三重県情報公開審査会 答申第334号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年8月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定地番の墓地の許可申請書関係文書全部」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成20年8月22日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)を取り消し、非開示の部分を開示することを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書(以下「本件対象公文書」という。)は、次の7件である。
①墓地等変更許可申請書
②墓地等増設理由書
③隣地土地の所有者の承諾書
④近隣居住者の同意書
⑤境界確定承諾書
⑥墓地維持管理の方法
⑦印鑑証明書
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
墓地等変更許可申請書、墓地等増設理由書及び印鑑証明書記載の代表者生年月日については、法人の登記簿には記載されておらず、その氏名と併せて記載されているため特定の個人の識別される情報である。墓地等増設理由書記載の印影は個人の印影であるため特定個人に関する情報である。隣地土地の所有者の承諾書記載の印影、近隣居住者同意書記載の住所、氏名、印影、境界確定承諾書記載の印影及び墓地維持管理の方法記載の印影は特定の個人が識別される情報である。以上のことから、生年月日等については、条例第7条第2号に規定する個人情報に該当すると判断し非開示とした。
また、印鑑証明書記載の代表役員の印影については、宗教法人法第65条において準用する商業登記法第12条第1項の規定が、印鑑証明書の交付を請求できる者を、印鑑を登記所に提出した者等に限定しており、第三者が証明書の閲覧或いは写しの交付を受けることを認めていない。他に第三者がその印影を閲覧できる法的制度はなく、広く一般に公開されているものではない。即ち、代表者の印影は商業登記法上保護されているものであると考えられ、これを開示すれば結果的にその保護を失わせることとなり、当該法人に不利益を与えることになると考える。したがって、印影については条例第7条第3号に規定する法人情報に該当すると判断し非開示とした。
5 異議申立て理由
異議申立人は、以下の理由から非開示とされた情報は開示するべきであると主張している。開示することにより個人の生活や権利を侵すおそれのある個人に関する情報を除いて、県の保有する情報は開示されるべきである。当該墓地の財産権に関する情報は開示されるべきであり、当該情報が開示されなければ、当該宗教法人の印影があるか否かを確認することができない。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書のうち①②⑥⑦に記載された代表役員の生年月日、②⑥に記載された代表役員個人の印影、③⑤に記載された隣地土地所有者個人の印影、④に記載された近隣居住者個人の住所、氏名及び印影である。
異議申立人は、開示しても当該個人の不利益にはならないし、墓地に関する情報を開示することは公益にかなうとして、その開示を主張している。これに対して実施機関は、代表役員の氏名や住所については登記簿に記載されている情報ではあるが、生年月日や印影については記載されていないこと、代表役員個人の印影、隣地土地所有者個人の印影、近隣居住者個人の住所、氏名及び印影については、個人に関する情報で他で公になっている情報ではないことから非開示とすべき個人情報であると主張している。
この実施機関の主張は妥当であり、異議申立人は開示することの公益を主張するが、本件に関して本号ただし書ロに該当するとまでは認めることはできないことから、実施機関が上記情報を非開示とした決定は妥当であると判断する。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号に該当するとして非開示とした情報のうち異議申立ての対象となっているのは、本件対象公文書のうち⑦に記載された法人代表者の印影である。
異議申立人は、この印影が開示されないことには、墓地許可申請等に当該法人の印影があるか否かを確認できないと主張している。
これに対して実施機関は、宗教法人法第65条において準用する商業登記法第12条第1項の規定が、印鑑証明書の交付を請求できる者を、印鑑を登記所に提出した者等に限定しており、第三者が証明書の閲覧或いは写しの交付を受けることを認めていない。他に第三者がその印影を閲覧できる法的制度はなく、広く一般に公開されているものではない。即ち、法人代表者の印影は商業登記法上保護されているものであると考えられ、これを開示すれば結果的にその保護を失わせることとなり、当該法人に不利益を与えることになると考える。したがって、印影については本号に該当する非開示とすべき法人情報であると主張している。
この実施機関の主張は妥当であり、異議申立人は開示することの公益を主張するが、本件に関して本号ただし書に該当するとまでは認めることはできないことから、実施機関が上記情報を非開示とした決定は妥当であると判断する。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
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20. 9.12 | ・諮問書の受理 |
20. 9.17 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
20. 9.26 | ・非開示理由説明書の受理 |
20. 9.30 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
20.12.15 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第310回審査会)
|
21. 1.19 |
・審議 (第312回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学現代法経学部講師 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。