三重県情報公開審査会 答申第337号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年9月9日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成20年9月9日現在において特定地区内にあった宗教法人登記登録に基づく三重県が認証した公益法人の全部について、三重県が認可庁として所持する公文書の全部を公開せよ。(神社寺院の全部)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成20年9月17日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、特定の三つの宗教法人に関する次の文書である(ただし、(2)は一法人のみ該当する)。
(1)特定宗教法人の規則認証について
(2)特定宗教法人の規則変更認証について
(3)事務所備付け書類の写しの提出について
(4)宗教法人台帳
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第1号(法令秘情報)、第2号(個人情報)及び第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1)条例第7条第1号(法令秘情報)に該当
宗教法人法に関する事務は、地方自治法第2条第9項に定められた第一号法定受託事務であり、同法第245条の9に基づき、国は当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について(通知)」(平成16年2月19日付け15庁文第340号)を定めている。
この基準では、登記事項等の公知の事項を除き、原則として不開示の取扱いとすることとされている。これに従い登記事項等の公知の事項以外を非開示とした実施機関の決定は妥当である。
(2)条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人の氏名、生年月日、住所及び印影については、登記事項等の公知の事項ではない個人に関する情報である。そのため、特定の個人が識別され、当該個人の信教が公にされることになり、憲法で保障された信教の自由が侵害されることになる。
なお、代表役員の生年月日についても、登記事項等の公知の事項ではなく、個人に関する情報である。
(3)条例第7条第3号(法人情報)に該当
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人が所轄庁に提出する書類は、同条第2項により宗教法人が事務所に備えなければならない書類の写しであり、事務所備付け書類の閲覧については、同条第3項により、信者その他の利害関係人であって、閲覧することに正当な利益があり、かつ、その閲覧の請求が不当な目的によるものでないと宗教法人が認める者のみに、閲覧が許されているものである。
したがって、土地、建物にかかる種別や数量といった登記事項等の公知の事項を除く、資産の増減、預貯金等の法人の財産にかかる情報については、公にすると正当な利益を損なうおそれがあり、また、憲法で保障された信教の自由に基づく当該法人の権利を害するおそれがあるため、非開示とする必要がある。
また、宗教法人台帳は、提出された書類を転記しデータ管理するための記録であり、財産額、信者数の非開示については、備付け書類の非開示の考え方と同様である。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は、おおむね以下のとおりである。
宗教法人法第81条の規定に違反するか否かを解明するための開示請求であるから、責任役員等の住所や氏名、宗教法人の財産等について一切全部を開示して、責任者と法人との財産関係を明らかにする必要がある。
責任役員等の住所、氏名を非開示とすれば、公益法人の責任が果たせないのであり、法所定の役員の交代が適切に行われているか不明となる。また、他人のために奉仕する役員は名誉職であり、氏名を名乗って行動すべきであるから住所、氏名を非開示とする理由はない。生年月日についても財産の取得と重要な関係があるから開示すべきである。
6 審査会の判断
実施機関は、本決定で条例第7条第2号(個人情報)及び第3号(法人情報)に該当するとして非開示としたが、当審査会への非開示理由説明書の提出により同条第1号(法令秘情報)にも該当するとして非開示理由の追加をしたいとしている。
開示決定等に係る理由の付記は、実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保し、それに対する異議申立てに便宜を与えることを目的としているものであることからすれば、実施機関は開示決定時において十分検討した上で理由を付記すべきである。しかしながら、異議申立てを受けた実施機関として、当該決定の当否を判断するに当たり、非開示理由を改めて検討することは不当なこととは言えず、決定通知書に理由がいったん付記された以上、当該理由以外の非開示理由の存在を主張することが許されないこととなるとまでは解されない。また、実施機関の非開示理由説明書について、異議申立人には審査会に対し、その反論の機会が十分に付与されていたことを考慮すれば、非開示理由の追加を認めても不合理とはいえない。
よって、非開示理由の追加を認め、以下のとおり判断する。
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。 条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第1号(法令秘情報)の意義について
本号は、法令若しくは他の条例の定めるところによる、又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示による場合の非開示を定めたものである。
法令若しくは他の条例の定めるところにより公にすることができない情報は、この条例によっても開示できないことを確認的に規定するとともに、各大臣その他国の機関からの法的拘束力を持った指示により公にすることができない情報については、非開示とすることを定めたものである。
(3)条例第7条第1号(法令秘情報)の該当性について
