三重県情報公開審査会 答申第378号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書の存否を明らかにしない決定を取り消し、対象公文書を特定し改めて開示・非開示等の決定を行うべきであるが、その余の判断については、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年3月7日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の不動産業者に対して寄せられたクレーム等又は法律違反等の情報」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年3月16日付けで行った公文書の不存在決定(以下「本決定1」という。)並びに公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定2」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、次のとおりである。
「当該文書は作成していないため存在しません」と決定したり、「存否応答拒否」の決定をしたりと、全く自己矛盾をしている。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本請求は、特定法人に対してのクレーム等又は法律違反等の開示を求めた請求である。
宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」という。)に基づく監督処分については、同法第70条に基づきその旨を公告しなければならず、また、実施機関においては、インターネット上の国土交通省ネガティブ情報等検索システムを通じて、同法に基づく監督処分を公表している。
本請求にかかる当該法人については、監督処分歴がないことから、当該公文書を作成していないため、不存在の決定を行ったものである。
公表している監督処分以外のクレームや法律違反の情報について、当該公文書の存否を答えるだけで、特定の法人が何らかの違反を行った可能性を知らしめるなど、法人の競争上の地位又は正当な利益を害するおそれがあるため、存否応答拒否の決定を行ったものである。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 不存在決定について
実施機関は、本請求に対し、宅建業法上の監督処分に係る公文書を請求対象として判断し、本請求に係る特定法人については、宅建業法上の監督処分歴がないことを確認した上で、本決定1の判断を行ったものである。
当審査会で提出された理由書及び実施機関の補足説明から判断したところ、不存在であるとする実施機関の説明は何ら不自然ではなく、他にその存在を推認させる証拠もない。
以上のことから、本件対象公文書が存在すると認める理由はなく、不存在を理由とした本決定1は妥当であると認められる。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。
そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
この考え方に基づき、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
(4)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
本請求は、特定法人に対して実施機関に寄せられたクレーム等又は法律違反の情報を求めているものである。
実施機関は、この請求に対して公文書の存否を明らかにすることは、特定法人が何らかの違反を行った可能性を知らしめるなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害することとなるとして、条例第7条第3号に掲げる非開示情報を開示することとなると主張している。
そこで、本請求について、公文書の存否を応答するだけで、特定の法人が競争上不利益を受ける可能性があるか否かを検討する。
一般的に企業が事業活動を行う上で不特定多数の者から何らかの苦情が寄せられることは容易に想定でき、その内容の真偽は別として、実施機関に苦情が寄せられたことだけで、直ちに当該事業者が何らかの違反をしたものとみなされるものではない。
また、実施機関に寄せられる宅建業法にかかるクレームは恒常的に多数寄せられており、このような業種の場合には、特定の法人に対するクレームに関する情報の存否を明らかにするだけで、直ちに当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとまではいえない。
さらに、上記事情は相当広く周知されているものといえ、クレーム情報があるというだけで、当該法人に競争上の不利益が及ぶとまではいえない。
よって、実施機関は本決定2を取り消し、改めて開示・非開示等の決定を行うべきである。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 4.16 | ・諮問書の受理 |
24. 4.19 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 4.26 | ・理由説明書の受理 |
24. 5. 2 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 7.31 |
・書面審理 (平成24年度第3回A部会) |
24. 9. 6 |
・審議 (平成24年度第4回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 | 川村 隆子 |
名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |