三重県情報公開審査会 答申第380号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年3月21日付け及び同年4月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の事業者3者の建築士事務所登録申請に関する全ての文書」についての開示請求に対し三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年3月29日付け及び同年4月6日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)を取消し、開示請求に係る文書の特定を求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
建築士法に基づく建築士事務所登録申請の開示を求めたにも関わらず、審査内容や過程の不明な「登録内容」のみを開示したことは、当該審査の適正を県民がチェックする機会を奪うものであり、建築士制度の根幹を毀損するもので容認できない。
また、実施機関は、建築士事務所登録等の業務を民間に委託しており、建築士事務所登録申請書は取得していないと主張しているが、仮にそうであったとしても、当該業務の履行の確認は行っているはずであり、登録申請に関し、何らかの書類は取得しているはずである。
したがって、実施機関は、開示請求に対応する文書の特定を誤っているというべきであり、建築士事務所登録申請に係る文書若しくは建築士事務所登録業務の履行確認に係る文書を再度特定して開示すべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
建築士事務所の登録等の実施に関する事務は、都道府県知事の事務であるが、実施機関においては、建築士法第26条の3第1項の規定に基づき、平成22年1月22日付けで社団法人三重県建築士事務所協会(以下「事務所協会」という。)を指定事務所登録機関に指定し、平成22年4月1日から事務所協会において、当該登録事務などを実施している。また、その登録された内容は、「建築士事務所登録内容」として事務所協会及び実施機関において一般の閲覧に供している。
本件異議申立てに係る公文書開示請求において、異議申立人が請求した3つの建築士事務所に関する登録内容及び審査書類に係る公文書は、事務所協会で保存されているため、実施機関としては保有しておらず、「建築士事務所登録内容」だけを公文書として特定し、開示決定を行った。
なお、事務所協会からは四半期毎に業務報告を受けているが、その内容としては、建築士事務所からの申請状況等の一覧であり、今回開示した「建築士事務所登録内容」以上の情報は含まれていないことから、開示の対象には含めていない。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本決定の妥当性について
本決定で実施機関が特定した公文書は、特定の事業者に係る「建築士事務所登録内容」であるが、本件異議申立ての対象となっている文書は、建築士法の規定に基づき、特定の事業者から提出された「建築士事務所登録申請書及び添付書類(以下「本件請求文書1」という。)」及び「建築士事務所登録業務に係る履行確認文書(以下「本件請求文書2」という。)」である。
本決定について、異議申立人は、公文書の特定が不十分であり、本件請求文書1ないしは2を開示すべきと主張している。
そこで、これらの書類が不存在であるとして本決定を行った実施機関の判断の妥当性について、以下検討する。
ア 本件請求文書1について
条例第2条第2項において、「『公文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものをいう。」と定められている。
この点、実施機関は、本件請求文書1は事務所協会で保存されており、実施機関としては保有していないため、条例第2条第2項の「公文書」にはあたらないと主張する。
この事務所協会の位置づけについては、建築士法第26条の3第1項で、「都道府県知事は、その指定する者(以下「指定事務所登録機関」という。)に、建築士事務所の登録の実施に関する事務並びに登録簿及び同法第23条の9第3号に掲げる書類を一般の閲覧に供する事務(以下「事務所登録等事務」という。)を行わせることが出来る。」と定められていることから、実施機関において平成22年4月から事務所協会を指定事務所登録機関として、事務所登録等事務を行わせていることが認められる。
ところで、この建築士法に基づき指定事務所登録機関に事務所登録等事務を行わせる行為は、一般に行政機関が行政主体以外の私人に権限の委任を行うことにより、行政事務を代行させる行為と解される。そのため、行政機関が有していた権限は、委任により受任者に移り、受任者は自己の名において当該権限を行使することとなる。
そうすると、本件において、実施機関が事務所協会を指定事務所登録機関として指定したことにより、事務所登録等事務は、実施機関ではなく、事務所協会がその名において行っているものと考えられる。
そして、本件請求文書1は、事務所協会が受任された権限に基づき、事務所登録等事務を遂行する際に取得するものであり、事務所協会による審査を経た後に事務所協会において保管されるものであると認められる。また、本件請求文書1を実施機関では保有していないとの実施機関の説明に特段不自然な点は認められない。
したがって、本件請求文書1は条例第2条第2項の「公文書」に該当するとはいえず、本件請求文書1は保有していないとする実施機関の判断は、妥当である。
イ 本件請求文書2について
異議申立人は、事務所登録事務を事務所協会に行わせるにあたり、当該業務の履行の確認は行っているはずであり、登録申請に関し、何らかの書類は取得しているはずであると主張する。
この点について、建築士法に基づく中央指定登録機関等に関する省令第18条第1項において、指定事務所登録機関は、事業年度の各四半期の経過後遅滞なく、当該四半期における建築士事務所の登録等の件数及び当該四半期の末日における建築士事務所の数を記載した報告書を都道府県知事に提出することとされている。また、同条第2項において、当該報告書には、登録簿の登録事項を記載した登録事務所一覧表を添付しなければならないと規定されている。
そして、実施機関によれば、これらの規定に基づき、四半期毎に建築士事務所の申請状況を含んだ上記報告書及び登録事務所一覧表が、事務所協会から実際に提出されているとのことである。
この報告書自体については、上記省令の規定及び実施機関の説明によれば、建築士事務所の申請等の状況や件数等を一覧で報告するものであり、個々の申請等に関する詳細が記載されるものではないことが推認できる。他方で、登録事務所一覧表で記載される登録簿の登録事項は、建築士法第23条の9で一般の閲覧に供する対象となるものであり、本決定で実施機関が特定した建築士事務所登録内容に他ならないものと認められる。
したがって、実施機関が、本請求に対し指定事務所登録機関から実施機関に提出される報告書に添付された建築士事務所の登録内容を対象公文書として特定したことは妥当であり、報告書自体をその対象にはしなかった判断は不当・不合理であるとまではいえない。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
事務所登録等事務は、従来実施機関によって行われてきた事務であるが、当該事務が事務所協会に移行したことに伴い、本件請求文書1の「公文書」該当性を否定せざるを得なくなったことは前述のとおりである。
また、条例第47条及び第47条の2においては、県の出資法人等や県が設置する公の施設の管理を行う指定管理者について、条例の趣旨に則り情報の公開に関し必要な措置を講ずるよう努力義務が課されている。しかし、本件における事務所協会のように、特別の法律に基づき特定の業務を行うものとして行政庁により指定された法人については、それだけでは県の出資法人等や指定管理者に該当するわけではない。
そのため、現状として、本件請求文書1は、実施機関及び事務所協会の双方において、県民がその公開を請求したとしても、当該文書の開示が担保されていないことになる。
しかしながら、本件における事務所協会は、行政事務を代行するというその性質上、出資法人や指定管理者等と同様に高い透明性が求められるのも事実であり、従前よりも透明性が低下することは条例の趣旨に照らしても望ましいことではない。
したがって、実施機関においては、条例の趣旨に則り、開示請求者の意図を確認した上で、必要性が認められる場合には、事務所協会から本件請求文書を取寄せ、「公文書」として取得したり、情報提供により対応するなどにより、県民への説明責任を果たすことが望まれる。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 4.26 | ・諮問書の受理 |
24. 5. 2 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 5.11 | ・理由説明書の受理 |
24. 6.11 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 7.27 |
・書面審理 (平成24年度第3回B部会) |
24. 8.24 |
・審議 (平成24年度第4回B部会) |
24. 9.21 |
・審議 (平成24年度第5回B部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療・蜉w副学長 |
委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |