三重県個人情報保護審査会 答申第78号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年5月19日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「規律違反報告書」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年6月16日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書及び異議申立書において主張している、訂正を求める箇所及び訂正請求の内容は、以下のとおり要約される。
(1) 訂正を求める箇所
規律違反報告書2ページ17行目「4.度重なる注意に対して全く反省なく、逆に他の職員の仕事を妨害したり威嚇する。」との記述。
(2) 訂正請求の内容
異議申立人は、(1)の記述に係る「ア 度重なる注意の内容」、「イ アが行われたことを示す具体的な根拠」、「ウ 他の職員の仕事を具体的にどのように妨害したのかその内容」、「エ ウの根拠となる資料」、「オ 請求者、私、〇〇が具体的にどのように威嚇したのか、その内容」、「カ オの根拠となる資料」について、保有個人情報の開示請求を行った。この請求に対して実施機関は、ア、イについては、開示決定をし、その他については不存在の決定を行った。
しかしながら、開示された資料には異議申立人が求めた「申立人が度重なる注意に対して全く反省なく、逆に他の職員の仕事を妨害したり威嚇する。」ことの具体的内容については一切記載されていなかった。また、ウ、エ、オ、カはア、イの根拠となるものであるが、不存在の決定であり、これは、すなわち実施機関が根拠となる資料がないことを認めているのである。
また、実施機関は、(1)の記述は「評価、判断」と言うが、これは事実の有無であり「評価、判断」などではない。
さらに、当該記述は「職員の仕事を妨害」「威嚇」などと過激に記載されており、それが事実ならば単なる規律違反にとどまらず、公務執行妨害、脅迫などの犯罪に該当するものである。そのような行為について、申立人が開示請求した具体的行為の記録が一切ないというのはあまりにも不自然であり、校長が捏造した証拠である。
したがって、(1)の申立人が「職員の仕事を妨害」「威嚇」したとの記述はなんら根拠のない創作であるので、直ちに訂正されなければならない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
個人の行動が「度重なる注意に対してまったく反省なく」、「他の職員の仕事の妨害」、「威嚇」となっているか否かは、個別の事象の長期にわたる積み重ねにより、それらの行動に身近で接し、観察した者が評価、判断したものである。よって、本請求で異議申立人が訂正を求めている内容は、個人に対する評価、判断等のように、客観的な正誤の判定になじまない事項であり、条例第30条に基づき訂正すべき事実の誤りとは言えない。
また、具体的行為の記録が示されなかったからと言って、その評価、判断が捏造であるとの主張は妥当を欠くものである。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。
また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、異議申立人に関する規律違反報告書第514号の記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、当該請求で訂正を求めた箇所の記述についての根拠となる資料を求める開示請求を行ったが、実施機関が決定した保有個人情報には異議申立人が求めた個人情報が一切記載されていなかったことを理由に挙げ、当該記述はなんら根拠のない創作であり、また、評価、判断ではなく事実であるので、直ちに訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「4.度重なる注意に対して全く反省なく、逆に他の職員の仕事を妨害したり威嚇する。」との記述は、異議申立人の行為に対する実施機関の評価、判断であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙2
審査会の処理経過
年 月 日
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処理内容 |
平成19年 8月22日 |
・ 諮問書の受理
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平成19年 8月29日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成19年 9月 4日 |
・ 理由説明書の受理
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平成19年 9月 6日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
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平成23年 1月27日 |
・ 書面審理
(第90回個人情報保護審査会) |
平成23年 2月15日 |
・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 ・ 答申
(第91回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学法経科講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |