三重県個人情報保護審査会 答申第57号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成21年2月12日及び平成21年2月17日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成○年○月○日付け部長報告等」の訂正請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成21年5月11日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書、異議申立書及び口頭による意見陳述において主張している内容は、以下のように要約される。
(1) 平成○年○月○日付け部長報告において、事故通報日時が6月20日午後4時50分となっているが、 通報したのは事故当日の6月18日である。私は事故当日の入院する直前に○○氏に通報を依頼した。また、平成○年4月18日付けで、「平成○年6月18日○○さんから○○さんが同日○○トンネルの道路陥没のため転倒し受傷入院したとの通知を受けました。」と記入の確認書の提出を受けた。この確認書は実施機関の職員と私の娘との話し合いの中で合意の上で作成することを決めたものである。この確認書には実施機関職員のサインがあり、6月18日に通報を受けたということの証明である。平成○年○月○日付け部長報告を確認書の内容に訂正されるよう請求する。
(2) 平成○年○月○日付け部長報告において、「○○氏の代理人」と書かれている「代理人」の字句を訂正されたい。実施機関は、私の代理人の氏名は○○氏であると回答しているが、私は代理人を選任しておらず、代理人は実在しない。
(3) 庁舎で保管されていた破損部品の写真の日付が6月21日になっているが、撮影日時を正しい日時に訂正されたい。写真の実施機関の職員が6月20日に自転車店に事故車の写真の撮影に来たが、カメラが電池切れのためバイクの部品を持ち帰って写真撮影している。6月20日に持ち帰ったなら6月20日に撮影されているはずである。実施機関の職員が事故車の撮影に6月21日に自転車店を訪れているが、その事故車の撮影時刻よりも部品の写真の撮影時刻が遅くなっているのはおかしい。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
(1) 通報日時については、交渉当初から○○建設事務所と異議申立人との間で主張が食い違っており、解決に向け調査を行ったが、両者の主張を客観的に裏付ける証拠を発見することはできなかった。
平成○年○月○日の示談の席で、異議申立人から一方的に異議申立人作成の「確認書」が提示され、自分の気持ちを整理するために捺印して欲しいと申出があった。さらには同席していた異議申立人側の立会人からも、この「確認書」は対外的には使用せず、あくまでも異議申立人が自分のために保管するだけと口添えがあった。そのため、出席していた職員は、事故発生の通知を受けた日は6月20日であると認識していたが、示談を成立させるためにはやむを得ないと判断しサインしたものである。
このような状況下で作成された「確認書」を根拠として、訂正請求を求めることは信義に反し、民法第95条に規定する錯誤に該当すると考えられることから、この意思表示は無効である。よって、「確認書」は無効である。また、○○建設事務所としては、確認書のコピーも保有していない状況であり、異議申立人から「確認書」の正当性を立証する客観的な書類の提示もない。
さらに○○建設事務所において、報告内容について事実関係を調査したが、それによれば、本件事故の報告を受けたのは平成○年6月20日16時50分であり、○○氏からの電話連絡によるものである。それ以前の平成○年6月18日頃に同様の報告を受けたかどうかについて、当時在籍していた職員に確認したところ、そのような報告は誰も受けていない。
前述のとおり、異議申立人が訂正の根拠としている「確認書」は、示談交渉の過程で異議申立人本人が納得するために、異議申立人自身が作成したものであり、○○建設事務所の公式な見解とは全く異なるものである。
したがって、この「確認書」を根拠として訂正を求める異議申立人の主張を承認することはできず、公文書の訂正をすることはできない。
(2) 「代理人」との標記については、「代理を行う者」という法律用語としての使用ではなく、本人に代わって事故の通報をした人との意味で使用している。したがって、これは用語の解釈に関する見解の相違であって、公文書の訂正をすることはできない。
(3) バイク修理写真の撮影日については、カメラの機能により撮影日時が自動で表示されるものであり、また異議申立人が訂正を求めた日時が正確な事実であることを立証するに足りる客観的な書類の提示もない。したがって、異議申立人の主張を承認することはできず、公文書の訂正をすることはできない。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった保有個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象個人情報について
本件対象個人情報は、異議申立人の道路陥没に伴う転倒事故に係る○○建設事務所長から県土整備部長あての平成○年○月○日付け部長報告及び当該転倒事故に係るバイク修理写真である。
(5) 個人情報の非訂正の妥当性について
ア 事故通報日の訂正について
異議申立人は、実施機関の職員が平成○年6月18日に事故の通報を受けたとの記載のある職員のサイン入りの平成○年4月18日付け確認書を提出し、事故通報日は平成○年6月18日であると主張する。
一方、実施機関は、事故発生の通知を受けた日は平成○年6月20日と認識していたが、示談を成立させるためにやむを得ず確認書にサインしたものであると主張している。
当審査会としては、両者の意見を踏まえると、当該確認書記載の日付の真偽について不明確と判断せざるを得ず、事故の通報日が平成○年6月18日であったことを証明する書類として認めることは困難である。
また、異議申立人は訂正請求書にバイクを修理した自転車店の店主の日記を添付している。それによると、平成○年6月19日に実施機関の職員から事故の件で電話連絡があったとの記載になっており、平成○年6月19日以前に実施機関が事故を認識していたかのように読むことができるが、これは当初6月20日の日記の欄に記載されていたものを加筆・訂正したものとのことであるので、真偽が不明確であり、本件においてはこの日記を事実を証明する書類として認めることは困難である。
以上のことから、訂正請求の内容が事実であることの確認ができないため、実施機関が非訂正決定を行ったことは妥当であると認められる。
イ 「代理人」の字句訂正について
異議申立人は事故通報者に代理行為を依頼しておらず、事故通報者は代理人ではないと主張している。
しかしながら、異議申立人が主張する法律行為を行う民法上の「代理」以外にも、一般に、本人に代わって行為を行う者として「代理」という言葉を使うことはありえることであり、実施機関が主張するように用語の解釈の問題である。
したがって、本件において「代理人」という用語は、客観的な正誤の判定になじむ事項ではなく、訂正請求の対象にはならないものであると認められる。
ウ バイク修理写真の撮影日時の訂正について
異議申立人は、実施機関が自転車店に写真を撮りに来た際の経緯を書いた文書のほか、バイクを修理した自転車店の店主の日記を提示し、写真は平成○年6月20日に撮影されたはずであると主張している。
しかしながら、日記には、実施機関の職員が写真を撮りに来たが電池切れにより部品を持ち帰り、2、3日後に返品したと書かれているのみで、具体的な撮影日の記載は見受けられなかった。また、他に具体的に撮影日時を証明するものがなく、訂正請求の内容が事実であることが確認できないため、実施機関が非訂正決定を行ったことは妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
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処理内容 |
平成21年 6月 25日 |
・ 諮問書の受理
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平成21年 7月3日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成21年 7月15日 |
・ 理由説明書の受理
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平成21年 7月21日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
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平成21年8月19日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 (第73回個人情報保護審査会) |
平成21年 9月28日 |
・ 意見書の受理 ・ 異議申立人の口頭意見陳述 ・ 審議 (第74回個人情報保護審査会) |
平成21年10月30日 |
・ 審議 ・ 答申 (第75回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
樹神 成 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |