三重県個人情報保護審査会 答申第82号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった部分開示決定について、審査会が不存在妥当と判断した部分を除き、特定した保有個人情報を明らかにしたうえで、改めて決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、平成17年10月24日付けで異議申立人が三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った次の(1)から(3)に係る開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年5月23日付けで行った教委第20-115号による部分開示決定の取消しを求めるというものである。
(1) 平成17年9月21日教委第20-298号により部分開示された平成○年(○)第○号損害賠償請求事件の第2回訟務記録2ページ11~12行目に○○弁護士の発言として「陳述書(中略)原稿を自分が添削する。」とある。ここに記載されている原稿、並びに【打ち合わせ概要】にある準備物確認に記載されている「○○弁護士への提出書類のうち『HP,主張の食い違い』『上申書16~18ページのチェック』」
(2) 平成17年9月21日教委第20-298号により部分開示された平成○年(○)第○号損害賠償請求事件の第3回訟務記録【打ち合わせ概要】にある○○弁護士が提出を求めた「平成12年12月5日付けの○○校長(当時)からの報告書1および平成12年12月25日つけ報告書2」および「これまで原告が発出したメール類の時系列一覧の表題を『県立○○学校○○教諭の本件事件に関するe-メールならびに教育委員会あて文書』として整理したもの。」
(3) そのほか、私、○○が三重県を相手方に起こしているすべての裁判の訟務記録ならびに訟務記録の打ち合わせで作成、提出等することとなったすべての書類
3 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書において主張している異議申立ての主たる理由は、以下のように要約される。
異議申立人が今回開示を求めたのは、裁判の訟務記録、及び、訟務記録に記載のある、打ち合わせで弁護士から提出を求められた資料等である。
実施機関は、弁護士に提出を求められた資料を、「推敲、作成途中で作られた資料は破棄され」たため、不存在としたと主張するが、打ち合わせの記録である訟務記録は存在しており、実施機関の主張は、不自然であり、信用できない。
また、裁判の訟務記録については、開示する資料は既に開示した資料の「一部」などとして、開示する個人情報の特定を行っておらず、不完全な決定である。
4 実施機関の部分開示決定理由説明
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
本請求のうち部分開示決定した内容は、特定の裁判の訟務記録である。当該文書はすべて、既に異議申立人に開示した文書に含まれており、重複して開示することは控え、改めて開示を希望する場合は知らせるよう依頼したものである。
また、不存在とした内容は、裁判所への提出書類のために、その推敲及び作成過程で作られた資料や原稿であり、それらは正式に裁判所等に提出した最終的なもののみを保存し、それ以外は破棄されており、存在しない。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立てに係る資料並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 保有個人情報の一部不存在の妥当性について
異議申立人は、打ち合わせの記録である訟務記録は存在しており、そこに記載された提出資料が破棄され不存在であるとするのは、不自然であると主張する。
一方、実施機関は、裁判所への提出書類のために、その推敲及び作成過程で作られた資料や原稿については、それらは正式に裁判所等に提出した最終的なもののみを保存し、それ以外は破棄されており、存在しないと主張している。
この点については、三重県個人情報保護審査会答申第34号及び第48号が出されているが、当該答申のとおり、実施機関の担当者と弁護士との裁判の打ち合わせ等を口頭で行った際の記録や、裁判所等への提出書類の作成途中文書は、必ずしも公文書として保存しておく必要性がないと考えられることから、実施機関に打ち合わせ記録や作成過程の文書が存在しないとしても不自然ではないと認められる。
さらに、以前の同様の開示請求に係る異議申立てについての審査の際、実施機関から開示請求に係る関係書類の提示を受け、審査会において見分したが、請求内容にある第2回及び第3回訟務記録に記載された、弁護士が添削する前の実施機関が作成した資料等の存在は確認できなかった。
(2) 保有個人情報の部分開示決定の妥当性について
次に、異議申立人は、実施機関が、開示する資料を既に開示した資料の「一部」などとして、開示する個人情報の特定を行っておらず、不完全な決定であると主張する。
一方、実施機関は、部分開示決定した内容は、すべて特定の裁判の訟務記録であり、既に異議申立人に開示した文書に含まれており、重複して開示することは控え、改めて開示を希望する場合は知らせるよう依頼したものであると主張している。
しかしながら、本来、開示請求に対して特定した保有個人情報が、別件の開示請求で既に開示済みの情報であったとしても、その後に新たな開示請求があれば、その請求の対象保有個人情報として特定した内容を明確に伝え、既に開示済みであり、開示の実施行為を行わないことを開示請求者が了承しない限りは、開示を実施すべきであると考える。本事案の部分開示決定通知においては、対象となる保有個人情報は「既に請求者に開示をした文書の一部」と記載されているにすぎず、請求者への文書の特定の通知が不十分であるといわざるをえない。
したがって、実施機関が特定した対象保有個人情報を明記して改めて決定すべきであると認められる。
以上のことから、実施機関の行った部分開示決定については、請求内容(1)、(2)及び(3)の「訟務記録の打ち合わせで作成、提出等することとなったすべての書類」の部分について、不存在であるとした実施機関の判断は妥当であるが、「(3)そのほか、私、○○が三重県を相手方に起こしているすべての裁判の訟務記録」の部分について、請求者への文書の特定の通知が不十分であるため、改めて対象保有個人情報を明記して決定すべきである。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
|
処理内容 |
平成19年 8月22日 |
・ 諮問書の受理
|
平成19年 8月29日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
|
平成19年 9月 4日 |
・ 理由説明書の受理
|
平成19年 9月 6日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
|
平成23年 3月23日 |
・ 書面審理 (第92回個人情報保護審査会) |
平成23年 4月19日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 (第93回個人情報保護審査会) |
平成23年 5月24日 |
・ 審議 ・ 答申 (第94回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 (平成23年3月31日まで) |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 (平成23年4月1日から) |
白石 友行 |
三重大学人文学部講師 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学法経科講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |