三重県情報公開審査会 答申第342号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年11月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の職員の過去1ヶ月の勤務状況の分かる文書」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成20年11月27日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)のうち、特定の職員の休暇簿に記載された休暇の種類を非開示とした部分の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定の職員の休暇簿である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
特定の職員の休暇簿に記載された休暇の種類については個人情報であり、特定の個人が識別され得る情報である。平成15年11月21日最高裁第二小法廷判決が示すとおり、個々の職員の休暇の種別、その原因ないし内容や取得状況を示す情報は、公務とは直接かかわりのない事柄であって、私事に関する情報である。したがって休暇の種類については、公務員の職務に関する情報に含まれず、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあり、また、法令等又は慣行により公にされ又は公にすることが予定されている情報や、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するために公にすることが必要であるとは認められないから、条例第7条第2号に該当するものとして非開示とした。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、以下の理由により、非開示とする理由はないというものである。
本請求は、特定の職員を識別して請求しているから、特定の個人が識別され得る個人情報であるため非開示とした理由は根拠がない。
最高裁判決を引用しているが、これによると「当該職員個人の私事に関する情報か否か」で判断すべきことを説示している。
地方公務員法は地方公務員が職務専念義務を解除される場合は、法律及び条例で定めるとしている。三重県の場合、職員の勤務時間、休暇等に関する条例(以下「休暇条例」という。)第12条において、職員の休暇の種類は年次有給休暇、病気休暇、特別休暇、介護休暇及び組合休暇とするとされている。特別休暇以外は民間企業と大差はないが、特別休暇による職務専念義務の免除の詳細は21項目にわたる。
最高裁判決は職員の公務遂行に関する情報は当該職員の私事に関する情報が含まれる場合を除き、当該職員が個人にあたることを理由に非開示情報に該当するということはできないとしており、職務専念義務が免除された事由が厚生事業への参加であることが明らかになる場合であってもその個別的内容までが明らかになるものでない以上、私事に関する情報とはいい難いとしている。
三重県の条例や規則には、引用判決が判示している厚生事業への参加という表現はないが、これと同等なものは、三重県の規則である職員の勤務時間、休暇等に関する規則(以下「休暇規則」という。)第11条第4項にボランティア休暇等が規定されている。
開示請求者は、本件処分を受けた場合、休暇がどのようなものであるかを知り得ない。最高裁判決に違反していても異議を申し立てることはできない。これは三重県情報公開条例が保障する知る権利を侵害するものである。すなわち、最高裁判決の趣旨に沿い、開示すべきものと非開示にすべきものの理由を明確にすべきであった。理由付記に不備があるのであるから本件処分は違法であり取り消しは免れない。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書は、特定の職員の休暇簿であり、実施機関は、休暇取得者である当該特定の職員の氏名、承認者である所属の室長の氏名、休暇の期間を開示し、休暇の種類を非開示とした。休暇の種類については、休暇条例第12条により年次有給休暇、病気休暇、特別休暇、介護休暇及び組合休暇とすると定められている。
実施機関は、非開示理由説明書において、休暇の期間については、公務に従事しなかったことを表す事実であり、公務員の職務に関する情報として開示したとする一方、休暇の種類については最高裁判決を引用し、条例第7条第2号に規定するところの個人に関する情報に該当するものであり、公務員の職務に関する情報に含まれず公にすることにより個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとして非開示としたものである。
実施機関が引用した最高裁判決は、出勤簿に関する判決であり、「個々の職員の休暇の種別、その原因ないし内容や取得状況を示す情報は、公務とは直接関わりのない事柄であって、私事に関する情報ということができるが、公務に従事しなかったことそれ自体は、やはり公務遂行に関する情報としての面があるというべきである。そうすると出勤及び出張に関する情報を開示することが、その反面として、それ以外の日に公務に従事しなかったこと自体を明らかにするとしても、公務に従事しなかった理由まで直ちに明らかになるわけではないから、私事に関する情報を開示することにはならないというべきである」としている。
このことから、最高裁判決は休暇の種類については公務員の職務の遂行にかかる情報ではなく、私事に関する情報であることを明らかにしており、条例第7条第2号において規定されている個人情報であると解することができる。
また、実施機関は、休暇の期間を開示しているが、本県においては出勤簿が廃止されていることを踏まえると、公務に従事しなかったことを明らかにするものとして休暇の期間を開示したことは妥当である。
異議申立人は、最高裁判決は当該職員個人の私事に関する情報か否かで判断すべきであり、厚生事業への参加は私事に関する情報とはいい難いと説示しており、三重県の場合、これと同等なものが休暇規則第11条第4項に規定されていると主張するが、最高裁判決が開示すべきとした厚生事業への参加は、職務専念義務の免除に関する条例に基づく職務専念義務の免除であり、異議申立人が主張するいわゆるボランティア休暇は、休暇条例及び休暇規則に基づく特別休暇であるから、職務専念義務の免除とはその性格を異にする。
最高裁判決を踏まえると、職務専念義務の免除に関する条例に基づく職務専念義務の免除は、公務員たる地位ないしその義務に関わる情報で、公務に関する情報であるから、職務専念義務の免除としての厚生事業への参加は開示すべきであるが、実施機関が非開示としたのは、休暇の種類であって、職務専念義務の免除ではないから異議申立人の意見は採用することができない。
また、実施機関は、特定の職員の過去1ヶ月の勤務状況の分かる文書として、本決定において休暇簿に記載された休暇の期間については開示しており、勤務状況として公務に従事していない期間については明らかであるから、休暇の種類については本号ただし書ロに規定する人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報に該当するとまでは認められない。
したがって、休暇の種類については本文に該当し、ただし書に該当しないことから、非開示が妥当である。
(4)条例第7条第2号(個人情報)の該当性に関する少数意見
多数意見は上記のとおりであるが、本件事案については早川委員から多数意見と異なる見解が示されたため、下記に付け加える。
条例第7条第2号(個人情報)は、公務員の職務に関する情報を個人情報から除外し、原則開示することとし、例外的に「公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示にすることができるものと定めている。
対象公文書である休暇簿は、公務員が公務に従事しなかったことを示す文書として「公務員の職務に関する情報」と言える。そして、そのうち実施機関が非開示とした「休暇の種類」については、「病気休暇」、「介護休暇」、「組合休暇」はその名称から、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるものとして、非開示とすることは可能であっても、「年次休暇」、「特別休暇」については、その名称だけでは当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとまではいえず、開示すべきものと解する。けだし「年次」休暇は、なんら個人の私事に関する情報を含まず、また「特別」休暇についても、特別休暇の具体的な理由を明らかにしない以上、何ら私事に関する情報を含むものといえないからである。
以上の観点から、多数意見と異なり、本件異議申立は理由があるものとして、実施機関の決定を取り消し、再度、開示非開示の判断をすべきである。
(5)結論
よって、多数意見に従い主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は決定通知書において特定の個人が識別され得る個人情報であるため非開示としているが、特定の個人を識別して請求されていることを踏まえて非開示とした理由について十分に説明するべきであり、今後、適切な制度の運用に努められたい。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
20.12.12 | ・諮問書の受理 |
20.12.17 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
21. 1.16 | ・非開示理由説明書の受理 |
21. 1.21 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
21. 5.18 |
・書面審理 (第318回審査会) |
21. 6.15 |
・異議申立人の口頭意見陳述 (第319回審査会部会) |
21. 7.13 |
・審議 (第321回審査会) |
21. 8.10 |
・審議 (第323回審査会) |
21. 9. 8 |
・審議 (第325回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤本 真理 | 三重大学人文学部講師 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。