三重県情報公開審査会 答申第348号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った開示決定については、その決定を取り消し、改めて異議申立人の求める対象公文書を特定したうえで、同文書の存否、開示決定の可否を決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成21年10月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成18年度、19年度、21年度採用の教員採用試験で問題ミスが発覚した。問題ミスの内容、なぜミスがおきたのか。ミスに関与した職員の氏名と役職、ミスの防止策、平成18年度のミスの後、防止策が講じられたと考えられるが、再び、平成19年度と21年度にミスが起きたのか、その理由、ミスをおかした、職員の処分はどうされたのか、処分されなかったのなら、その理由、に関するすべての書類と文書。」の公文書開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成21年11月4日付けで行った公文書開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次のとおりである。
・平成19年度三重県公立学校教員採用選考試験第1次選考試験における筆答試験(教養)の問題文の誤りについて
・平成19年度三重県公立学校教員採用選考試験(平成18年7月実施)における出題ミスについて
・平成18年度三重県公立学校教員採用選考試験(平成17年7月実施)における正答の誤りについて
・平成21年度三重県公立学校教員採用選考試験(平成20年7月実施)における出題ミスについて
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
教員採用選考試験における問題ミスに関与した職員の氏名と役職、ミスの防止策や対応についてまとめた文書は作成していない。問題ミスに関して職員の処分はされておらず、処分をしなかった理由についてまとめた文書も作成していないため不存在である。別途資料提供した文書において、問題ミスに対する経緯と対応、問題作成から実施に至るまでの体制について説明した。試験問題については、原案作成から試験実施に至るまでの各段階で、多くの委員や係によって確認作業等を繰り返しながら仕上げている。 問題の作成をはじめとして、試験の実施は教育委員会が組織として取り組んでいることを説明した。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、以下の理由により本決定は取り消すべきであるというものである。
ミスに関与した全ての職員の氏名と役職を公表してほしい。ミスに対する解決策として、受験者全員を正答として、合否判定に影響はないとしているが、これは安易な解決方法であり、根本的なミスの再発防止になっていない。ミスに関与した全ての職員を別の職員と入れ替えるとか、勤務成績が良くない場合は、降任し、又は免職することもありえるのではないか、検討してほしい。また、地方公務員法27条及び28条には分限、懲戒、降任、免職、休職等が定められている。行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条第1項ハにおいて、当該情報がその職務遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職務及び当該職務遂行の内容に係る部分は、情報開示しなければならないと規定されている。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 本決定の妥当性について
異議申立人が平成21年10月28日付けで行った本請求に対し、実施機関は「平成19年度三重県公立学校教員採用選考試験第1次選考試験における筆答試験(教養)の問題文の誤りについて」他3件を対象公文書として特定し、平成21年11月4日付けで本決定を行った。
実施機関が特定した公文書は、問題文の誤り等について報道機関へ提供した文書であり、各年度における問題文の誤り等の内容、当該問題についての対応及び今後の方針が記載されており、実施機関は全て開示とした。
また、実施機関は、三重県公立学校教員採用選考試験におけるミスに関する防止策や対応についてまとめた文書は存在しないため、別途文書で資料提供する旨を決定書の備考欄に記載した上で、経緯と対応及び問題作成から実施に至るまでの体制について説明した文書を作成のうえ資料提供した。
この決定に対し、異議申立人は、異議申立て理由のとおり異議を主張する。異議申立人は、異議申立書において、行政機関の保有する情報の公開に関する法律第5条を引用し、当該情報がその職務遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職務及び当該職務遂行の内容に係る部分は情報開示しなければならないと規定されていると述べており、本件対象公文書に具体的な氏名等の記載箇所がない状況から判断すると、請求対象の公文書の特定に異議を提起していると解されるので、当審査会は公文書の特定について以下のとおり判断する。
本請求に対して実施機関が特定した本件対象公文書は、報道機関へ提供した文書であり、これらについて実施機関は開示決定を行った。
また、実施機関の説明によると、問題ミスに関与した職員の氏名と役職、問題ミスの防止策や対応についてまとめた文書は作成していないため不存在である。問題ミスに関して職員は処分されておらず、処分をしなかった理由についてまとめた文書も作成していないため不存在である。このため、実施機関は問題ミスに対する経緯と対応、問題作成から実施に至るまでの体制について別途作成した文書による資料提供により説明したとしている。
一方、実施機関は、口頭での補足説明において、いわゆる出題委員に関する文書は存在すると説明しているが、本請求における対象公文書は、問題ミスを犯した職員等が対象であると解されるから、原案作成者としての出題委員に関する文書は対象公文書ではないと判断したとしている。このことについて、実施機関は、試験問題は原案作成から試験実施に至るまでの各段階で、多くの委員や係によって確認作業等を繰り返しながら、組織として取り組んでおり、特定の個人で対応したのではないから、対象公文書ではないと説明する。
この結果、実施機関は、本請求に対して報道機関へ提供した文書のみを本件対象公文書として特定しているが、本件対象公文書に記載された内容は、問題文の誤り等の内容、当該問題についての対応及び今後の方針のみであり、開示請求書及び異議申立書の文面からは、異議申立人は実施機関が対象公文書でないとした文書も含め広く請求していると解されることから、実施機関の対象公文書の特定は狭いと言わざるを得ない。
また、本決定に当たって、実施機関は、開示請求者との間で公文書の特定に関する調整は行わなかったと説明しているが、実施機関が開示請求に係る公文書を特定する際には、開示請求書記載の文言を合理的に解釈し、必要に応じて開示請求者に確認するなどの作業を行うべきである。
なお、実施機関は、公文書の特定について一つ一つ不存在や非開示といった決定をするよりも、内容を広く解釈し、請求者が求める内容を文書として作成し、説明した方が親切であると考え、別途資料提供したと説明しているが、情報公開制度は、公文書開示請求に対して、対象公文書が存在するかどうかを確認し、存在するのであればその開示の可否について判断することが原則であり、非開示とすべき情報があるのであれば非開示とする理由を示したうえで決定を行うべきである。
(3) 異議申立人の主張について
異議申立人は、異議申立書において、ミスに関与した職員を公表してほしい、ミスに関与した全ての職員を別の職員と入れ替える等について検討してほしい等主張する。
しかし、当審査会は、実施機関が行った本件処分の妥当性を判断するのであって、異議申立人の上記主張について調査し、判断する立場にはなく、異議申立人の上記主張については判断を行わない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
(7)審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
21. 12. 7 | ・諮問書の受理 |
21. 12. 8 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
21. 12.17 | ・理由説明書の受理 |
21. 12.22 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
22. 2.15 |
・書面審理 (第335回審査会) |
22. 3.15 | ・審議
・答申
(第337回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。