三重県情報公開審査会 答申第344号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった「予定年収」を非開示とした部分開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成21年3月6日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定財団法人が三重県総務部長にあてた県職員の再就職の要望書一式」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成21年3月10日付けで行った公文書部分開示決定のうち、「予定年収」を非開示とした部分(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定財団法人から実施機関へ提出された「県退職者の再就職について(依頼)」である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1)本件異議申立てに係る非開示部分について
本件異議申立てに係る非開示部分は、「県退職者の再就職について(依頼)」の本文中に記載されている採用予定職名ごとの「予定年収」であるが、その額は、県を退職して特定財団法人に再就職した職員等に実際に支給されている金額(年収)であり、開示すれば、三重県総務部がホームページで公表している「県退職者の関係団体役員等の就任状況」と組み合わせることにより、当該職員等の年収がわかることになる。
(2)個人に関する情報について
条例第7条第2号本文は、「個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るもの」を非開示情報として規定している。
「三重県情報公開条例の解釈及び運用」によれば、「個人に関する情報」とは、思想、信条、信仰、身分、地位、職歴、資格、学歴、所属団体、家庭状況、収入、財産状況・・・とされている。また、「特定の個人が識別され得るもの」とは、氏名、生年月日及び住所のように個人が直接識別できるような情報のほか、他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報を含むとされている。
このことから、本件異議申立てに係る非開示部分は、条例第7条第2号本文に該当すると認められ、また、当該情報の内容に照らせば、公務員の職務に関する情報に当たらず、同号ただし書イ及びロに該当しないことは明らかである。
(3)異議申立人の主張について
異議申立て理由のうち、予定年収について非開示とすることは雇用条件について明示すべき職業安定法の規定を無視することであるとの主張については、職業安定法は広く県民からの求職の申込みを受理する場合を対象としたものであり、特定財団法人からの要請に基づいて県が行う情報提供は、情報を提供する対象を退職予定者に限定しており、職業安定法は適用されない。
また、個人情報保護法(条例)に違反するとの主張については、県が特定財団法人に退職予定者の情報を提供する際には、情報提供することの承諾を本人から得ており、これに当たらない。
(4)非開示の妥当性について
本件開示請求に対して実施機関が非開示としたのは、個人の年収という私生活に関する情報と判断したからである。これを開示すると、当該団体の職員等の私生活上の権利利益を害するおそれがあることから非開示が妥当であり、公益上開示すべき理由は見当たらない。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由の要旨は、異議申立書及び意見書の記載によると、おおむね次のとおりである。
本件開示請求は、三重県が平成20年度から特定業務を特定財団法人に委託しているが、この委託料には特定の県退職職員の予定年収が織り込まれるなど、特定財団法人と監督官庁である三重県の間で違法な「天下り」あっせんが行われている事実を明らかにするために行ったのである。
県職員の再就職あっせん要請に係る予定年収を非開示とすることは、雇用条件について明示すべき職業安定法の規定を無視することであり、県出資法人への就職は、本来公募すべきである。
予定年収を非開示としたことは、県民に対する説明責任を放棄したものであり条例に違反する。また、県が特定財団法人に退職予定者の情報を提供することは、個人情報保護法(条例)に違反する。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
実施機関は、本件非開示部分が条例第7条第2号に該当すると主張しているので、以下この点について検討する。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書は、県出資法人である特定財団法人から実施機関へ提出された採用職(理事長、常務理事ほか)ごとの人材紹介に関する要請文書である。
本件対象公文書には、「採用予定職名」、「職務内容」、「採用予定時期」、「予定年収」、「人材要請理由」、「必要とする能力・経験等の具体的な内容」等が記載されており、このうち「予定年収」が非開示とされている。
実施機関は、退職する公務員の再就職の公平性、透明性を確保するため、県が筆頭出資者である団体等へ再就職した職員の氏名、県での最終職名、再就職先の団体名、役職名、再就職日を取りまとめた「県退職者の関係団体役員等の就任状況」を毎年公表していることから、これと本件対象公文書に記載された「予定年収」を照合することにより、特定の個人の年収が明らかになり、条例第7条第2号に該当するため非開示としている。
実施機関の説明によれば、再就職の決定過程は個別ケースごとに異なるが、本件については、本件対象公文書により特定財団法人側から必要とする人材の推薦の要請が実施機関に対してなされ、その要請を踏まえて、要件に合致する職員の氏名等の情報を、当該職員本人の承諾を得て提供したとしている。
そして、特定の公務員の再就職先における「予定年収」は、職員個人の収入に関する情報そのものであって、公務員の職務に関する情報とは認められず、また、この情報を公にする慣行はなく、条例第7条第2号の非開示情報に該当する、と主張する。
しかしながら、実施機関における本件再就職の手続が上記のようなものであり、給料等の勤務条件が、当該職員と財団法人との間で取り決められたことに照らせば、本件対象公文書は、特定の県退職予定者の再就職を要請する文書とはいえず、本件対象公文書中に記載された「予定年収」は、仮に県退職予定者が当該財団法人に再就職した場合の勤務条件の一つにすぎないものであると解され、特定の職員の退職後における収入であると認めることはできない。
したがって、「予定年収」を条例第7条第2号の「個人に関する情報であって特定の個人が識別され得るもの」に該当するとして非開示とした実施機関の判断は、妥当でない。
なお、異議申立人は、前記5のとおり種々主張するが、上記のとおり条例第7条第2号に該当せず開示すべきであると認められるので、異議申立人の主張は、いずれも判断するまでもない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
21. 5. 1 | ・諮問書の受理 |
21. 5. 8 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
21. 5.29 | ・非開示理由説明書の受理 |
21. 6.18 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
21. 9.18 |
・書面審理 (第326回審査会) |
21. 9.18 | ・意見書の受理 |
21.10.30 |
・審議 (第328回審査会) |
21.12. 4 |
・審議 (第330回審査会) |
22. 1. 8 |
・審議 (第332回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 竹添 敦子 | 三重短期大学教授 (平成21年10月16日から) |
委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤本 真理 |
三重大学人文学部講師 (平成21年10月15日まで) |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。