三重県情報公開審査会 答申第355号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成22年1月27日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「確認番号3伊-587の建築確認申請書・決裁文書、建築確認済証・決裁文書、建築完了申請書・決裁文書、建築完了済証・決裁文書、検査済証・決裁文書」(以下「本件対象公文書A」という。)及び「確認番号10認建伊土1335の建築確認申請書・決裁文書、建築確認済証・決裁文書、建築完了申請書・決裁文書、建築完了済証・決裁文書、検査済証・決裁文書」(以下「本件対象公文書B」といい、本件対象公文書Aと本件対象公文書Bを併せて「本件対象公文書」という。)の開示請求(以下、2件の開示請求を併せて「本件開示請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成22年3月31日付けで行った2件の公文書不存在決定(以下、2件の決定を併せて「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の説明要旨
(1) 本件対象公文書について
本件対象公文書は、建築基準法第6条第1項の規定に基づく建築確認申請書及び同法第7条第1項の規定に基づく工事完了届(現行の完了検査申請書)に伴う決裁文書を含む一件綴りである。実施機関が保管する台帳を調べたところ、本件対象公文書A中の建築確認申請書については平成3年12月10日付けで建築基準法第6条第3項(現行の第4項)の規定に基づき確認の通知(現行の確認済証の交付)がされており、本件対象公文書B中の建築確認申請書にあっては平成11年3月30日付けで同様に確認の通知が行われていることが確認できた。
(2) 対象公文書の不存在について
公文書の保存期間について、当時は三重県文書規程第4条第3項(平成10年4月1日以降は同規程第3条第6項)及び三重県文書整理保存規程第5条第3項(平成10年4月1日以降は三重県公文書整理保存規程第5条第3項)の規定による文書分類表によって、保存期間の基準が定められており、建築基準法に基づく建築確認申請書は保存期間2年として取り扱われていた。
したがって、本件対象公文書A中の建築確認申請書の保存期間は平成6年3月31日、本件対象公文書B中の建築確認申請書の保存期間は平成13年3月31日をもって満了しており、不存在である。
なお、本決定においては不存在の理由を本件対象公文書の保存期間が3年であるためと記載したが、2年の誤りであった。
4 異議申立ての理由
本件については、異議申立人から意見陳述を行わない旨の意思表示があったため、異議申立書に記載された異議申立ての趣旨に基づいて審議を行った。異議申立人の主張する異議申立ての理由は、異議申立書の記載によると、おおむね次のとおりである。
本件開示請求に対しては公文書不存在の決定がされたが、以下の理由により、当該公文書は存在するものと考えられるため、開示の決定を求める。
(1) 実施機関の担当者は、当該公文書の保存期間は15年と説明した。したがって平成3年度の文書 は、平成18年度まで保存し、それを廃棄したことを示す公文書管理目録は3年間保存しなければならないから、公文書管理目録は存在するはずである。また、同様に考えると平成10年度の文書は平成25年度まで保存するはずであるから、文書自体が存在するはずである。
(2) 平成21年9月10日に「確認番号H15認建伊建2874(平成15年度)」の建築確認申請書等を開示請求したところ、実施機関が本決定の不存在の理由として説明するように、建築確認申請書等が3年保存の公文書であれば、平成18年度末で保存期間が満了し廃棄済であるはずであるが、当該公文書は実施機関において保存されていることが判明した。
(3) 当該年度の台帳に記載されている本件対象公文書にかかる欄には廃棄を示す記述がないほか、本件対象公文書の廃棄を指示した決裁文書及び公文書管理目録の廃棄を指示した決裁文書がなく、対象公文書が廃棄されたことの根拠となる公文書は存在しない。
(4) 実施機関の担当者は、「公文書管理目録は廃棄時に作成する文書である」など、公文書管理目録に関してデタラメな説明をした。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書について
本件対象公文書は実施機関が保有する台帳によれば、以下のとおりと推認できる。
【本件対象公文書A】
(ア)平成3年11月15日に受付され同年12月10日付けで確認の通知がなされた建築確認申請書及 び添付図面(資料)
(イ)平成4年4月14日に受付され同年4月30日に検査済証が交付された工事完了届
(ウ)建築確認申請にかかる一連の決裁文書(1枚の様式にまとめられている。)
【本件対象公文書B】
(エ)平成11年3月24日に受付され同年3月30日付けで確認の通知がなされた建築確認申請書及び 添付図面(資料)
(オ)工事完了届(ただし、本届の取得の有無及び取得した場合の時期については不明である。)
(カ)建築確認申請にかかる一連の決裁文書(1枚の様式にまとめられている。)
なお、本件対象公文書B(オ)については、現存する台帳の様式上工事完了届の受理や完了検査等の実施状況についてはその有無も含めて確認することができない。しかし、たとえ同届が提出されていたとしても、本件建築確認申請の対象は専用住宅であり、確認の通知から工事完了検査まで数年を要するとは通常は考えることができない。したがって、本件対象公文書Bに関しては、平成11年度中には工事完了届が提出され検査済証が交付されたと考えることとする。
上記のとおり推認される本件対象公文書について、実施機関の説明によれば、いずれについても保存期間が満了しており不存在であると説明することから、以下本件対象公文書が不存在であるとの決定の妥当性について検討する。
(3)本決定の妥当性について
ア 建築確認申請にかかる公文書の保存期間について
当時の公文書にかかる整理・保存については、「三重県文書整理保存規程」(昭和61年三重県訓令第8号。以下「昭和61年規程」という。)第3条により公文書の保存期間は、永久、10年、5年、2年及び2年未満であるとされ、具体的には別途定められた文書分類表により建築確認申請書の保存期間は2年であるとされている。
昭和61年規程は平成10年4月1日に全面改正されたが(平成10年三重県訓令第7号。以下「平成10年規程」という。)、保存期間の種類及び建築確認申請書の保存期間については、従前通りの内容であった。
平成10年規程は、平成12年3月31日にその一部が改正され(平成12年三重県訓令第6号。以下「平成12年規程」という。)、公文書の保存期間は、法律等の規定により特別の定めがある場合を除いて、30年、10年、5年、3年、1年及び1年未満とされ、それに伴い平成12年度以降に受け付けられる建築確認申請書の保存期間は2年から3年へと変更された。
平成18年4月1日からは、平成12年規程が廃止され、新たに「三重県公文書管理規程」(平成18年三重県訓令第4号)が施行されたが、建築確認申請書の保存期間に関しては平成12年規程と同内容の規定が引き継がれた。 さらに、同年には耐震偽装問題を受けて、「建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律」(以下「改正建築基準法」という。)が公布され、翌平成19年6月20日に施行されることとなった。改正建築基準法では、建築規制の実効性の確保を図る上で、建築確認申請に係る図書の保存は極めて重要であるとし、同法施行規則第6条の3第2項及び第5項により、建築確認検査の申請書及び添付図書については確認済証の交付日から15年保存しなければならないこととされた。また、平成19年6月20日付け国土交通省住宅局長通知により、この図書保存義務は、施行日時点において、現に保存されている図書についても、同様に保存することが望ましいとされた。
なお、工事完了届については、いずれも明文では保存期間が明らかにされていないものの、建築確認申請にかかる一連の提出書類の一部であること、通常建築確認申請書と同一の簿冊で管理されていることなどから、建築確認申請書と同様の保存期間であると考えられる。
イ 本件対象公文書の保存期間について
以上アで述べたことから、平成3年度及び平成4年度作成の本件対象公文書Aについては昭和61年規定が適用され、平成10年度及び平成11年度作成と推認される本件対象公文書Bについては平成10年規程が適用されることから、いずれも保存期間は2年間であると認められる。
したがって、本件対象公文書A(ア)については平成6年3月31日、本件対象公文書A(イ)及び(ウ)については平成7年3月31日、本件対象公文書B(エ)については平成13年3月31日、本件対象公文書B(オ)及び(カ)については平成14年3月31日にそれぞれ保存期間が満了したものと考えられる。
ウ 本件対象公文書の存否について
実施機関から聴取したところ、重大な違反のあった建築物など特別の事情があると認められる建築確認申請書等については、保存期間を延長する場合があるとのことであるが、そのような特段の事情がない限り通常は保存期間が満了した翌年度に公文書を廃棄するとのことである。実際に実施機関において、公文書を保存している書庫を調査したところ、建築確認申請書等に関して現時点で存在するのは建築基準法の改正内容を把握した平成18年時点で存在した公文書及びそれ以降に作成又は取得した公文書だけであり、具体的には平成14年度以降の文書だけであるとのことであった。したがって、平成15年度の建築確認申請書等は15年保存の公文書であり、4(2)に記載する異議申立人の主張は失当である。
また、本件対象公文書に適用される当時の昭和61年規程及び平成10年規程では、いずれも公文書の廃棄の際の手続きについての詳細な定めはなかったことから、廃棄に際して特に起案等は作成していないとのことであった。
確かに、昭和61年規程第13条では「保存期間が満了した文書は、適宜処分しなければならない(平成10年規程第14条では「保存期間が満了した公文書は、適切に処分しなければならない。」)」とされ、特に必要があると認める公文書については、期間を限り、引き続き保管し、又は保存しなければならない旨を定めているのみであり、廃棄に際して詳細な手続きを定めているわけではない。加えて、本件開示請求の時点で、本件対象公文書Aについては少なくとも14年、本件対象公文書Bについては同じく7年以上の期間がそれぞれ保存期間満了時から経過しており、さらには本件対象公文書には保存期間を延長すべき特段の必要性も認めることもできない。
上記のような事情に照らし考えると、本件対象公文書はいずれも廃棄され、存在しないとする実施機関の説明に特に不自然、不合理な点は見られず、不存在を理由とした本決定は妥当であると認められる。
(4)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、公文書管理目録(対象公文書Aについては保管・保存文書目録。以下まとめて「管理目録等」という。)に関して実施機関の担当者から、廃棄時に作成する、あるいは存在しない等虚偽の説明を受けたとし、管理目録等が作成されていないはずがないと主張する。
管理目録等は、公文書の整理と検索を目的とするものであり、分類記号、簿冊名及び廃棄年度等を記入し、どの簿冊がどこに保管されているかを明示するものである。
確かに、本件対象公文書にかかる管理目録等の存在は本件対象公文書の存否を推認しうる一要素であり、管理目録等について実施機関の担当者が説明したとする内容に疑義があるのも事実である。しかし、たとえ管理目録等が存在し廃棄の記述がなかったからといって、上記(3)で述べたような本件対象公文書にかかる保存期間や実際の保存状況にかんがみると、そのことをもって対象公文書は存在しないという事実を直接的に覆す要因と考えるのは困難である。
なお、異議申立人は、その他種々主張するが、いずれも当審査会の判断を左右するものではない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
当審査会の判断は上記のとおりであるが、本件事案については実施機関の事務処理に不適切な点が見受けられることから、次のとおり意見を申し述べる。
本決定において、実施機関は、公文書が存在しない理由を「3年保存の公文書であるため、(中略)廃棄済であり、存在しない」として公文書不存在決定を行ったが、正確には本件対象公文書は2年保存の公文書であった。
さらに、異議申立書に記載された異議申立人と実施機関のやりとりの中では、本件対象公文書の保存期間を巡って3年あるいは15年という説明があり、異議申立人も建築確認申請書の保存期間を15年と誤解しているように、両者の意思の疎通には何らかの問題があったように見受けられる。
建築確認申請にかかる公文書の保存期間は変遷をたどっているのも事実であるが、県民に対し説明する責務(説明責任)を全うするという観点からすれば、その事実を正確かつ明瞭に伝えることも必要と考えられる。
また、実施機関は本件開示請求に対して、本決定に至るまで2回の不存在決定を行っている。実施機関の説明によれば、この不存在決定に対しては、異議申立人が形式上の不備を主張し、その求めに応じて決定を繰り返し行ったとのことである。
しかし、前2回の不存在決定と本決定の間には実質的に処分の内容を変更させるものではなく、当該決定にかかる実施機関の一連の事務処理は、慎重さを欠くものであったと言わざるを得ない。
したがって、実施機関においては、今後同様のことがないよう、真摯な対応をするとともに行政処分である決定通知書の作成にあたっては、事務処理をより一層、適正、的確に行うことが望まれる。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
22. 6. 3 | ・諮問書の受理 |
22. 6. 8 | ・実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
22. 6.23 | ・理由説明書の受理 |
22. 6.25 | ・異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
22. 8.17 |
・書面審理 (第345回審査会) |
22. 9.10 |
・審議 (第347回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部准教授 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。