三重県情報公開審査会 答申第341号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成20年12月3日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定日に特定ショッピングセンターで発見された男性に関して死後どれくらい経っていたかがわかる文書」の開示請求に対し、三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成20年12月12日付けで行った公文書非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを、実施機関の上級庁である三重県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書は、特定の変死事案に関する死体発見報告及び検視調書並びにこれらの添付書類(以下、これらの文書をまとめて「本件対象公文書」という。)である。
4 諮問庁の非開示理由説明要旨
諮問庁の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第48条(適用除外)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1)訴訟に関する書類の定義
刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)第53条の2に規定する「訴訟に関する書類」とは、刑訴法第47条に規定する「訴訟に関する書類」と同義とされており、同法第47条に規定する「訴訟に関する書類」とは「被疑事件・被告事件に関して作成された書類をいい、裁判所又は裁判官の保管している書類に限らず、検察官、司法警察員、弁護人その他第三者の保管しているものも含む。」(神戸地裁平成5年9月8日決定)と解されており、これが通説とされている。
刑訴法第53条の2により訴訟に関する書類及び押収物が行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)の適用除外とされた趣旨は、以下のとおりである。
ア 刑事司法手続きの一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により確保されるべきであること
イ 刑訴法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、被告事件終結後においては、同法第53条及び刑事確定訴訟記録法により、一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続によることとされるなど、これらの書類等は、刑訴法第40条、第47条及び第299条等並びに刑事確定訴訟記録法等により、その取扱い、開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること
ウ これらの書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであること
(2)訴訟に関する書類該当性
人が不自然死(明らかな病死及び自然死と即断できない死)した場合においては、司法検視又は行政検視を行うこととされている。司法検視は刑訴法第229条第1項により、変死体については検察官が検視をしなければならないと定められているが同条第2項において、検察官は、検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができると代行検視を認めている。
司法検視は、人の死亡が犯罪に起因するものであるかどうか判断するために、五官の作用により、死体の状況等を調べる処分をいい、検視規則(昭和33年国家公安委員会規則第3号)で定められている。
本件対象公文書は、死体発見報告、検視調書、現場写真及び死体の写真、死体所見が記載された書面等から構成されており、これら検査関係書類は、当該検視により事件性が認められ被疑者が検挙された場合には、検察庁に送致されるものであるが、本件検視関係書類は、死亡が犯罪によるものであるとの判断に至らず、現在、管轄警察署において保存されているものである。
しかし、たとえ変死体について、その死亡が犯罪によるものではないと判断した場合でも、その後の事情の変化によって、犯罪による死亡の疑いがあるものと認められることがあり、送致手続をとる必要が生じるので訴訟に関する書類に該当することは明らかである。
(3)審査請求人の主張について
審査請求人は、本事案について「事件性はない」と警察自身が公言しており、条例第48条による適用除外にはあたらないと主張するが、警察において「事件性なし」と公表した事実はなく、上記(2)の理由からも審査請求人の主張は失当である。
5 審査請求の理由
本事案について「事件性はない」と警察自身が公言しており、条例第48条による適用除外にはあたらない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第48条(適用除外)の意義について
本条は、情報公開法の適用が除外されている公文書については、条例の規定を適用しないことを定めたものである。
行政機関の保有する情報の公開に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律で、情報公開法の適用を除外することが定められているのは、刑訴法に規定する訴訟関係書類及び押収物、漁業法に規定する免許漁業原簿等である。
(3) 訴訟に関する書類該当性について
諮問庁は、本件対象公文書が刑訴法第53条の2の訴訟に関する書類に該当することから情報公開法の適用が除外され、条例第48条の規定により、これらの文書を非開示とした本決定は妥当である旨説明する。これに対し、審査請求人は、訴訟に関する書類に該当しないと主張しているので、まず、訴訟に関する書類を情報公開法の適用から除外した趣旨について検討する。
刑訴法第53条の2の規定する訴訟に関する書類とは、被疑事件・被告事件に関して作成又は取得された書類をいい、裁判所が保管している書類に限られず司法警察員が保管しているものも含まれると解されるが、同条がこれを情報公開法の規定の適用から除外した趣旨は、①訴訟に関する書類及び押収物については、刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成・取得されたものであるが、捜査・公判に関する国の活動の適正確保は、司法機関である裁判所により図られるべきであること、②刑事訴訟法第47条により、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止する一方、被告事件終結後においては、同法第53条及び刑事確定訴訟記録法により一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め、その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続によることとされるなど、これらの書類等は、刑事訴訟法(第40条、第47条、第53条、第299条等)及び刑事確定訴訟記録法により、その取扱い、開示・不開示の要件、開示手続等が自己完結的に定められていること、③これらの書類及び押収物は類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査、公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることによるものである(総務省行政管理局編・詳解情報公開法)。
すなわち、訴訟に関する書類は、類型的に秘密性が高く、その大部分が個人に関する情報であるとともに、開示により犯罪捜査や公訴の維持等に支障を及ぼすおそれが大きいものであることから、これらの書類の取扱いは刑事訴訟手続に委ねることとしたものと解される。
この考えに基づき、以下、本件対象公文書が刑訴法第53条の2の訴訟に関する書類に該当するかについて検討する。
本件対象公文書は、死体発見報告及び検視調書並びにこれらの添付書類で構成されており、いずれも刑訴法第229条第2項に基づいて特定警察署司法警察員が行った代行検視の過程において作成された文書である。これら検視関係書類は、特定の変死体について、それが犯罪によるものであるか否かを種々の観点から検討・判断した内容が記載されているものと解され、個人のプライバシーや犯罪の捜査に深く関係するものと認められる。
検視により死亡が犯罪によるものと認められ被疑者が検挙された場合には、これら検視関係書類は検察官に送致されることになるが、本件対象公文書は、送致手続がとられることはなく、その原本が特定警察署に保管されていることから、現時点において、死亡が犯罪によるものであるとの判断に至っていないことが確認できる。
しかしながら、これら検視関係書類は、送致手続をとった場合はもとより、直ちに、送致手続をとらなかったとしても、その後の事情の変化により、犯罪による死亡の疑いが判明した場合には送致手続をとる必要が生じ、当該事件に関する訴訟記録となる可能性のある書類であることからして、被疑事件・被告事件に関して作成又は取得された書類であり、訴訟に関する書類に該当することは明らかである。
以上のことから、本件対象公文書は、情報公開法の適用が除外される刑訴法第53条の2の訴訟に関する書類に該当し、条例の適用対象となる公文書に当たらないことから非開示とした実施機関の本決定は妥当である。
なお、審査請求人は、実施機関が事件性はなく自殺の可能性が高いと判断していることが新聞報道により公表されている旨主張するが、本決定は、本件対象公文書につき、訴訟に関する書類に該当することをもって非開示としたのであり、実施機関及び諮問庁がこのような報道発表等をしたという事実は認められないから、審査請求人の主張を採用することはできない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の判断は上記のとおりであるが、実施機関の対応について、次のとおり意見を申し述べる。
審査請求人は、本件開示請求に先立ち、平成20年12月2日、管轄警察署を訪問し、死後どのくらい経っているか問い合わせたが、回答が得られなかったため、翌12月3日、本件開示請求書を提出したとのことである。
当審査会において、事務局職員をして本事案に関する新聞記事を確認させたところ、平成20年12月4日付け以降の各紙において、死後約一ヶ月が経過していた旨報じられていたことが確認された。
公文書の開示制度は、情報公開制度のなかで重要な役割を果たしているが、県民等の側が請求しない限り情報が開示されないこと、第一義的には請求者にしか開示されないことなどの欠点を有している。このため、県民に対し説明する責務(説明責任)を全うするという観点からすれば、請求があった場合に開示するという受動的な情報提供に止まらず、能動的な情報提供を積極的に進めていく必要がある。
とりわけ、本事案のように県民生活に重要な影響を与える情報は、適時適切に提供することにより、説明責任が全うされるよう努めることを要望する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
21. 2.20 | ・諮問書の受理 |
21. 2.25 | ・諮問庁に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
21. 3.17 | ・非開示理由説明書の受理 |
21. 3.19 |
・審査請求人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
21. 7.17 |
・書面審理 (第322回審査会) |
21. 8.27 |
・審議 (第324回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤本 真理 | 三重大学人文学部講師 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。