三重県個人情報保護審査会 答申第75号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年2月10日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の裁判における本人調書」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年5月8日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書及び異議申立書において主張している、訂正を求める箇所及び訂正請求の内容は、以下のとおり要約される。
(1) 訂正を求める箇所
特定の裁判における教頭の本人調書10ページ~11ページの「○○は平成12年11月29日の朝に『教頭からの暴力によって頭と手を打ったので病院に行きます。』と電話をかけたが、この伝言を聞いた教頭が『そんな身に覚えのないことでそんなに言われるので、後々どんなに発展していくかわからん。きちんとメモをとらなあかん。』ということで、2月の中ごろまでメモをして、県教育委員会にもあげてもらってあるんです。」との記述。
(2) 訂正請求の内容
(1)の記述にある2月の中頃までメモをして実施機関にも提出したメモについて、保有個人情報の開示請求を行った。この請求に対して実施機関は、個人情報不存在決定を行った。
教頭は、「メモを教育委員会にあげてもらってある。」と証言したのであるから、教頭の証言が事実とすれば、当然メモは実施機関に存在するはずである。ところが、メモは実施機関に存在しないのだから、教頭の証言は事実ではない。
したがって、教頭の証言は虚偽であったわけであり、(1)の記述は直ちに訂正されなければならない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立人が開示請求したメモそのものは、実施機関に存在していないが、メモの内容については、電話等口頭により実施機関に報告することが可能であり、当該メモそのものが実施機関に不存在であることをもって、証言が虚偽であるとは言えない。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、特定の裁判における教頭の本人調書の記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
また、(2)で述べたとおり、条例第31条第1項により、訂正請求しようとする者は、「訂正請求の内容」(訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容)を記載した訂正請求書を提出しなければならず、同条第2項により、「訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等」を提示しなければならないのであって、条例は、訂正請求しようとする者に、自ら正しいと思料する事実について主張し証明することを求めていると考えられる。
異議申立人は、教頭は「メモを教育委員会にあげてもらってある。」と証言したのであるから、当該メモが実施機関に存在しないということは、教頭の証言は虚偽であったわけであり、当該記述は直ちに訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「そんな身に覚えのないことでそういうふうに言われるので、これはまた後々どんなに発展していくか分からんということで、きちっとメモを取らなあかん。」等の記述は、異議申立人と教頭との間の出来事に対する教頭の判断であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。仮に異議申立人が、「2月の中ごろまでメモをして、教育委員会のほうにもそれを上げてもらってある」等の記述の事実関係のみの訂正を求めているとしても、どのように訂正すべきかについて記載しておらず、また、異議申立人が事実を証する書類として提出した当該メモの不存在決定だけでは、訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等が提示されたとも認められない。
実施機関は、当該メモそのものが実施機関に不存在であることをもって、証言が虚偽であるとは言えないとして、非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別表1
審査会の処理経過
年 月 日
|
処理内容 |
平成19年 2月14日 |
・ 諮問書の受理
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平成19年 2月23日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成19年 3月 8日 |
・ 理由説明書の受理
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平成19年 3月15日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
|
平成22年 11月26日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議
(第88回個人情報保護審査会) |
平成22年 12月21日 |
・ 審議 ・ 答申
(第89回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学法経科講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |