三重県情報公開審査会 答申第376号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年1月20日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「伊勢庁舎建設工事に係る周辺への影響と補償額」についての開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成24年2月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定の建設工事における土地の取得及びこれらに伴う損失の補償を行うに当たり、県と特定個人及び特定法人との土地売買及び損失補償契約に関して作成された13件の「損失補償評価算定書」、「物件移転補償契約書」である。
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
工事による第三者損害を請負契約によらず、公共補償によって行ったとするなら公契約であり、契約内容は全面開示が妥当である。部分開示としたことは違法不当であり、発注者三重県知事の違法な契約、公金支出を覆い隠そうとするもので容認できない。通常、詳細な金額や計算などは秘匿されているが、項目は全て開示である。県は項目すら明らかにしていない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本件対象公文書における補償額については、公にされている情報ではなく、個人に支払った建物・工作物・動産等の補償金額は、その情報を公にすることで、特定の個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあると判断したため当該情報については、非開示とした。
また、同様に法人に支払った建物・工作物・動産等の補償金額は、その情報を公にすることで、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため当該情報については、非開示とした。
6 審査会の判断
実施機関は、本件対象公文書については、条例第7条第2号(個人情報)及び同条第3号(法人情報)に該当すると説明するので、以下、これらの部分の非開示情報該当性について検討する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書である「損失補償評価算定書」には、(1)損失補償総額、(2)所有者の住所・氏名、(3)建物等の概要(構造、経過年数等)、(4)間取図・平面図・立面図・求積図、(5)建物移転料計算書(建物の仕様、数量、単価等)の情報が記録されている。
当該報告書は、建物等について調査した結果をまとめたものであるが、報告書の所有者の氏名欄には個人の氏名が記載されており、このような報告書は、全体として当該各建物等の所有者の個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができる情報であることから、条例第7条第2号本文に該当すると認められる。
建物については,所有状況が不動産登記簿に登記されて公示されるものの、地権者がどのような工作物、動産、植栽等を有するかについては、公示されているものではない。また、必ずしも一般人の目に触れるものではなく、外部から観察することができるにとどまり、建物の内部の構造、使用資材、施工態様、損耗の状況等の詳細を知ることができない。特に、建物等の内部(間取り、各部屋の状況等)は、当該建物等の所有者にとって私生活に密接に関連する極めて機微な情報と考えられ、個人が識別される状況で公にすれば、当該建物等の所有者の権利利益が著しく害されるおそれがあると認められる。
このような建物等の所有者の個人に関する情報は「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」とは認められないことから、条例第7条第2号ただし書イには該当せず、その内容及び性質から、同号ただし書ロにも該当しない。
以上のことから、本件対象公文書は、条例第7条第2号に該当し、同号ただし書イ又はロの情報には該当するとは認められないことから、非開示としたことは妥当である。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書のうち、法人所有の物件について検討する。実施機関は、補償額の公表について、最高裁判所平成17年7月15日判決(平成15年(行ヒ)第250号。以下「最高裁判決1」)を引用し、補償の内容については、非開示である旨主張している。
しかしながら、最高裁判決1は、個人に関する補償についての判断であり、法人所有の場合は、最高裁判所平成17年10月11日判決(平成15年(行ヒ)第295号。以下「最高裁判決2」)において、「当該法人地権者の資金の全容を示すものではなく、県において定められた損失補償基準に従って算出された補償価格が当該法人地権者に支払われたことに関する情報が開示されても、直ちにその競争上の地位又は事業運営上の地位、社会的信用その他正当な利益が損なわれるとはいい難い。」とするとともに、「今後の県の用地買収事務の円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるとはいい難く」として開示すべき旨判示している。
上記最高裁判決2を踏まえ、本件について検討すると、対象公文書は、法人所有の建築物についての補償契約であり、県の損失補償基準に従って算出された補償価格が支払われたことに関する情報が開示されたからといって、直ちに当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとする特段の事情までは認められず、その補償額が明らかになったとしても法人の権利利益が害されるおそれはないことから、条例7条第3号に該当するとは認められない。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 3. 9 | ・諮問書の受理 |
24. 3.14 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 3.23 | ・理由説明書の受理 |
24. 3.26 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 5.15 |
・書面審理 (第374回審査会) |
24. 7.31 |
・審議 (平成24年度第3回A部会) |
24. 9. 6 |
・審議 (平成24年度第4回A部会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
早川 忠宏 |
三重弁護士会推薦弁護士 (平成24年6月12日まで会長職務代理者、同日から現職) |
※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 (平成24年5月31日まで) |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
会長職務代理者 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
※委員 |
岩﨑 恭彦 |
三重大学人文学部准教授 (平成24年6月1日から) |
委員 | 川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |