三重県個人情報保護審査会 答申第55号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成18年1月2日、平成18年1月5日及び平成18年1月24日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の裁判等に三重県教育委員会が提出した答弁書等」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成18年1月31日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立人から訂正請求があった答弁書等これらの書類については、争訟上の主張であるから、争訟の相手方当事者が見解に相違がある場合は、当該争訟において反論・立証を行うべきであり、当該争訟とは全く別の制度である個人情報保護制度によって、その主張の訂正を求めることは、同制度の本来の趣旨を逸した請求であり、認められるものではない。
4 異議申立人の主張
(1) 異議申立人が訂正請求書において主張している訂正を求める箇所及び訂正請求の内容は次のとおり要約される。
ア 平成18年1月2日付け訂正請求
①訂正を求める箇所
平成○年○○事件平成○年○月○日付実施機関提出の答弁書2ページ16~22行目に「申し立て人は○○に赴任以来職員会議や諸会議・委員会等において再三再四無断録音をなしており、これを発見されるたびに○○校長その他教員からその非を指摘され口頭もしくは文書により注意されていたのであるが、まったく反省せず、かえって、同校長や当該出席教員らの承諾を得ることなく、自分のホームページ上に発表し、続けるのみならず、その内容において事実の歪曲、虚偽事実の創作等により○○校長その他の教員の名誉や信用を毀損していた。」との記述
②訂正請求の内容
①のうち、「異議申立人がホームページ上に発表した『職員会議や諸会議・委員会等において無断録音』の具体的箇所」について個人情報開示請求した。実施機関は平成○年○○事件において実施機関により提出された乙第11号証であるとの決定を行った。しかしながら、乙第11号証には「異議申立人がホームページ上に発表した『職員会議や諸会議・委員会等において無断録音』の具体的箇所」は存在しなかった。したがって、①に記された内容は直ちに訂正されなければならない。
イ 平成18年1月5日付け訂正請求
①訂正を求める箇所
平成○年○○事件被・錘O重県、○○らが平成○年○月○日提出の答弁書4ページ16行目「本館に戻り、『校長室に来なさい。』というが、原告は、しきりに『テープを返してください。』と繰り返すのみで、被告○○の呼びかけに応じず、その間『警察に訴えてやる。』といって本館1階の公衆電話を使って『校長と教頭にテープレコーダーを取られました。』と誰かに電話するので『そんな話し振りでは相手に理解してもらえないよ。』と被告○○が言うが一方的な話を続ける有様であった。」との記述。
②訂正請求の内容
事件直後の様子の録音テープは反訳書(事実を証する書類)のとおりである。事実を証する書類によれば被告○○は「校長室に来なさい。」とも「そんな話し振りでは相手に理解してもらえないよ。」とも言っていない。異議申立人は「うったえます。」と冷静に言ってはいるが「警察に訴えてやる。」とは言っていない。異議申立人に「うったえます。」と冷静に言われた被告○○は「ま、まった。」といっている。さらに被告○○は「できまへんなぁ。」といっている。したがって①の記述は被告○○らによりでっち上げられたものであり、訂正されなければならない。
ウ 平成17年1月24日付け訂正請求
①訂正を求める箇所
ⅰ) 異議申立人の○○についての人事委員会の申し立てにおける処分者実施機関平成○年○月○日提出の再答弁書4ページ「2反論書『2前校長らによる受傷』について」2行目~4行目「申立人は、医師に事実でないことを訴えているのみならず、時間経過とともに、誇張がすぎているほどの“デッチ上げ”的主訴をなしている。」との記述
ⅱ)異議申立人の○○についての人事委員会の申し立てにおける処分者実施機関平成○年○月○日提出の再答弁書4ページ「2反論書『2前校長らによる受傷』について」8行目~10行目「申立人主張の後遺症障害は、処分者答弁書第3,1(2)記載の事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等であって」とあるが「申立人主張の後遺症障害」が「処分者答弁書第3,1(2)記載の事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等」との記述
② 訂正請求の内容
異議申立人は次の事項について個人情報開示を求めた。
ⅰ) 異議申立人の○○についての人事委員会の申し立てにおける処分者実施機関平成○年○月○日提出の再答弁書4ページ「2反論書『2前校長らによる受傷』について」2行目~4行目「申立人は、医師に事実でないことを訴えているのみならず、時間経過とともに、誇張がすぎているほどの“デッチ上げ”的主訴をなしている。」とあるが異議申立人が医師に訴えたという「事実でない、時間経過とともに、誇張がすぎているほどの“デッチ上げ”的」な主訴の具体的内容
ⅱ)異議申立人の○○についての人事委員会の申し立てにおける処分者実施機関平成○年○月○日提出の再答弁書4ページ「2反論書『2前校長らによる受傷』について」8行目~10行目「申立人主張の後遺症障害は、処分者答弁書第3,1(2)記載の事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等であって」とあるが、「申立人主張の後遺症障害」が「処分者答弁書第3,1(2)記載の事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等」であると言う具体的な根拠
それに対して実施機関は平成○年○○請求において実施機関より平成○年○月○日付け提出された答弁書、平成○年○月○日付提出された再答弁書、乙第3号証及び乙第4号証を個人情報開示した
しかしながら、異議申立人が求めた個人情報「主訴の具体的内容」、「具体的な根拠」は一切記載されていなかった。ましてやその中には異議申立人が記載の根拠を求めた「平成○年○月○日付提出された再答弁書自身」まで含まれている。②ⅰ)の具体的内容、②ⅱ)の根拠は存在しないのである。
したがって、②ⅰ)の「“デッチ上げ”的主訴をなしている。」とは虚偽の記述である。②ⅱ)の「事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等であって」とは何の根拠もない記述であるから創作であり、それが事実でないのはもちろんである。
したがって①の記述は直ちに訂正されなければならない。
(2) 異議申立人が異議申立書及び意見書において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立人が情報訂正を求めたのは、実施機関の提出した答弁書、再答弁書の事実でない部分である。異議申立人はこれらについて事実でないことを立証した上で請求を行った。ところが実施機関は「訴訟上の主張であるから情報訂正しない。」と非訂正決定を行った。訴訟上の主張であろうとなかろうと事実でなければ情報訂正されるのは当然のことである。このような決定が許されるならば、実施機関は訴訟においていくらでも事実でないことを述べられるわけである。
5 審査会の判断
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいう。したがって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正請求については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、平成○年○○事件で実施機関が平成○年○月○日付け裁判所に提出した答弁書、平成○年○○事件で実施機関らが平成○年○月○日付け裁判所に提出した答弁書及び平成○年○○請求で実施機関が平成○年○月○日付け三重県人事委員会に提出した再答弁書の記述である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
実施機関は、答弁書等これらの書類については、争訟上の主張であるから、争訟の相手方当事者が見解に相違がある場合は、当該争訟において反論・立証を行うべきであり、当該争訟とは全く別の制度である個人情報保護制度によって、その主張の訂正を求めることは、同制度の本来の趣旨を逸した請求であり、認められるものではないとして非訂正決定を行っている。
しかしながら、条例における保有個人情報の訂正請求権は、県の公文書に記録された個人情報に対して行うことができる権利であり、当該個人情報の訂正に関して他の法令等の規定により特別の手続きが定められている場合を除き、訂正請求を行うことができるものであると認められる。実施機関が主張するように「答弁書等これらの書類については、争訟上の主張であるから、争訟の相手方当事者が見解に相違がある場合は、当該争訟において反論・立証を行うべき」であったとしても、条例に基づく訂正請求権を妨げるものではない。
条例における訂正請求制度は、請求者に訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等の提示を求めており、請求者から提示又は提出された書類等によって訂正請求の内容が事実と合致することが証明されるかどうかの確認調査を行うものであることに鑑みると、審査会自らが訂正請求の内容が事実と合致することの証拠を収集して事実の究明を行うことまで求めているものではないと解される。したがって、当審査会は、異議申立人及び実施機関の双方の主張、提出書類及び意見陳述等から得られた客観的な情報の範囲内で、訂正請求の内容が事実と合致すると認められるか否かについて審査を行うこととなる。
以上のことを踏まえ、当審査会は異議申立人から出された各訂正請求について、以下のとおり判断する。
ア 平成18年1月2日付け訂正請求の保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、本件訂正請求に先立つ開示請求で、「異議申立人がホームページ上に発表した『職員会議や諸会議・委員会等において無断録音』の具体的箇所」について請求したところ、実施機関が開示した乙第11号証には異議申立人が求める「異議申立人がホームページ上に発表した『職員会議や諸会議・委員会等において無断録音』の具体的箇所」が存在しなかったと主張する。
しかしながら、異議申立人が訂正を求める箇所は、平成○年○○事件平成○年○月○日付実施機関提出の答弁書2ページ16~22行目の「申し立て人は○○に赴任以来職員会議や諸会議・委員会等において再三再四無断録音をなしており、これを発見されるたびに○○校長その他教員からその非を指摘され口頭もしくは文書により注意されていたのであるが、まったく反省せず、かえって、同校長や当該出席教員らの承諾を得ることなく、自分のホームページ上に発表し、続けるのみならず、その内容において事実の歪曲、虚偽事実の創作等により○○校長その他の教員の名誉や信用を毀損していた。」との記述である。この記述は異議申立人が行った行為に対する実施機関の評価であり、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものであると認められる。
イ 平成17年11月15日付け訂正請求の保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、テープレコーダーを取り上げられた直後の録音テープの反訳書を提示し、答弁書に記載の「校長室に来なさい。」、「警察に訴えてやる。」、「そんな話し振りでは相手に理解してもらえないよ。」とは言っていないと主張する。
しかしながら、答弁書の記述は、異議申立人と校長らとのやりとりの概要を意訳したものであり、実施機関の評価を含むものである。したがって、当該記述は客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものであると認められる。
ウ 平成17年11月17日付け訂正請求の保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、開示された文書に「事実でない、時間経過とともに、誇張がすぎているほどの“デッチ上げ”的主訴」の具体的内容及び「申立人主張の後遺症障害が処分者答弁書第3,1(2)記載の事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等」であるという具体的な根拠が記載されていないと主張し、「“デッチ上げ”的主訴をなしている。」という記述及び「事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等であって」という記述の訂正を求めている。
しかしながら、「“デッチ上げ”的主訴をなしている。」との記述は、異議申立人が医師に対して行った主訴についての実施機関の評価であり、また、「事故の後遺症障害や平成○年度の公務災害認定の外傷等であって」とは、異議申立人主張の後遺症障害に対する実施機関の評価であって、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものであると認められる。
実施機関は、異議申立人から訂正請求があった答弁書等これらの書類については、争訟上の主張であるから、争訟の相手方当事者が見解に相違がある場合は、当該争訟において反論・立証を行うべきであり、当該争訟とは全く別の制度である個人情報保護制度によって、その主張の訂正を求めることは、同制度の本来の趣旨を逸した請求であり、認められるものではないとして非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
|
処理内容 |
平成18年 7月 25日 |
・ 諮問書の受理
|
平成18年 8月7日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
|
平成18年 8月17日 |
・ 理由説明書の受理
|
平成18年 8月28日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
|
平成18年 9月1日 |
・ 意見書の受理
|
平成18年 9月6日 |
・ 実施機関に対して意見書(写)の送付
|
平成21年3月23日 |
・ 書面審理 ・ 審議 (第68回個人情報保護審査会) |
平成21年 4月23日 |
・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 (第69回個人情報保護審査会) |
平成21年 5月22日 |
・ 審議 (第70回個人情報保護審査会) |
平成21年 6月26日 |
・ 審議 (第71回個人情報保護審査会) |
平成21年7月28日 |
・ 審議 ・ 答申 (第72回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会長 |
浅尾 光弘 |
弁護士 |
委員 |
合田 篤子 |
三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 |
樹神 成 |
三重大学人文学部教授 |
委員 |
寺川 史朗 |
三重大学人文学部准教授 |
委員 |
安田 千代 |
司法書士、行政書士 |