三重県情報公開審査会 答申第370号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成23年10月7日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県消費生活条例(以下「消費生活条例」という。)第44条第2項の規定に基づき適切な措置をとることを求めたことに対して、三重県が行ったことに関する文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成23年10月20日付けで行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
本請求は、消費生活条例第44条第2項に基づき、消費者の権利が不当に侵されている事案に対し、適切な措置をとるよう知事へ申し出た結果を確認するために請求したものである。
消費生活条例において知事は、申し出があったときは、必要な調査を行い、その申し出に理由があると認めるときは、適切な措置をとるものとしている。
しかしながら実施機関は、異議申立人の申し出に対し、適切な調査及びこれに基づく適切な是正措置をとらずに放置しており、自らの怠慢行政を隠蔽するための方便に、存否を明らかにしない決定を行ったものである。
また、異議申立人が実施機関に対し行った同種事案の開示請求において当該情報は開示されたこととの対比においても、均衡のとれていない違法な決定である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本請求は、特定個人から特定法人に対しての消費生活条例第44条第2項の規定に基づき適切な措置をとるよう求めたことに対する実施機関が行った措置について開示を求めた請求である。
個人を特定した請求のため、開示又は非開示若しくは不存在と回答するだけで非開示情報である個人情報を開示することとなり、また、特定の法人が消費生活条例に関して何らかの義務違反をしている可能性についても知らしめ、特定の法人の競争上の地位その他正当な利益が害されることとなると判断したため、存否を明らかにしない決定を行ったものである。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。
そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
この考え方に基づき、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性 について
本請求は、特定個人の代理人である異議申立人が、特定法人に対して適切な措置を求めたことに対して、実施機関が行ったことがわかる一切の情報を求めているものである。
実施機関は、この請求に対して公文書の存否を明らかにすることは、特定個人が特定の代理人又は法人との間に契約を締結した事実を類推させるだけでなく、特定の法人が消費生活条例に関して何らかの義務違反をしている可能性についても知らしめることとなり、条例第7条第2号及び第3号に掲げる非開示情報を開示することとなると主張している。
一方、異議申立人は、申し出に対する適切な調査及び是正措置を行わなかった怠慢行政を隠蔽するための方便であり、実施機関に対する同種事案において開示されたことと対比しても均衡がとれていないと主張している。
そこで、本件公文書の存否を応答することが、非開示情報である2号(個人情報)又は3号(法人情報)を開示することと同じことになるのか否か、検討する。
本件請求は、実施機関に対する申出人を特定して、その開示を求めている。かかる請求について、公文書の存否を答えることは、特定の個人が消費生活条例に基づく申し出を行ったこと、また特定個人と特定法人との関係についての情報を答えることとなる。
当該事実の有無は、条例第7条第2号本文に規定する個人に関する情報であって特定の個人を識別することができるものであり、例外的開示を定めた同号但書のいずれにも該当しないと判断される。
したがって、実施機関が当該文書の存否を答えるだけで、条例第7条第2号に規定する非開示情報を開示することとなるため、条例第11条の規定に基づき当該公文書の存否を示さないで非開示としたことは妥当である。
次に本請求について、公文書の存否を応答するだけで、特定の法人が競争上不利益を受ける可能性があるか否かを検討する。
一般的に企業が事業活動を行ううえで不特定多数のものから何らかの苦情が寄せられることは容易に想定でき、その内容の真偽は別として、実施機関に苦情が寄せられたことだけで、直ちに当該事業者が何らかの違反をしたものとみなされるものではない。
一方、消費生活条例第44条第2項の申し出を受けた場合、消費生活条例では、必要な調査を行うこととなっている。
そのため、申し出を受け、調査を行ったからといって、特定の法人が何らかの義務違反をしているとはいえない。しかしながら、上記申し出に対し、調査することは、申し出に相当な理由があると実施機関が判断したものと一般に理解されることが多い。したがって実施機関が行った調査の存在が明らかになることで、当該法人が消費生活条例に関して何らかの義務違反が疑われる可能性を否定できず、当該法人の社会的評価の低下を招き、取引しようとする相手が、取引を回避又は、警戒することが予想されるなど、法人の事業活動に支障を及ぼす恐れがあると認められる。
これらのことから、条例第7条第3号に該当する非開示情報を開示することと同じ結果になるとして、当該公文書の存否を示さないで非開示としたことは、不合理とまではいえない。
よって、実施機関の本決定は妥当であると判断する。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
今回の決定については、請求内容をあまりにも形式的に判断・処理しており、異議申立人が主張するように怠慢行政を隠蔽するためと指摘されてもしかたがないものと思われる。
請求された時点において、請求内容の補正で対応できないか、保有個人情報の開示請求など他の方法がなかったか検討し、異議申立人に対しより適切な方法を示すことで、対応可能ではなかったかと推認する。
また、本件事案は、異議申立人が実施機関に対して消費生活条例に基づく申し出をしており、条例上何ら回答義務が規定されていないとはいえ、申し出に対する対応状況を回答すべきであり、行政の説明責任の観点からも問題があったと言わざるを得ない。
今後は、同様のことがないよう真摯に対応するよう努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
23. 11. 10 | ・諮問書の受理 |
23. 11. 11 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
23. 11. 17 | ・理由説明書の受理 |
23. 11. 18 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
23. 12. 9 | ・意見書の受理 |
23. 12. 13 |
・書面審理 (第365回審査会) |
24. 1. 24 |
・審議 (第366回審査会) |
24. 2. 21 |
・審議 (第368回審査会) |
24. 3. 13 |
・審議 (第370回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 |
委員 |
川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
※委員 |
樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
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