三重県情報公開審査会 答申第373号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成24年1月20日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「高校の諸費用(生徒の保護者から徴収するもの全部)について、年度別、学校別の経理記録3年分」についての開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成24年2月2日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、以下の書類である。
(1) 平成20年度PTA費等調査の結果について(伺い)
(2) 平成21年度PTA費等調査の結果について(伺い)
(3) 平成22年度県立学校PTA費等調査の結果について(供覧)
(4) 平成22年度PTA費等調査の結果について(伺い)
4 異議申立ての理由
異議申立書及び意見陳述における異議申立人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
実施機関は、本件対象公文書において、県立高校のPTAが雇用する公費外職員の氏名及び賃金等を非開示としているが、PTA職員は通常「みなし公務員」とされることから、条例第7条第2号の個人情報としての除外適用を受けないことは明らかである。
仮に、PTA職員が法令上の「みなし公務員」に当たらなかったとしても、PTA職員は学校を勤務場所として学校職員とともに勤務しているという実態があり、さらにはPTAに係る業務だけでなく公務も分掌している可能性もある。そうした実態からすれば、PTA職員は外から見れば公務員であると理解されて当然であり、「みなし公務員」と同等に捉えるべきである。
したがって、実施機関は本決定を取消し、非開示部分を開示すべきである。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本件対象公文書は、平成20年度から平成22年度までのPTA費等調査の結果にかかる文書であり、各県立高校から提出されたものである。この中で非開示としたのは、PTA職員など県職員以外の個人の氏名、年齢、給与単価(月額又は日額)、給料決算額、職員手当決算額、賃金決算額、支給総額(給料、職員手当等及び賃金の合計)及びこれらの給料等の額が類推できる部分であり、いずれも条例第7条第2号に該当するとして非開示とした。
異議申立人の主張する「みなし公務員」とは、本来公務員ではない独立行政法人や特殊法人の職員が、非常に公共性の高い事務事業に従事することから、個別の独立行政法人設置法に、いわゆる「みなし公務員」規定を設け、公務員と同じ罰則を科していることに由来して、独立行政法人や特殊法人の職員を指して使われている用語である。しかし、本県の県立学校においては、このような形態をとるPTAは存在せず、PTAが雇用する職員は「みなし公務員」には該当しない。よって、PTAに雇用された職員の氏名、賃金、給与等の情報は条例第7条第2号の個人情報に該当し非開示とすることが相当である。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書は、県内の各県立学校から実施機関へ提出されたPTA費等調査に係る学校別の調査票であり、PTA費、生徒会費及び学校預り金などのいわゆる「県費外会計」の徴収状況や決算状況等が記載されているものである。
そして、実施機関は、これらの調査票への記載に含まれる、PTAが雇用する職員等の個人(以下「PTA雇用職員等」という。)の氏名、年齢、給料等(以下「本件非開示情報」という。)を非開示としている。
異議申立人は、PTA雇用職員等は、その業務実態から公務員と同種とみなすことができるため、本件非開示情報は条例第7条第2号で個人に関する情報から除外される「公務員等の職務に関する情報」に該当すると主張する。
一方、実施機関は、PTA雇用職員等は、PTA等の任意団体に雇用される職員に過ぎず、本件非開示情報は「公務員等の職務に関する情報」には該当しないと主張する。
確かに、PTA雇用職員等が各県立学校内で勤務しているという実態や、PTA等の活動が学校教育と密接に関わっているという観点からすれば、PTA等の組織自体にも高い公共性を認めることができ、PTA雇用職員等が公務員と同視できるとする異議申立人の主張も理解できなくはない。
しかしながら、条例第7条第2号は、「公務員等の職務に関する情報」のうち「公務員等」の定義として、国家公務員、独立行政法人等の役員及び職員、地方公務員並びに地方独立行政法人の役員及び職員に限定列挙している。そして、PTA雇用職員等は実施機関の主張するようにPTA等の任意団体に雇用され専らPTA等の業務に従事する職員であることからすれば、これらのいずれにも該当しないことは明らかであり、本件非開示情報を「公務員等の職務に関する情報」と解することはできない。
したがって、本件非開示情報は、条例第7条第2号本文の個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものに該当し、同号ただし書のいずれにも該当しないことから、当該情報を非開示とした実施機関の決定は、妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
24. 2.22 | ・諮問書の受理 |
24. 2.23 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 2.29 | ・理由説明書の受理 |
24. 3. 1 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 3.30 |
・書面審理 (第371回審査会) |
24. 4.20 |
・異議申立人の口頭意見陳述 (第373回審査会) |
24. 5.18 |
・審議 (第375回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 |
※委員 |
川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 |
樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |