三重県情報公開審査会 答申第360号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成22年4月9日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定工事の電子納品資料」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる①「A国補通常砂防(床固改修)工事」及び②「B災害関連緊急砂防堰堤工事」の電子納品資料(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、平成22年7月30日付けで開示請求者に対して行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第1項に規定する第三者である異議申立人が取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は、本請求に際し、請求に係る公文書に異議申立人の情報が含まれていることから、条例第17条第1項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を行ったうえで、本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対し、条例第17条第3項の規定に基づき、本件の電子納品資料のうち、工事写真、施工計画書及び出来形品質管理資料に記載された「技術提案」及び「社内規格値」を条例第7条第3号に規定する非開示情報に、施工計画書及び出来形品質管理資料に記載された請負者の従業員の氏名(ただし、現場代理人、監理技術者及び主任技術者を除く。)、従業員の自宅・携帯の電話番号及び個人印の印影を条例第7条第2号に規定する非開示情報に該当するとして非開示とし、その余の部分を開示する旨を通知したところ、本件電子納品資料の提出者から、電子納品資料のすべてを非開示とすることを求めて異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成22年8月23日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がされている。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。異議申立人の主張する異議申立ての理由は、異議申立書の記載によると、次のとおりである。
開示される内容は社外秘であり、電子納品資料は発注者(三重県)のみとの共有物であるため、すべてを非開示とすることを求める。
5 実施機関の説明趣旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
(1) 電子納品資料は、工事請負者が工事完了後、実施機関へ提出する書類であり、特記仕様書、工事写 真、施工計画書、出来形品質管理資料及び完成図で構成される。
これら書類の内容及び開示・非開示の判断は次のとおりである。
ア 特記仕様書
三重県公共工事共通仕様書を補足し、工事の施工に関する明細又は当該工事に固有の技術的要求 を定める図書である。
発注者(三重県)が作成した文書であることから、全部を開示とした。
イ 工事写真
請負者が工事の施工段階及び工事完成後明視できない箇所における施工状況、出来形寸法、品質管理状況等を撮影した写真である。
技術提案の履行確認書(請負者の技術提案書に記載された内容が履行されたことを示す書類)及び創意工夫の報告書(請負者が創意工夫した内容に関する実施状況の説明資料)に使用されている写真と同一の写真、写真のタイトルに「技術提案履行」、「特記課題」、「創意工夫」と記載された写真は条例第7条第3号に該当することから非開示とし、これら以外は開示とした。
ウ 施工計画書
請負者が、工事着手前に工事目的物を完成するために必要な手順や工法等を記載した書類である。
技術提案・創意工夫の内容及び社内規格値は条例第7条第3号に、請負者の従業員の氏名(ただし、現場代理人、監理技術者及び主任技術者を除く。)、従業員の自宅及び携帯の電話番号は条例第7条第2号に該当することから非開示とし、これら以外の情報については開示とした。
エ 出来形品質管理資料
三重県公共工事共通仕様書等に基づき、請負者が出来形を出来形管理基準に定める測定項目及び測定基準により実測し、設計値と実測値を対比して記録した出来形管理表・出来形図、品質を品質管理基準に定める試験項目、試験方法等により管理し、その管理内容に応じて作成した工程能力図・品質管理図表である。
社内規格値は条例第7条第3号に、測定者である請負者の従業員の氏名(ただし、現場代理人を除く。)及び個人印の印影は条例第7条第2号に該当することから非開示とし、これら以外の情報については開示とした。
オ 完成図
請負者が設計図書に基づき施工したものの出来形を測量し、その測定結果を表した図面である。
個人情報及び法人情報は記録されていないと判断し、全部を開示とした。
(2) 「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針について」(平成17年8月26日閣議決定)の第2の1において、公共工事の発注者は、「工事の内容に照らして必要がないと認められる場合を除き、競争参加者から技術提案を求めるように努めるものとし、技術提案を求めた場合の契約の相手方の決定に当たっては、価格と技術提案の内容等を総合的に評価しなければならない」とされ、同方針第2の3(2)において、「発注者は、民間の技術提案自体が提案者の知的財産であることにかんがみ、提案内容に関する事項が他者に知られることのないようにすること」とされている。
また、社内規格値は、三重県公共工事共通仕様書に規定される出来形管理基準及び品質管理基準の規格値に比べ、より厳しい規格値を異議申立人が独自に定めたものである。
以上から、技術提案・創意工夫の内容及び社内規格値に関する情報は、異議申立人が有する工事施工上の詳細なノウハウであり、公にすることにより異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害することから、条例第7条第3号に該当し、非開示とした。
(3) 請負者の従業員の氏名(ただし、現場代理人、監理技術者及び主任技術者を除く。)、従業員の自宅・携帯の電話番号及び個人印の印影は、条例第7条第2号の特定の個人を識別することができる情報に該当することから、非開示とした。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して判断する。
(2) 本件対象公文書について
本件対象公文書は、①「A国補通常砂防(床固改修)工事」及び②「B災害関連緊急砂防堰堤工事」の各工事について、発注者である実施機関が、当該工事が契約書及び設計図書どおり適正に施工されたか確認するため、工事完成後、請負者に電子媒体で提出させた、特記仕様書、工事写真、施工計画書、出来形品質管理資料及び完成図である。
なお、本件工事は、実施機関が総合評価方式(価格に加え、品質を高めるための技術やノウハウといった価格以外の要素を含めて総合的に評価し、落札者を決定する方法)により落札者を決定し、異議申立人と契約した請負工事である。
実施機関は、工事写真については技術提案の履行確認書等に使用されている写真、あるいはタイトルに「技術提案履行」、「特記課題」、「創意工夫」と記載された写真を、施工計画書については技術提案・創意工夫の内容及び社内規格値を、出来形品質管理資料については社内規格値を、請負者が有する工事施工上の詳細なノウハウであるから条例第7条第3号(法人情報)に該当するとして非開示とし、加えて、施工計画書に記載された当該請負者の従業員(ただし、現場代理人、監理技術者及び主任技術者を除く。)の氏名及び従業員の自宅・携帯の電話番号を、出来形品質管理資料に記載された従業員の氏名(ただし、現場代理人を除く。)及び個人印の印影を条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして非開示とし、その余の全部を開示するとした。
異議申立人は、開示される内容はすべて社外秘であり、電子納品資料は発注者のみとの共有物であるから非開示とすべきと主張しており、この主張は、極めて抽象的であり、異議申立人のどのような利益を害するのか判然としないが、実施機関が条例第7条第2号及び第3号に該当するとして非開示とした部分以外のその余の全部(以下「非開示主張部分」という。)を個人情報あるいは法人情報に該当するとして非開示とすることを求めていると解し、以下のとおり判断する。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(5)非開示主張部分の開示の妥当性について
ア 特記仕様書
特記仕様書は、実施機関が公共工事を発注する際に使用している三重県公共工事共通仕様書(各建設作業の順序、使用材料の品質、数量、施工方法など工事を施工するうえで必要な発注者が求める定型的な技術的要求を説明したもの。以下「共通仕様書」という。)を補充し、当該工事における固有の技術的要求をより詳しく説明する文書である。
当審査会において確認したところ、本件特記仕様書は、実施機関が本件工事における固有の施工条件や留意すべき事項を一覧表としてまとめ、工事の発注前に請負者へ提示したものであり、条例第7条各号に定める非開示情報は記載されていないことが確認できた。
したがって、特記仕様書の全部を開示するとした実施機関の決定は、妥当である。
イ 工事写真
請負者が、工事の施工状況、出来形寸法、品質管理の状況等を明らかにするために記録として撮影したものであり、発注者に提出すべきものである(共通仕様書第1編1-1-29)。
非開示主張部分は、発注者の求める工事内容を実現するための定型的な各作業段階における写真と考えられ、一般的な方法の範囲を超えるもの、特段の創意工夫があるものとは認められず、公にしても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないから、条例第7条第3号に規定する非開示情報に該当しない。
したがって、非開示主張部分を開示するとした実施機関の決定は、妥当である。
ウ 施工計画書
請負者は、工事着手前に、工事概要、計画工程表、現場組織表、指定機械、主要資材、施工方法、緊急時の体制及び対応等の項目を記載した施工計画書を作成しなければならないとされている(共通仕様書第1編1-1-5)。
