議申立人を含む第三者である複数の個人(以下「異議申立人等」という。)の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人等が在籍する法人(計43社)に対し意見照会を行った上で、本決定を行った。
(2) 実施機関は本決定を行うと同時に、反対意見書を提出した異議申立人等が在籍する法人(計9社)に対し、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きに該当するとの理由で条例第17条第3項の規定に基づき本件対象公文書を開示する旨を通知したところ、異議申立人が在籍する法人から「本件対象公文書に記載されている異議申立人の氏名」を非開示とすることを求めて異議申立てが提起された。
(3) 実施機関は、当該異議申立てに係る情報が従業員の個人名であることから、当該法人に従業員本人からの異議申立てを提出するよう指示し、その結果、異議申立人から異議申立書が提出された。
(4) 当該法人に対しては、開示する理由を条例第7条第2号(個人情報)ただし書きに該当するためであった旨説明するとともに、異議申立人に対し訂正後の本件対象公文書を開示する旨の通知書を送付した。
(5) なお、本請求を行った開示請求者には、平成24年6月8日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで異議申立てに係る部分の開示を停止する旨の通知がなされているが、それ以外の部分については、平成24年6月13日に開示がなされている。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見書の提出及び意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
本件マニフェストのリストに記載された交付担当者氏名は、条例第7条第2号に規定する個人情報に該当する。
本件対象公文書の情報が開示され、万が一にもプライバシー侵害が発生した場合、その不利益を被るのは交付担当者である。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
本件対象公文書は、県が廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)第18条第1項の規定に基づき報告を求め、徴収した「マニフェストのリスト」である。マニフェストのリストとは、同法第14条第17項において準用する同法第7条第15項の規定に基づき、特定の事業者が産業廃棄物処分業者の帳簿として管理している書類であり、廃棄物処理法により記載が義務づけられている事項(「受入れ又は処分年月日」、「交付又は回付されたマニフェストごとのマニフェスト交付者の氏名又は名称、交付年月日及び交付番号」、「受入先ごとの受入量」、「処分方法ごとの処分量」、「処分後の産業廃棄物の持出先ごとの持出量」)の記載のほか、マニフェスト交付担当者の氏名及び収集運搬業者名がマニフェストから転記されている。
実施機関としては、対象公文書に記載されているマニフェスト交付担当者の氏名を開示決定したが、当該情報は個人が識別される情報であることから、条例第7条第2号本文に該当する。しかし、マニフェストの交付を担当した者の氏名は、廃棄物処理法施行規則第8条の21によりマニフェストへその記載が義務づけられているものであり、過去の情報公開審査会答申第367号において、「マニフェストにおいて排出事業者等の事業者名だけでなく、担当者名やその押印まで求められているのは、実際にその業務を担当する個人の記名押印により、当該個人本人がその業務を行ったことを書類上真正なものとして示すことで、産業廃棄物の排出から処分までの一連の過程における不適正処理を防止し、産業廃棄物の適正処理の実効性を確保しようとしているからと解され、マニフェストにおいて産業廃棄物が適正に処理されたかを検証しようとすれば、事業者名だけでは足りず、交付担当者を含む各担当者の氏名及び印影についても、その検証において必要不可欠な情報であり、条例第7条第2号に規定する個人に関する情報には該当するものの、マニフェストの記載内容を交付担当者の氏名も含めて開示することによる公益と、開示により侵害される個人の権利利益とを比較衡量すると、なお公益を保護することの必要性がプライバシー侵害による不利益を上回ると認められるので、条例第7条第2号ただし書きロに該当し、開示すべきものと考えるのが相当である」との見解が示されており、今回の対象公文書に記載されていた交付担当者の氏名もマニフェストに記載されていたものを単に帳簿へ転記されたものであるため、同様の性格を持つ情報と判断し、開示を決定した。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)本文の該当性について
本件対象公文書は、特定の事業者が提出したマニフェストのリストであり、当該リストに記載された交付担当者の氏名を開示することとした実施機関の決定について、異議申立てが提起されているものである。
当該情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報であることは明らかであり、本号本文に該当する。
(4) 条例第7条第2号(個人情報)ただし書ロの該当性について
廃棄物処理法は、廃棄物の排出の抑制、適正な再生、処分等を行い、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とした法律であるが(同法第1条)、廃棄物のうちでも、産業廃棄物は、排出量が多量で危険物等が含まれる場合があり、その不法投棄事件も発生していたこと等から、同法は、(ア)排出事業者に産業廃棄物の最終処理の責任を負わせ(同法第11条第1項)、(イ)排出事業者が産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、知事の許可を受けた事業者に委託する義務を課すとともに(同法第12条第3項ないし第5項)、(ウ)上記委託処理の適正を期すため、マニフェスト制度を設け、関係者にその交付・使用を義務づける(同法第12条の3)など、一般廃棄物(同法第2条第2項)とは異なる規制を行っている。
そして、マニフェスト制度は、排出事業者が産業廃棄物の処理を委託する際に、処理業者に対してマニフェストを交付し、処理終了後に処理業者からその旨を記載したマニフェストの写しの送付を受けることにより、委託した内容どおり産業廃棄物が処理されたことを確認する制度である。マニフェストには、排出事業者、運搬業者及び処理業者の氏名又は名称のみならず、管理票交付担当者氏名、運搬担当者氏名及び処分担当者氏名が必要的記載事項とされており(同法第12条の3、同法施行規則第8条の21、第8条の22、第8条の24)、実際の様式では各担当者について、氏名を記載した上で押印する欄が設けられている。
また、廃棄物処理法第14条第17項において準用する同法第7条第15項では、産業廃棄物処理業者に、産業廃棄物の受入れ又は処分年月日やマニフェストの交付者の氏名又は名称等、産業廃棄物の処分状況を正確に記載した帳簿の備え付けを義務づけている。
これらは、産業廃棄物の処理は社会にとって必要不可欠な事業であるが、何らの規制を加えることなく自由競争に委ねるならば、同事業が適正に行われない場合もあり得るものであり、県民等の健康、生活又は環境へ重大な影響を及ぼすなど、取り返しのつかない事態になるのを避けるため、廃棄物処理法で、排出事業者等の責任等を定め、マニフェスト及びマニフェスト制度等により産業廃棄物の適正処理の実効性を確保し、人の健康・生活等を保護することを目的として定められたものと解することができる。
一方、条例第7条第2号ただし書ロは、個人識別情報であっても「公益上公にすることが必要であると認められるもの」については公開の対象となる旨規定している。この規定は、個人識別情報であっても、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められるものがあるが、その場合には、公益とこれを公開されることによる個人のプライバシー侵害による不利益とを比較衡量した結果、なお公益の方が優越するとされたものを、条例第7条第2号の例外として公開の対象とする旨定めたものである。
この個人のプライバシーに関しては、同概念が未成熟で類型化することが困難であるため、識別可能なものを広く個人情報として、条例第7条第2号本文で保護の対象にしたものと解される。したがって、同規定に該当し保護される個人情報であっても、そこに内包されるプライバシーの中身によっては当該情報の要保護性の程度に差異が生じることとなる。
この点、条例第3条において「個人のプライバシーに関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない」と規定されていることに加え、特定の個人が識別され得るものを個人情報として原則非開示としている条例第7条第2号本文の規定からすると、実施機関が開示とした情報は識別性が高く、個人のプライバシー侵害が懸念されるとする異議申立人の主張も理解できないわけではない。
しかし、本件対象公文書に記載された交付担当者等の氏名は特定の個人を識別させることとなる情報そのものであるが、あくまで特定法人の一従業員としての氏名であり、個人の住所や電話番号等のように当該個人の私生活にわたる情報ではない。そして、開示により判明するのは、当該個人が当該法人の事業活動に関与していることが明らかになるに過ぎず、異議申立人が懸念するような当該個人のプライバシー侵害に対して高いがい然性が存するとまでは認められない。したがって、これらの情報は、個人情報として保護される情報の中でも、これに対する保護の要請が極めて高度であると評価することはできない。
その一方で、産業廃棄物は、排出量が多量で危険物等が含まれることがあり得るため、それらが不適切に処理された場合には、環境自体の汚染のほか、県民等の健康・生活等への影響や財産的価値の毀損等、地域的・時間的に非常に広範で、かつ深刻な悪影響を及ぼす可能性が認められる。また、このような環境等への悪影響は、現時点での産業廃棄物の処理状況から即座に判断できるとは限らず、相当期間の経過後に発覚することも想定され、一度発生すれば、事後的に原状回復することは困難で、多額の社会的費用等が必要な事態になることも考えられる。このように、産業廃棄物処理については、廃棄物処理法で各事業者の責任等を厳格に定めてはいるものの、その事業の一般的性質上、各事業者の運営状況等によっては、県民等の健康・生活等や自然環境等に重大な影響を及ぼす危険性があることを否定することができない。このことから、産業廃棄物一般について、その一連の処理状況をマニフェストにより検証することは、廃棄物処理法の目的に資するものであり、高い公益性を認めることができる。
そして、廃棄物処理法及び同法施行規則の規定から、マニフェストにおいて排出事業者等の事業者名だけでなく、担当者名まで求められているのは、実際にその業務を担当する個人の記名により、当該個人本人がその業務を行ったことを書類上真正なものとして示すことで、産業廃棄物の排出から処分までの一連の過程における不適正処理を防止し、産業廃棄物の適正処理の実効性を確保しようとしているからと解される。したがって、マニフェストにおいて産業廃棄物が適正に処理されたかを検証しようとすれば、事業者名だけでは足りず、交付担当者を含む各担当者の氏名についても、その検証において必要不可欠な情報であるといえる。
また、本件対象公文書は、廃棄物処理法の規定に基づき作成が義務づけられている帳簿であるが、法定の記載内容に加え、マニフェストの記載内容の一部である交付担当者の氏名が転記されているものである。この本件対象公文書に転記された交付担当者の氏名は、本来記載が義務づけられているものではないが、上記廃棄物処理法等の趣旨からすれば、その転記内容はマニフェストに記載された内容と同様に、産業廃棄物の処理状況の検証に必要な情報であると認められる。
以上から、本件対象公文書であるマニフェストのリストについては、廃棄物処理法及びマニフェスト制度の趣旨や制定経緯、産業廃棄物処理業に内在する社会的責任、社会情勢等に照らして総合的に勘案すると、マニフェストから転記された内容である交付担当者の氏名を開示することによる公益と、開示により侵害される個人の権利利益とを比較衡量すると、なお公益を保護することの必要性がプライバシー侵害による不利益を上回ると認められるので、条例第7条第2号ただし書ロに該当し、開示すべきものと考えるのが相当である。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の判断は上記のとおりであるが、本件事案については実施機関の事務処理に不適切な点が見受けられることから、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は、本件対象公文書に記載される交付担当者の氏名について、その所属する法人に対してのみ意見照会を行い、さらに、反対の意見書を提出した法人に対し、条例第7条第3号ただし書きに該当するとの理由で開示する旨の通知を行っている。そして、異議申立てを行わなかった交付担当者については、すでに開示請求者にその氏名を開示している。
この点について、実施機関は、本来、法人を通じて当該交付担当者個人に意見照会を行うべきであって、開示するとした場合も、条例第7条第2号ただし書きに該当するとの理由にすべきであったことを認めており、これらの実施機関の事務処理は慎重さを欠くものであるといわざるを得ない。特に、一部の交付担当者については、条例上、第三者照会の手続や開示した旨の通知が義務づけられているにもかかわらず、それを適切に行わず、結果として異議申立ての機会を付与することなく開示を行ってしまったことは誠に遺憾である。
開示請求の対象となった公文書に第三者に関する情報が記載されているときには、第三者の権利利益を保護するため条例の規定に従い適正に手続を進めることはいうまでもないことであり、実施機関においては、今後同様のことがないよう正確、慎重な運用に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 7. 2 | ・諮問書の受理 |
24. 7. 3 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 7.19 | ・理由説明書の受理 |
24. 7.24 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 8.24 |
・書面審理 (平成24年度第4回B部会) |
24. 9.21 |
・審議 (平成24年度第5回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |