三重県情報公開審査会 答申第349号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成21年9月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定企業の酸化チタン製造過程において生成された主な廃棄物の投棄量と投棄場所の県への年次報告」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる、特定企業の「産業廃棄物管理票交付等状況報告書」(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、平成21年10月28日付けで開示請求者に対して行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)について、条例第17条第2項に規定する第三者である異議申立人が取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は、本件対象公文書中に本件対象公文書を提出した報告者等の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、当該報告者等に対し意見照会を行ったうえで、本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、当該報告者に対し、条例第17条第3項の規定に基づき本件対象公文書に記載された処理を委託した産業廃棄物の排出量、運搬受託者及び処分受託者の名称等を開示する旨を通知したところ、当該報告者から非開示とすることを求めて異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成21年11月16日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
条例第7条第3号ただし書ハに該当するとの判断から開示する情報は、異議申立人の産業廃棄物の運搬受託者及び処分受託者の氏名又は名称であり、異議申立人の事業活動に伴って生じた産業廃棄物の処理に関する取引先の情報である。異議申立人の事業に関する情報であることから、公にすることにより異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
しかし、平成6年、産業廃棄物処分業に係る同種の事業情報を非開示とした処分について、三重県を被告とした情報公開請求事件が提訴され、平成9年6月に津地方裁判所においてその処分を取り消す判決があった。その後も、同種の情報を開示とした決定について、対象となった第三者からの異議申立てを受けて調査審議された三重県情報公開審査会において、答申第128号、答申第159号、答申第168号及び答申第318号で、当該情報を開示するとした実施機関の決定は妥当であるとされている。
異議申立人は産業廃棄物処理業者ではないが、事業者はその事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理する責務を負っており、産業廃棄物処理に関する情報は人の生命、身体、健康に深く関係した非常に公共性の高い情報であることから、処理を委託した廃棄物の種類、量、運搬受託者名、処分受託者名等を公にすることは、住民等の不安感を取り除くことにつながるものと判断し、開示した。また、適正に処理されているのであれば、その情報を公開し、処分場周辺住民の不安解消に努めるべきである。
5 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 経営状況・営業状況等に関する情報
異議申立人の取引業者の名称及び取引内容は、顧客情報等に該当し、異議申立人にとっては極めて機密性が高い情報であり、当該情報を入手した第三者は、当該情報を基に取引関係の妨害等が可能になる。
また、産業廃棄物の排出量、処分量等の情報は、産業廃棄物業界における一般的な処理単価等と積算されることにより、産業廃棄物処分に要した費用面からの異議申立人の経営状況が推測可能となる重大な経営情報になり得るものである。
したがって、これらの情報が取引業者の同業者等に明らかとなった場合、異議申立人及び取引業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。
(2) 産業廃棄物管理票交付等状況報告書
排出事業者は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)第12条の3第6項の規定に基づき、産業廃棄物管理票交付等状況報告書を知事に提出する義務を負っている。この報告書に記載の情報が公にされた場合、異議申立人及び取引業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると分かっていても、提出を法的に義務づけられている以上提出せざるを得ないものである。
提出義務は、排出事業者が自らの権利を守るための情報を厳選する権利を奪っていることになるから、排出事業者等が有する権利、競争上の地位その他正当な利益をできる限り害さない措置を執ることが求められる。
(3) 三重県外の処分場に関する情報
異議申立人が処理を委託する産業廃棄物が廃棄物処理法に則り適法に処分されているにも拘らず、取引業者の最終処分場周辺で、異議申立人や取引業者の誹謗中傷等が行われ、それらが処分場周辺住民に誤った認識を与え、結果として不要な不安を与えている。このため、三重県外の取引業者、その業者を管轄する自治体の一部から、取引関係に関する情報の第三者への開示について十分配慮するよう要請を受けている。
実施機関は、住民等の不安感、不信感を払しょくすることが要請されていること等を勘案すると公益上、公にすることが必要であると主張するが、県外の事例に照らした場合、報告書の情報は住民等の不安感、不信感を払しょくすることができるものではなく、県民のみならず、県外の住民に対して不要な不安等を与える可能性を考慮すべきである。
また、報告書には、産業廃棄物処理を委託した実態が記載されているだけで、適正に処理されているか確認できる情報でないから住民の不安感を取り除くことにつながるものではない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3)条例第7条第3号(法人情報)本文の該当性について
本件対象公文書は、廃棄物処理法第12条の3第6項の規定に基づき特定企業から実施機関に提出された平成19年度及び平成20年度の産業廃棄物管理票交付等状況報告書である。
当該報告書には、年度ごとに、異議申立人の事業活動に伴って生じた産業廃棄物の種類、排出量、管理票の交付枚数、運搬受託者(名称、所在地及び許可番号)及び処分受託者(名称、所在地及び許可番号)が記録されている。
異議申立人が主張するように、これらの情報は、異議申立人である特定企業の取引先、取引内容に係る情報であり、営業上機密性の高い情報であることから、これを公にすると、異議申立人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、条例第7条第3号本文に該当する。
(4)条例第7条第3号(法人情報)ただし書ハの該当性について
条例第7条第3号ただし書は、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するために公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものである。
廃棄物処理法第3条第1項は、「事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。」と定め、同法第12条第3項は、「事業者…は、その産業廃棄物・・・の運搬又は処分を他人に委託する場合には、その運搬については…産業廃棄物収集運搬業者その他環境省令で定める者に、その処分については…産業廃棄物処分業者その他環境省令で定める者にそれぞれ委託しなければならない。」とし、同条第5項は、「事業者は、…その産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、当該産業廃棄物について発生から最終処分が終了するまでの一連の処理の行程における処理が適正に行われるために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と規定するなど、排出事業者には、法律に従って当該産業廃棄物を適正に処理する責任があり、委託した産業廃棄物が適正に処理されたことを確認する責任があると言える。
確かに、実施機関が本決定において開示するとした情報は、異議申立人の顧客情報であり、開示されることにより、異議申立人の事業活動に不利益を与えるおそれがあることは十分に理解できるが、産業廃棄物の処理には、その態様如何が周辺住民の生活又は環境に重大な影響を与える危険性があることも事実であり、排出事業者や産業廃棄物処理業者に対して厳しい責任を課した廃棄物処理法の趣旨や産業廃棄物を取り巻く社会状況を総合的に判断すると、非開示により保護すべき利益よりも周辺住民の健康等の公益が優先されると判断せざるを得ない。
したがって、条例第7条第3号ただし書ハに該当し、開示するとした実施機関の決定に誤りはないと判断される。
(5)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、本件報告書の提出が法的に義務づけられ、自らの権利を守るための情報を厳選する権利を奪っていることから、異議申立人の権利、利益を害さない開示方法を執ることを求め、また、三重県外の取引業者等から、取引関係に関する情報の第三者への開示について十分配慮するよう要請を受けていると主張する。
しかしながら、そうした要請の有無によって開示・非開示を判断するのではなく、その情報の内容に即して開示・非開示を判断すべきであり、上記(4)において、開示するとした実施機関の決定は妥当であると判断したのであるから、異議申立人の主張は認められない。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
21. 11.17 | ・諮問書の受理 |
21. 11.19 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
21. 12.10 | ・開示理由説明書の受理 |
22. 1. 8 |
・開示理由説明書に対する意見書の受理 |
22. 1.29 | ・意見書に対する補足の開示理由説明書の受理 |
22. 2.16 | ・補足の開示理由説明書に対する意見書の受理 |
22. 3.12 |
・書面審理 (第336回審査会) |
22. 4.22 |
・審議 (第339回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部准教授 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。