三重県個人情報保護審査会 答申第77号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年5月20日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「規律違反報告書」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年6月16日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書及び異議申立書において主張している、訂正を求める箇所及び訂正請求の内容は、以下のとおり要約される。
(1) 訂正を求める箇所
規律違反報告書1ページ14行目~18行目「2) 服務専念義務違反平成13年9月29日10時半ごろ全職員がグラウンドで体育祭の準備中に、理科室で校務と称して「私文書」を作成。校務に戻るよう注意したところ、これは「警察調書」で校務だと居直る。」との記述。
(2) 訂正請求の内容
異議申立人は、(1)の記述に係る「平成13年度の体育祭の職員の職務分担表」、「記述中の「私文書」の具体的内容」、「異議申立人が「居直る」とは具体的にどのような行動をとったのか、その内容」について、保有個人情報の開示請求を行った。この請求に対して実施機関は、「職務分担表」については、文書の保存期間が過ぎているから存在しない、その他については不存在であるとして個人情報不存在決定を行った。
しかしながら、当該規律違反報告書はいまだ争われている裁判に提出されているものであるから、当該規律違反報告書の証拠となるべき異議申立人が求めた資料は破棄されてはならず、また証拠として存在しなくてはならない。
また、当該記述は「職務専念義務違反」として記載されており、さらにそこには「居直った。」とまで記されているのである。勤務中、「居直り職務に専念しない」とは極めて悪質な法律違反であるどころか、犯罪の域に入るものである。そのような悪質な犯罪の域にも入るような法律違反を行ったとの報告に具体的な行為の記録がないのは極めて不自然であり、そこには綿密な裏付けや記録が当然に必要である。
したがって、証拠はもとより存在しなかったのであり、(1)の記述はなんら根拠のない創作であるので、直ちに訂正されなければならない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
当該記述の根拠となる資料が存在しないことが、直ちに、異議申立人が言う創作とは認められず、訂正すべき事実の誤りとは言えない。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。
また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、異議申立人に関する規律違反報告書第514号の記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、当該請求で訂正を求めた箇所の記述についての根拠となる資料を求める開示請求を行ったところ、実施機関が不存在決定を行ったことを理由に挙げ、当該記述はなんら根拠のない創作であるので、直ちに訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「2) 服務専念義務違反平成13年9月29日10時半ごろ全職員がグラウンドで体育祭の準備中に、理科室で校務と称して「私文書」を作成。校務に戻るよう注意したところ、これは「警察調書」で校務だと居直る。」との記述は、異議申立人の行為に対する実施機関の評価、判断であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
実施機関は、当該記述の根拠となる資料が存在しないことが、直ちに、異議申立人が言う創作とは認められず、訂正すべき事実の誤りとは言えないとして、非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表1
審査会の処理経過
年月日
|
処理内容 |
平成19年 8月22日 |
・ 諮問書の受理
|
平成19年 8月29日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
|
平成19年 9月 4日 |
・ 理由説明書の受理
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平成19年 9月 6日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
|
平成22年 12月21日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議
(第89回個人情報保護審査会) |
平成23年 1月27日 |
・ 審議 ・ 答申
(第90回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学法経科講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |