三重県個人情報保護審査会 答申第63号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年12月23日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「教育委員会定例会会議録」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年1月23日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
(1) 異議申立人が訂正請求書、異議申立書及び意見書において主張している訂正を求める箇所及び訂正請求の内容は、以下のとおり要約される。
ア 訂正を求める箇所
① 平成○年○月○日教育委員会定例会会議録第○号議案5ページ1行目から2行目の「○○学校でですね、適格性を欠くということは認められたわけで」との記述。
② 同会議録第○号議案4ページ6行目から10行目の「平成○年○月○日付でですね、○○学校の教諭に採用して以来ですね、生徒に積極的に係ろうとする姿勢がですね、非常にかけておりました。そして教材のですね、準備も十分でなく、生徒の反応を見てですね、自分なりに授業することがですね、満足にできず」との記述。
イ 訂正請求の内容
① 異議申立人が条件付採用から正式採用に至った過程について、実施機関は「勤務不良が報告されていない。」と情報開示している。すなわち、○○学校で異議申立人の勤務不良は校長から実施機関に報告されていない。したがって、ア①の記述は事実でないのであるから、直ちに訂正されなければならない。
② 実施機関作成の「教育職員に関する検定基準(内規)」によれば、「所属長作成の人物に関する証明書の証明項目のうち一項目でも不適切の記述があれば、教員免許検定は不合格とし免許は交付しない。」とある。異議申立人は教育職員免許検定により、免許を取得している。したがって、異議申立人の「所属長作成の人物に関する証明書」の証明項目には一項目も「不適切」の記述がない。さらに、○○学校で異議申立人の勤務不良は校長から実施機関に報告されていない。したがって、ア②の記述は事実でないのであるから、直ちに訂正されなければならない。
(2) 異議申立人が異議申立書及び意見書において主張している内容は、以下のように要約される。
実施機関が「総合的に評価・判断したのであるから誤りはない。」と非訂正決定をした記述は、訂正請求書で述べたように明らかに事実でないのであるから、当然、「総合的に評価・判断」しても事実でないことは明らかである。したがって、実施機関の決定は取り消されなければいけない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立ての対象となった議事録の発言内容については、資料や口頭での報告等に基づき、実施機関及び人材政策チームとして総合的に判断したものであり、誤りはない。また内容は、個人に対する評価・判断であるため、個人情報の訂正請求の対象ではない。これらのことから、非訂正の決定をした。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、平成○年○月○日教育委員会定例会会議録第○号議案の記述であ る。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
ア 訂正を求める箇所①について
異議申立人は、実施機関の「異議申立人の条件付採用期間中に、異議申立人を不採用とするほど重大な勤務不良が校長から報告されなかった。」と理由の付された異議申立人に対する個人情報不存在決定通知書を提示し、異議申立人は○○学校での条件付採用期間に勤務不良が報告されていないから、当該記述は事実でなく、訂正しなければならないと主張する。
しかしながら、「○○学校でですね、適格性を欠くということは認められたわけで」との記述は実施機関が主張するように、異議申立人の適格性に対する実施機関らの評価であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
イ 訂正を求める箇所②について
異議申立人は、教育職員免許検定により教員免許を取得しているので、「異議申立人の「所属長作成の人物に関する証明書」の証明項目には一項目も「不適切」の記述がない。」と主張し、さらに、○○学校で異議申立人の勤務不良は校長から実施機関に報告されていないので教育委員会会議録の当該記述は事実でなく、訂正しなければならないと主張する。
しかしながら、「平成○年○月○日付でですね、○○学校の教諭に採用して以来ですね、生徒に積極的に係ろうとする姿勢がですね、非常にかけておりました。そして教材のですね、準備も十分でなく、生徒の反応を見てですね、自分なりに授業することがですね、満足にできず」との記述は実施機関が主張するように、異議申立人の教諭としての姿勢や授業を行う力量に対する実施機関らの評価であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものと認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
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処理内容 |
平成18年 10月 31日 |
・ 諮問書の受理
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平成18年 11月 9日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成18年 11月17日 |
・ 理由説明書の受理
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平成18年 11月22日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
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平成18年 11月25日 |
・ 意見書の受理
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平成18年 11月28日 |
・ 実施機関に対して意見書(写)の送付
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平成22年 2月24日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議
(第79回個人情報保護審査会) |
平成22年 3月24日 |
・ 審議 ・ 答申
(第80回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
樹神 成 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |