三重県情報公開審査会 答申第372号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成23年10月18日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の建設工事に関する全ての文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成23年10月31日付けで行った公文書部分開示決定のうち、検査復命書に係る工事成績調書の評定点及び工事成績採点表を非開示とした部分(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、実施機関が保有している復命書(平成19年9月26日、平成22年3月29日、平成22年7月15日、平成23年3月15日及び平成23年8月23日)の次の公文書である。
(1) 工事成績調書
(2) 工事成績採点表
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
発注者の三重県がどのような検査を行ったか証拠書類等で検証するために工事検査記録の開示を求めたものである。工事検査結果の全ての情報は、契約における取得物件の品質に直結するものであり、契約相手方の評価に結びつくものであるから、透明性の確保が図られなければならない。
5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
県が発注する建設工事は、請負業者の施工状況や工事目的物の品質等を確認し、その結果に基づき工事の成績評定を行っており、本決定において部分開示とした工事成績調書及び工事成績採点表は、「工事成績点(評定点)」及び「考査項目ごとの評定結果」等を示す書類である。当該調書等の記載事項のうち、「考査項目ごとの評定結果」は工事成績点を算出する過程で行うもので、請負業者の技術力、ノウハウ等に関わる以下の項目ごとに5段階で評価される。
① 当該工事に従事した技術者等の能力に係る事項や創意工夫
② 当該工事における施工管理、工程管理、安全対策及び対外調整を適切に行うために請負業者が採った手法や取組実績等
③ 工事の出来形、品質、出来ばえを確保、向上させるために請負業者が採った手法や取組実績
④ 当該工事に取り入れた高度技術や創意工夫、地域社会への貢献等
以上の考査項目ごとの評定結果は、請負業者の技術水準を示す資料であり、これを全て開示すれば、企業努力で培った優れた技術、管理手法、高度技術等に係る技術情報が明らかとなり、その結果として企業努力によって技術力を向上させてきた請負業者ほど、入札等における競争上の不利益を被ることとなる。
以上のことから、工事成績調書及び工事成績採点表の内容を開示することにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、条例第7条第3号に該当すると判断し、部分開示としたものである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活若しくは環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示とした部分は、特定の建設工事に係る年度途中出来高検査及び完成検査を実施した復命書に添付の「工事成績調書」及び「工事成績採点表」に記載されている「工事成績点(評定点)」及び「考査項目ごとの評定結果」である。
実施機関は、工事成績調書及び工事成績採点表に示された考査項目ごとの評定結果は、請負業者の技術的水準を示す資料であり、開示することにより、競争上の不利益を被ることとなり本号本文に該当すると主張する。
確かに、工事成績採点表の考査項目のうち、「創意工夫」の項目については、請負業者が行った工事に対するその企業独自のノウハウ等が評価されているものであり、これを公にすることにより、当該成績採点表と公開対象となる工事の成果品を照合することにより、高く評価された創意工夫が明らかとなり、創意工夫をした企業の競争上の地位が害される可能性を否定できない。
また、「法令遵守等」の項目については、企業の社会的評価に直接関係する情報であって、一般に公にされている情報ではなく、これを公にすることにより、当該企業の正当な利益を害すると認められる。
しかしながら、工事成績採点表の考査項目のうち、「施工体制」「施工状況」「出来形及び出来ばえ」「高度技術及び社会性」等の項目については、特に法人の競争上の地位、その他正当な利益に関する情報を含むものとはいえず、また、あらかじめ公表された評価対象項目に対して、該当の有無を明示する形で評価を行っており、これを公にしても、法人の競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められない。
なお、実施機関は補足説明において、工事成績に係る評価部分については、条例第7条第6号の事務事業情報にも該当すると主張している。
しかしながら、本条例は公文書の開示義務を原則として、一部でも開示しないときは、「書面により」根拠規定も明示した理由を記載しなければならないとされていることからすると、異議申立人の意見に対する補足説明の段階で、実施機関の非開示理由の追加を認めることは、異議申立人の反論の機会を奪う結果になり、原則として許されないというべきである。
また、本件で追加する非開示理由が条例第7条第6号であり、これを開示することによる実施機関以外の第三者の利益を不当に害するというおそれもないため、再度異議申立人に反論の機会を与えてまで、例外的に非開示理由の追加を許容すべき事案ではないと考えられる。
よって、条例第7条第6号の事務事業情報については、判断しないものとする。
以上のことから、工事成績採点表の考査項目のうち、「創意工夫」及び「法令遵守等」の項目以外については、開示すべきである。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
23. 12.13 | ・諮問書の受理 |
23. 12.14 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
24. 1.12 | ・理由説明書の受理 |
24. 1.13 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
24. 2.21 |
・書面審理 (第368回審査会) |
24. 3.13 |
・審議 (第370回審査会) |
24. 4.17 |
・審議 (第372回審査会) |
24. 5.15 |
・審議 (第374回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 |
委員 |
川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 |
樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |