三重県個人情報保護審査会 答申第71号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年1月12日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「職員一同から提出された要望書」の保有個人情報訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年5月8日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 意義申立人の主張
異議申立人が訂正請求書及び異議申立書において主張している内容は、以下のとおり要約される。
平成11、12年度には病気入院又は不登校になった生徒への家庭訪問は、平成17年2月21日付けで開示された「平成12年12月13日に教諭が生徒宅を訪問した際の旅行命令簿及び復命書」を見ればわかるように、異議申立人が病気休暇を取得中の平成12年12月13日に一度しか実施されていない。また、口頭による旅行命令の運用は、平成13年3月30日に、「旅費条例等の運用について(通知)」で通知されたものであり、平成12年12月13日以外にも、異議申立人に対して口頭で旅行命令が行われたという実施機関の主張はありえず、出張を拒んだという記述は虚偽である。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
三重県個人情報保護審査会答申第17号(平成18年1月10日)にあるように、当該文書が訂正の対象となり得るとしても、「口頭による旅行命令も行われるので、旅行命令書がないからといって出張がなかったとは言えない。」という実施機関の主張は誤りではないため、三重県個人情報保護審査会の結論どおり、再び非訂正決定を行った。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。 また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象個人情報は、平成13年2月27日付けで職員一同から三重県教育委員会教職員課長宛に提出された異議申立人の処遇に関する要望書において、異議申立人が、入院した生徒の様子を見に行こうとする申し出を拒んだという旨、及び不登校になった生徒の家庭訪問を拒んだという旨の記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
異議申立人は、訂正請求の内容が事実に合致することを証明する書類として、異議申立人が平成17年2月21日付けで開示を受けた「平成12年12月13日に教諭が生徒宅を訪問した際の旅行命令簿及び復命書」を提示して、病気入院又は不登校になった生徒宅への家庭訪問は一度しか実施されておらず、家庭訪問が実施された日は、異議申立人が病気休暇を取得中であったと申立てるとともに、平成13年3月30日に、「旅費条例等の運用について(通知)」の通知が出されていることを挙げ、平成12年12月13日以外にも、異議申立人に対して口頭で旅行命令が行われたという実施機関の主張はありえず、したがって、異議申立人が出張を拒んだという記述は虚偽であると主張している。
しかし、実施機関の説明によれば、職員に対する旅行命令は口頭による場合も多くあり、そのことからすれば、家庭訪問等の出張が平成12年12月13日の一度だけであったとは限らず、今回改めて実施機関に確認したところ、口頭による旅行命令は当該通知が出される前からなされてきたとのことである。実施機関のそのような説明に不自然な点はなく、したがって、異議申立人の提示した書面だけでは訂正請求の内容が事実に合致していると判明したとは言えない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
本件申立てにかかる訂正請求は、平成17年2月24日付けで保有個人情報訂正請求を行い、実施機関の行った非訂正決定に対し、平成17年3月21日付けで異議申立てを行った案件と同一の箇所について、当該異議申立てにかかる答申が出た直後に請求されたものである。
一般的に行政不服審査制度においては、事情の変更がないにもかかわらず、裁定の申請を繰り返すことや、単に前処分の見直しを求める趣旨の再申請の場合、一事不再理の法理又は申請権の濫用の法理等により許されないと解することが相当であると考えられる。
本件訂正請求は、事情の変更がないにもかかわらず、実施機関の決定が行われる前に非訂正決定の取消しを求めて申請したものであり、前処分の見直しを求める趣旨の再申請がされたものであると認められることから、本件訂正請求を行うことは許されない。
さらに、訂正請求権は、三重県個人情報保護条例第30条で定められており、第30条第3項では、「訂正請求は、保有個人情報の開示を受けた日から90日以内にしなければならない。」としているが、本件訂正請求は、保有個人情報の開示を受けた日から90日以上経過している。
以上のことを踏まえ、実施機関は請求等の内容や形式等の審査を行う際、不適法な場合には却下するなどの対応も含めて適正に行うよう努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
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処理内容 |
平成19年 2月14日 |
・ 諮問書の受理
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平成19年 2月23日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成19年 3月8日 |
・ 理由説明書の受理
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平成19年 3月15日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
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平成22年 7月30日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議
(第84回個人情報保護審査会) |
平成22年 8月24日 |
・ 審議 ・ 答申
(第85回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
藤枝 律子 |
三重短期大学講師 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |