三重県情報公開審査会 答申第368号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書の存否を明らかにしない決定についてはその決定を取り消し、対象公文書を特定し改めて決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成23年2月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「児童福祉法違反で逮捕された特定個人に対する地方公務員法違反事件に関する文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成23年2月28日付けで行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)について、取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により本決定は取り消すべきであるというものである。
請求内容は特定の個人情報を求めたのではなく、教育公務員としての法令違反、規律違反等に対する規範についての教育委員会の適正な対応について公開するよう求めたものであり、特定の個人名を付した請求について存否さえ明らかにしないという決定は、請求人の権利と尊厳を著しく侵害するものであり、本決定を取り消すべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
本請求は、実施機関が事案に関する情報や個人名等を一切公表していない状況下において、新聞報道等をもとに報道された個人を特定した請求である。また、本事案については、教諭の教え子が被害者であり、被害者に対する特段の配慮が必要である。
異議申立人が特定した学校名は報道されておらず、実施機関としても公表予定の情報ではなかった。
これらのことを踏まえ、異議申立人の請求に対して、実施機関が当該事案と当該教諭の関係を結びつける公文書の存否を明らかにすることは、被害者である第三者が特定されることを助長し、正当な利益を害する恐れがあると判断したため、存否を明らかにしない決定を行ったものである。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。
そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
この考え方に基づき、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することになるか否かを、以下検討する。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性 について
本請求は、児童福祉法違反により逮捕された教職員の個人名及び勤務先を明記して請求されたものであり、新聞報道では個人名については公表されていたが、勤務先の情報は公表されておらず、実施機関においても今後も公表予定ではない情報であった。実施機関は、この請求に対して公文書の存否を明らかにすることは、当該個人がその学校に勤務していたことを実施機関が肯定することとなり、当該事案の被害者である第三者が特定されることを助長し、個人の正当な利益を害するおそれがあると判断している。
しかしながら、本請求に係る職員は新聞報道等で氏名が公表されており、新聞等で公表される教職員の人事異動情報等と照合することにより、勤務先を特定することは可能であると考えられる。また、本事案ではその文書の存否を答えるだけで、被害者である第三者の利益を害するとは考えにくく、当該第三者を識別し得る情報を非開示にすることで対応が可能であると思われる。
したがって、本請求の対象文書が存在するか否かを答えるだけで、条例第7条第2号に規定する非開示情報を開示することとなるとした実施機関の判断は、不合理であるといわざるを得ない。
以上のことから、実施機関は、本請求の対象公文書の存否を明らかにして、改めて決定をするべきである。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理通過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
23. 4. 12 | ・諮問書の受理 |
23. 4. 12 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
23. 4. 22 | ・理由説明書の受理 |
23. 4. 26 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
23. 5. 20 |
・書面審理 (第360回審査会) |
23. 6. 17 |
・審議 (第362回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 |
※委員 |
川村 隆子 | 名古屋学院大学経済学部准教授 |
委員 |
樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
※委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。