本号にいう「実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示により、公にすることができないと認められる情報」とは、例えば、法定受託事務における各大臣からの明示の指示等法的拘束力のあるものをいう。
地方自治法第245条の9第1項は、都道府県の法定受託事務について、各大臣は、当該事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができると規定している。そして、文化庁次長は、各都道府県知事に対し、平成16年2月19日付け「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について(通知)」(以下「本件通知」という。)をもって、宗教法人法第25条第4項の規定により宗教法人から提出された書類につき情報公開条例等に基づく開示請求があった場合、登記事項等の公知の事項を除き、原則として不開示の取扱いをするよう通知している。
実施機関は本件通知に従い、宗教法人法第25条第4項の規定に基づき提出された役員名簿(写し)に記載された責任役員の住所、氏名及び生年月日並びに代表役員の生年月日、財産目録(写し)に記載された土地・建物の種別及び数量を除いた法人の財産に関する情報並びに責任役員の氏名及び印影を非開示とした。
実施機関が非開示としたこれらの情報は、いずれも一般に公開されていない非公知の事項であると認められ、異議申立人は開示を求める利益や目的、利害関係を主張するが、非開示部分を例外的に開示すべき特段の事情があるとは認められない。
したがって、本決定の非開示部分は、実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示により公にすることができないと認められる情報に該当し、これを非開示とした実施機関の本決定は妥当である。
(4)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(5)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、総代の氏名及び印影、責任役員の住所、氏名、印影及び生年月日、代表役員の生年月日、公告確認者の住所、氏名及び印影である。
これらの情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされているとは認められず、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当すると認められる。
異議申立人は、責任役員等の住所、氏名を非開示とすれば役員の交代が適切に行われているか不明となる、また、他人のために奉仕する役員は名誉職であり、氏名を名乗って行動すべきであるから住所、氏名を非開示とする理由はない、と主張する。
しかしながら、特定の宗教に属することは、個人の信仰に関する情報であり、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあることは明らかであり、これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書にも該当しないため、非開示が妥当である。
(6)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活・環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(7)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示としたのは、宗教法人法第25条第4項の規定に基づき提出された財産目録(写し)の土地・建物にかかる種別及び数量を除く法人の財産にかかる情報、実施機関が提出された書類から転記し任意に作成した宗教法人台帳の資産、負債、正味資産及び信者数のそれぞれの欄である。
これらの情報は、宗教法人法第25条第3項において、宗教法人の事務所に備える書類に対する閲覧請求権者を「信者その他の利害関係人」に限定しており、公にされている情報とはいえず、当該法人の内部管理情報であると認められる。また、宗教法人台帳の非開示部分についても、同様である。
したがって、これらの情報を開示することにより当該法人の信教の自由が損なわれるおそれは否定できず、当該法人の正当な利益を害すると認められ、本号に該当する。
また、異議申立人は、公益上開示すべきであると主張しているが、これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書にも該当しないため、非開示が妥当である。
(8)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の意見
当審査会の判断は上記のとおりであるが、本件事案については実施機関の事務処理に不適切な点が見受けられることから、次のとおり意見を申し述べる。
実施機関は、特定の宗教法人の規則認証申請書に添付された書類のうち、役員が未成年者等に該当しないことを証する文書において、法人登記簿に登載された公知の事項である代表役員の氏名を黒塗りしている。この点について、実施機関は、誤って黒塗りしたことを認めている。
開示の実施に当たっては、細心の注意を払い、開示請求者に対して適正な文書を交付すべきことは言うまでもないことであり、実施機関においては、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
20. 9.25 | ・諮問書の受理 |
20. 9.30 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
20.10.17 | ・非開示理由説明書の受理 |
20.10.21 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
21. 1.16 |
・書面審理 (第311回審査会) |
21. 2.13 | ・審議
(第313回審査会)
|
21. 3.17 |
・審議 (第316回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
※委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。