三重県情報公開審査会 答申第381号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年4月6日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「1.特定の事業者の排水処理施設の撤去工事に関する全ての文書。2.特定の事業者の特定工場におけるコンガラ・アスガラの保管状態に対する改善指導について分かる文書の全て。」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年4月19日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、開示請求時点より後に作成又は取得した公文書の開示を求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
この特定の事業者の排水処理施設の撤去工事に関しては、自ら現場を確認し、実施機関に通報を行っており、その通報に基づく指導状況等を確認するために、開示請求を行ったものである。
このような背景から、請求の目的は明らかであり、開示請求を行った時点において、実施機関は開示決定の期限までに発生すると思われる文書を想定できたはずである。
それにも関わらず、開示請求日以後に取得又は作成した公文書を、「開示請求時点において、担当課(所)が保有しているものを公文書とする」と定める事務取扱要領を盾に開示しなかったことは、実施機関が恣意的に限定された範囲でのみ開示を行うものであり、一連の請求を行ってきた経緯からも事案の完結を求める目的に反し、決定権者の不作為の違法に他ならない。
したがって、実施機関は、開示請求に対応する文書の特定を誤っているというべきであり、決定日までに取得又は作成した公文書についても特定した上で開示すべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 実施機関が特定した公文書は、開示請求時点で実施機関で保有しているものであり、これは、条例第2条第2項の「解釈及び運用」や「情報公開事務取扱要領」等において、「開示請求時点において、担当課(所)が保有しているものを公文書としている」と記載されているためである。したがって、開示請求時点より後に実施機関が保有することとなった公文書については、今回の公文書として特定しないことが適当であると判断した。
(2) 異議申立人の申立てのとおり、開示請求時点より後に保有することとなった公文書を特定することができるとする運用がなされた場合、開示決定日までに保有することとなった公文書(以下「該当文書」という。)を特定するにあたって、部分開示又は非開示の判断並びに第三者照会の要否の判断をする必要が生じ、該当文書の多寡によっては、開示決定期限の延長(条例第13条)又は特例延長(条例第14条)をせざるを得ない場合も発生しうる。このことは、速やかな決定をすべきとする制度(条例)の趣旨を妨げることとなり、ひいては、請求者の権利を却って侵害するものと思料される。
(3) 前記、事務取扱要領等の規定は、実施機関が速やかな開示をするための事務処理を行う上で、必要かつ妥当なものであると考えられる。前記規定どおりの運用をした場合に特定から外れた文書については、決定後改めて開示請求すれば何ら問題は発生しない。実際に、本決定に基づく開示を行った際には、開示請求後に新たな公文書を作成したことや、第三者情報が含まれるため即日開示はできないものの再度請求してもらえれば対応可能である旨異議申立人には十分な説明を行っている。
(4) なお、例外的に該当文書を特定できるように要領、運用等を変更する場合、例外的取扱いをする場合の具体的な目安が提示されない限り、実施機関の判断において、第三者の権利の保護や請求者に対する不公平な取扱いといった点で混乱が生じることが懸念される。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本決定の妥当性について
本決定で実施機関が特定した公文書は、実施機関が開示請求時点で保有していた特定の事業者に関する「業務報告書」及び「監視日報」である。そして、実施機関が当審査会に提出した資料を見分したところ、開示請求を受けてから開示決定を行うまでの期間内に、新たな「業務報告書」を作成していることが確認できた。
そこで、開示請求時点より後に作成した当該業務報告書を本決定の対象公文書として特定しなかった実施機関の判断の妥当性について、以下検討を行う。
条例は、特定の対象となる公文書が請求の時点で存在するものなのか、あるいは決定の時点で存在するものなのかについて、明文で定めているわけではない。
しかし、条例第2条第2項において、公文書を「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているもの」と定義し、同第5条において、「何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、当該実施機関の保有する公文書の開示を請求することができる」と定め、同第7条では、「実施機関は、開示請求があったときは、・・・開示請求者に対し、当該公文書を開示しなければならない」と定めている。
これらの規定を合理的に解釈すれば、条例は、現時点で保有しているものを「公文書」と定めた上で、開示請求の対象となるのは請求の時点で実施機関が保有する公文書であり、実施機関はその請求の時点で保有する公文書を開示する、すなわち、請求時点で実施機関が保有する公文書をあるがままに開示することを想定しているものと解される。
この点、異議申立人は、請求内容やその目的、背景等から、請求時点において、実施機関が開示決定期限までに作成又は取得することが予定される文書については、特定した上で対象公文書に含めるべきであると主張している。
確かに、請求時点に予見が可能であれば、決定時点に存在すると思われる公文書も例外的に特定に加えるべきであるという考えは、開示請求者の利便性の確保という観点からも理解できなくはない。
しかしながら、請求時点より後に保有することとなった公文書も特定することは、開示決定の期限までに公文書を作成又は取得する都度、当該公文書の開示の可否の判断や第三者照会等の手続等を要することになり、結果として決定を遅延させるおそれを生じさせるなど、運用上の安定性を欠くものといわざるを得ない。
したがって、開示請求がなされた時点を一つの区切りとして、その時点で存在する公文書を対象とするという運用は、条例の趣旨を逸脱するものではなく、当該運用に基づき実施機関が行った本決定は、妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 5. 9 | ・諮問書の受理 |
24. 5.10 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 5.25 | ・理由説明書の受理 |
24. 6.11 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 8.24 |
・書面審理 (平成24年度第4回B部会) |
24. 9.21 |
・審議 (平成24年度第5回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |