三重県情報公開審査会 答申第346号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成21年10月15日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定土地改良区の清算届出に係る全部の文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成21年10月23日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、平成18年12月9日付けで特定の土地改良区から実施機関へ提出された「清算結了届け書」の添付書類のうち決算報告書及び清算終了総会議事録である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本決定が妥当というものである。
(1)「決算報告書」のうち、監事個人の印影
個人に関する情報であって、特定の個人が識別し得るものとして条例第7条第2号本文(個人情報)に該当することが明らかである。
また、土地改良区は、土地改良法第18条第16項の規定により役員が就任又は退任したときは、その氏名及び住所を知事に届け出なければならず、同条第17項の規定により届出を受けた知事はこれを公告する必要があるが、監事個人の印影については、公告の対象外であり、条例第7条第2号ただし書に該当しないことが明らかである。
(2)「清算終了総会議事録」のうち、役員以外の組合員個人の氏名及び印影
上記(1)と同様に公告の対象外であるほか、特定の個人が識別し得るものとして条例第7条第2号本文(個人情報)に該当し、同号ただし書に該当しないことが明らかである。
(3)「清算終了総会議事録」のうち、企業名
土地改良区の取引先企業名については、法人の一般的な商取引に関する情報であり(土地改良区存続中の財産処分は県への報告事項でない。)、条例第7条第3号本文(法人情報)に該当し、同号ただし書に該当しないことが明らかである。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 土地改良法の規定により組合員名簿は閲覧できることから、組合員の氏名を非開示とする理由はない。
(2) 土地改良区の名称を誤って解散公告を官報に掲載したことから、当該土地改良区の解散は無効であり、また、代表清算人が私印を押印して提出した清算結了届出書は無効であるから、非開示部分を開示するべきである。
6 審査会の判断
実施機関は、監事の個人印の印影、役員を除く組合員の氏名及び個人印の印影について、条例第7条第2号(個人情報)に該当し、取引先企業名について、同条第3号(法人情報)に該当すると説明するので、以下、これらの部分の非開示情報該当性について検討する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
土地改良法第76条(平成18年法律第50号による改正前の規定。現行の第71条の2)の規定により、土地改良区の清算が結了したときは、清算人はその旨を都道府県知事に届け出なければならないとされており、本件対象公文書は特定の土地改良区の清算結了届出書に添付された決算報告書、これを承認した清算終了総会議事録である。
実施機関は、決算報告書に押印されている監事の個人印の印影、清算終了総会議事録に記載されている議長及び議事録署名人の個人印の印影並びに組合員(清算人及び監事を除き、議長及び議事録署名人を含む。)の氏名は、個人識別情報に該当し、公告されていないとして非開示としている。
ア 個人印の印影について
まず、監事の個人印の印影については、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものである。監事の氏名は、公告されていることから実施機関により開示されている情報であるが、当該監事の個人印の印影は、決算報告書が真正に作成されたことの証明のために、監事自ら押印したという使用状況を考えれば、当該印影は広く不特定多数の者に公にされることが予定されているものであるとは言えない。
次に、清算終了総会議事録に記載されている議長及び議事録署名人の個人印の印影は、いずれも個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものである。これらは、当該組合員個人が議長あるいは議事録署名人として議事を総会において議決したことを証明するために自ら押印したという使用状況を考えれば、当該印影は広く不特定多数の者に公にされることが予定されているものであるとは言えない。
したがって、監事、議長及び議事録署名人の個人印の印影は、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものとは言えないことから、条例第7条第2号ただし書イに該当せず、また、当該個人の権利利益を侵害してまで公にすべきであるとの公益上の理由も認められないから同号ただし書ロに該当せず、非開示が妥当である。
イ 組合員(清算人及び監事を除く。)の氏名について
組合員の氏名は、個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものである。
異議申立人は、土地改良法の規定により組合員名簿は閲覧できることから、組合員の氏名を非開示とする理由はないと主張する。
しかしながら、土地改良法第29条第1項では、土地改良区の理事は、組合員名簿を主たる事務所に備えて置かなければならないとされているものの、同条第4項で当該名簿を閲覧できるのは組合員及び利害関係者に限られており、組合員名簿は、通常、広く一般に公にされている情報とは言えない。
また、過去に組合員名簿が閲覧に供されていたという事実があったとしても、本件土地改良区は、既に解散し、清算結了していることから、現時点では何人も知り得る状態に置かれている情報とは言えない。
したがって、組合員の氏名は、条例第7条第2号ただし書イに該当せず、また、同号ただし書ロに該当する事情も認められないことから、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。 しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示とした部分は、清算終了総会議事録に記載されている本件土地改良区の残余財産の売却先の特定企業名である。
実施機関は、土地改良区の財産処分は知事への報告事項ではなく、法人の一般的な商取引に関する情報であり本号本文に該当すると主張する。
本件土地改良区は、既に解散し、清算結了していることから、そもそも競争上の地位その他正当な利益を害するかどうか考慮する必要はないものであるが、土地改良区の残余財産を購入した特定企業の側からすれば、本件土地改良区との個別の関係を示すものであり、どこから購入したかという内部管理に関する情報であると認められる。
したがって、特定企業名については、公にすることにより法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、条例第7条第3号に該当し、非開示が妥当である。
(6)異議申立人のその他の主張について
異議申立人は、清算結了届出書は無効であり、土地改良区の解散は無効であるから、非開示部分を開示するべきであると主張する。
しかし、当審査会は、実施機関が行った本決定の妥当性を判断するのであって、土地改良区の解散あるいは清算結了について調査し、判断する立場にはなく、異議申立人の上記主張は、採用できない。
(7)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
21. 11. 6 | ・諮問書の受理 |
21. 11.10 |
・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
21. 11.30 |
・非開示理由説明書の受理 |
21. 12. 1 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
21. 1. 8 |
・書面審理 (第332回審査会) |
22. 2. 5 |
・異議申立人の口頭意見陳述 (第334回審査会) |
21. 3.12 |
・審議 (第336回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成21年10月16日から) |
委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 |
丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。