まず、異議申立人が自ら立案実施した技術提案や創意工夫に関する部分を除き、実施機関が法人情報に該当しないとして開示するとした情報について、検討する。
非開示主張部分は、設計書や共通仕様書、特記仕様書等においてあらかじめ定められた内容や、一般的、抽象的な記述にとどまる情報であり、前例のない極めて独自性の高い情報とは認められず、公にしても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないことから、条例第7条第3号に規定する非開示情報に該当せず、開示するとした実施機関の決定は、妥当である。
次に、現場組織表等に記載された現場代理人、監理技術者及び主任技術者の氏名を開示するとした、実施機関の決定について、判断する。
建設業法第40条及び同法施行規則第25条では、建設業者は、許可を受けた建設業の名称等、国土交通省令で定める事項を記載した標識を、建設工事の現場ごとに、公衆の見やすい場所に掲げることを規定しており、この表示の一部として、当該建設業者の代表者の他に、監理技術者又は主任技術者の氏名、資格名及び資格者証交付番号を記載することになっている。当該標識の掲示により、監理技術者や主任技術者の氏名は公にされた情報といえる。
また、建設業法第6条第1項第6号及び同法施行規則第4条第1項第2号は、建設業の許可申請に際して「国家資格者等・監理技術者一覧表」を提出することを定めている。当該一覧表には、建設業法第7条第2号ハ又は同法第15条第2号イ、ロ若しくはハに該当する者(国家資格者等・監理技術者)の氏名、生年月日及び資格について記載することとされており、これらの提出書類は、同法第13条の規定により、公衆の閲覧に供されている。
以上のことから、監理技術者及び主任技術者(ただし、建設業法第7条第2号イ、ロに該当する者を除く。)の氏名は、条例第7条第2号ただし書イに該当することから、開示するとした実施機関の決定は妥当である。
建設業法上は現場代理人を置く必要はないが、同法第19条の2は、現場代理人を置く場合には、現場代理人の選任等に関する通知義務を定めている。三重県発注工事の場合、工事請負契約書において現場代理人を置くこととしているが、現場代理人に関する書類の閲覧については、建設業法に特段の定めはなく、公衆の閲覧に供されているわけではない。しかし、本件工事における現場代理人は監理技術者又は主任技術者を兼ねていることから、現場代理人の氏名を開示するとした実施機関の決定は妥当である。
エ 出来形品質管理資料
請負者が、工事の出来上がりについて、建設工事施工管理基準に定める測定項目及び測定基準等により工事目的物を実測し、設計値と実測値とを対比して記録した文書であり、発注者に提出すべきものである(共通仕様書第1編1-1-29)。
非開示主張部分は、工事の各工種における構造物等の設計値と実測値、それらの差を記載したものに過ぎないことから、異議申立人の有する施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウに当たるものとは言えず、これを公にしても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないことから、開示するとした実施機関の決定は妥当である。
また、A国補通常砂防(床固改修)工事の測定者である現場代理人の氏名については、上記ウの下段と同じ理由により開示するとした実施機関の決定は妥当である。
オ 完成図
設計図書等に基づき施工した工事目的物の出来形を測量し、その測定結果を図面に表したものに過ぎないことから、異議申立人の有する施工経験、施工実績等に基づく独自のノウハウに当たるものとは言えず、これを公にしても、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
したがって、完成図の全部を開示するとした実施機関の決定は、妥当である。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会処理通過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
22. 9. 2 | ・諮問書の受理 |
22. 9. 7 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
22. 9. 21 | ・理由説明書の受理 |
22. 9. 27 |
・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
22.10. 21 |
・書面審理 (第350回審査会) |
22.11. 12 |
・審議 (第351回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 |
岡本 祐次 |
元三重短期大学長 |
委員 |
川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部准教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 |
三重短期大学教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。