三重県個人情報保護審査会 答申第74号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年1月7日及び8日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「請求者に係る第三者からの問い合わせへの回答メール及び教育委員会定例会会議録等」の非訂正決定に対する異議申立事案の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年5月8日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 意義申立人の主張
(1) 異議申立人が訂正請求書において主張している訂正を求める箇所は次のとおりである。
ア 平成18年1月7日付け訂正請求
平成15年5月20日三重県立○○学校教頭○○は三重県立○○学校での平成○年○月○日の強盗事件(検察庁に書類送検済み、平成○年○第○号損害賠償請求裁判進行中)についての市民からの問い合わせへの回答メールにおいて、「事件は捏造である。」との記述。
イ 平成18年1月7日付け訂正請求
異議申立人が実施機関を相手方にして起こした裁判、人事委員会への申し立て及び情報公開請求において実施機関が提出した資料等において「請求者原告申立人私、○○へのイジメなどはなく」とする記述すべて。
ウ 平成17年12月13日付け訂正請求
異議申立人が実施機関を相手方にして起こした裁判、人事委員会への申し立て及び情報公開請求において実施機関が提出した「平成○年○月○日の被告校長○○と被告教頭○○の請求者原告申立人私、○○に対する事件」について「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」、「事件はなかった。」とする記述すべて。
エ 平成18年1月8日付け訂正請求
平成15年2月6日教育委員会定例会会議録第85号議案3ページ3行目~6行目での、免職処分の事由として記載された「⑤同年、12月2日、同校長が同人に平成14年度のシラバスを12月3日までに提出するように文書で命令したが、同人は作成してあると発言してあるにもかかわらず、提出しなかった。」との記述。
(2) 異議申立人が訂正請求書及び異議申立書において主張している内容は、以下のように要約される。
ア 平成18年1月7日付け訂正請求
事実を証する書類として提出した不起訴処分理由告知書のとおり、津地方検察庁は、被告である校長と教頭を「起訴猶予」とした。「起訴猶予」とは「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている事件にもかかわらず、検察官の判断で訴追の必要性がないとして公訴を提起しないこと。」である。すなわち、公正な第三者機関である津地方検察庁は、警察、検察庁による綿密な捜査の結果、校長と教頭の「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている」ことを認めているのである。これに対して実施機関は、当該記述は個人に対する評価、判断であるから訂正できないと言っているが、当該記述は事実の有無であり、評価、判断などではない。これより、「事件は捏造である。」との記述は訂正されなければならない。
イ 平成18年1月7日付け訂正請求
請求者の免職処分取り消し事件の裁判において、イジメの記録として提出した録音テープや反訳書の記載を見れば、イジメがあったことは明らかであり、それは客観的な証拠である。これに対して実施機関は、当該記述は個人に対する評価、判断であるから訂正できないと言っているが、当該記述は「イジメ」という事実の有無であり、評価、判断などではない。したがって、「請求者原告申立人私、○○へのいじめなどはなく」などの記述は事実ではなく、直ちに訂正されなければならない。
ウ 平成18年1月7日付け訂正請求
事実を証する書類として提出した不起訴処分理由告知書のとおり、津地方検察庁は、被告である校長と教頭を「起訴猶予」とした。「起訴猶予」とは「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている事件にもかかわらず、検察官の判断で訴追の必要性がないとして公訴を提起しないこと。」である。すなわち、公正な第三者機関である津地方検察庁は、警察、検察庁による綿密な捜査の結果、校長と教頭の「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている」ことを認めているのである。
一方、実施機関が「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」、「事件はなかった。」と主張する根拠は平成○年○月○日の被告校長の「○○教諭に関する報告」のみである。また実施機関は、当該記述は個人に対する評価、判断であるから訂正できないと言っているが、当該記述は事実の有無であり、評価、判断などではない。もとより、事件の当事者であり、被告である校長が真実を述べるとは到底考えられない。これより「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」、「事件はなかった。」とする記述は全て訂正されなければならない。
エ 平成18年1月8日付け訂正請求
異議申立人は、平成14年度のシラバスを情報開示請求したが、実施機関は「平成14年度のシラバスを保存担当部署である教務部が保存していないから文書不存在である」との決定を出した。公文書であるシラバスは、当然三重県文書整理規定に基づいて整理され、保存されねばならないが、平成14年度のシラバスが同規定により整理、保存されていないということは、平成14年度のシラバスはもとより存在せず、異議申立人以外のいずれの職員も作成していないということである。そのため、異議申立人にはシラバスの書式などが判明しなかった。また、異議申立人は当時校長らからいじめを受けており、異議申立人一人がシラバスを提出すれば何を言われるかわからないという心配もあり、校長からシラバスの翌日までの提出命令を受けたとき、「ほかの職員と同時に提出します。」と答えた。それが、当該記述にある「免職処分の事由」とされている。公務員の免職処分の事由には信用失墜行為、勤務成績の不良等があるが、以上のとおり異議申立人についての記載の行為は何ら免職処分を受ける理由には当たらない。このような事実を示しているにも係わらず、実施機関は、当該記述は個人に対する評価、判断であるから訂正できないと言っているが、当該記述は事実の有無であり、評価、判断などではない。したがって、当該記述は直ちに訂正されなければならない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
いずれも個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判断になじまない事項であるため、個人情報の訂正請求の対象ではないとして、非訂正の決定をした。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、アについては、異議申立人に係る第三者からの問い合わせメールに対して平成15年5月19日及び平成15年5月20日に特定の県立学校の教頭が返信した回答メール、イ及びウについては、異議申立人が実施機関を相手方にして起こした裁判、人事委員会への申し立て及び情報公開請求において実施機関が提出した資料等、エについては、平成15年2月6日教育委員会定例会会議録における第85号議案に関する記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
ア 平成18年1月7日付け訂正請求の保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、事実を証する書類として不起訴処分理由告知書を提示し、公正な第三者機関である津地方検察庁が、事件において校長と教頭の「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている」ことを認めており、さらに、当該記述は事実の有無であるので、訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、審査会で確認したところ、「事件は捏造である。」との文言は、訂正請求に係る公文書内に見受けられず、異議申立人は、実施機関が事件は捏造であると判断して作成した回答メール全体に対して訂正を求めているものと考えられる。
これを踏まえて判断すると、事件が捏造であるかどうかというのは、実施機関の評価、判断等であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
イ及びウ
平成18年1月7日付け訂正請求(2件)の保有個人情報の非訂正の妥当性について
当該案件においては、訂正を求める箇所が具体的には特定されていない。訂正請求書の「訂正請求に係る個人情報を特定するために必要な事項」には、『「請求者原告申立人私、○○へのイジメなどはなく」とする記述すべて』や『「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」「事件はなかった。」とする記述すべて』と「記述のすべて」を対象とするよう求めている。
これに対して実施機関は、当該訂正請求の対象となり得る訂正請求前90日以内に開示を行った公文書を特定し、その中に「トラブルをデッチ上げようとする意図があった」や「原告の主張はウソやデッチ上げで塗り固められた矛盾に満ち溢れたものである。」、「村八分にされている」、「申立人主張の各「嫌がらせ」なる言動は存在しない」といった請求者の主張する内容に関連すると思われる記述が散見されることから、これらを評価、判断等に当たるものと判断し、非訂正決定を行った。
その上で、決定の通知に際し、「記述のすべて」という訂正請求については、請求箇所を具体的にするよう、備考欄に明記し、請求人に通知した。
本来であれば、訂正請求しようとする者は、「訂正請求の内容」として、訂正が必要な箇所とどのように訂正すべきかを記載した訂正請求書を提出しなければならず、実施機関は、訂正請求書に形式上の不備があると認められる場合、請求をしようとする者に、相当の期間を定めて補正を求めることができるとされている。
当該案件の場合、訂正を求める箇所等が具体的に特定されていないことから、実施機関はまず、請求者に対し訂正すべき保有個人情報をさらに特定するよう、決定以前に補正を求めるべきであったとも考えられる。しかしながら、当該案件については、実施機関が箇所を推測し、評価、判断等であるとして非訂正決定を行っていることから、その決定について以下のとおり判断する。
・イについて
異議申立人は、訂正請求の理由として、「イジメ」の記録であるとした録音テープや反訳書の記載から、「イジメなどはなく」との記述は事実ではなく、さらに、当該記述は「イジメ」という事実の有無であるから直ちに訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「請求者原告申立人私、○○へのイジメなどはなく」との事項に関連すると思われる記述は、事象が「イジメ」であるかどうかということに対する実施機関の判断に基づくものであり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
・ウについて
異議申立人は、事実を証する書類として不起訴処分理由告知書を提示し、公正な第三者機関である津地方検察庁が、事件において校長と教頭の「犯罪の嫌疑が十分で、かつ訴訟条件を備えている」ことを認めており、さらに、「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」や「事件はなかった。」との記述は事実の有無であるので、訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「事件は請求者原告申立人私、○○のデッチ上げである」や「事件はなかった。」との事項に関連すると思われる記述は、異議申立人の裁判等における主張や、事象が「事件」であるかどうかということに対する実施機関の判断に基づくものであり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
エ 平成18年1月8日付け訂正請求の保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、平成14年度のシラバスを提出しなかったことをもって、免職処分の事由としたことについて訂正されなければならないと主張する。
しかしながら、「⑤同年、12月2日、同校長が同人に平成14年度のシラバスを12月3日までに提出するように文書で命令したが、同人は作成してあると発言してあるにもかかわらず、提出しなかった。」との記述は、免職処分の事由として記載されたものである。これは、異議申立人の行為に対する実施機関の評価、判断等であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
|
処理内容 |
平成19年 2月28日 |
・ 諮問書の受理
|
平成19年 3月 5日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
|
平成19年 3月16日 |
・ 理由説明書の受理
|
平成19年 3月28日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
|
平成22年 9月28日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議
(第86回個人情報保護審査会) |
平成22年 11月26日 |
・ 審議 ・ 答申
(第88回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学法経科講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |