三重県情報公開審査会 答申第323号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本決定を取り消し、改めて開示等の決定をすべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年4月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「国道166号田引BPに於ける河川法違反事案に対する、当該職員の懲戒処分に関する全ての文書」の公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
職員に対する処分について(H20.3.13)
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
処分に関する資料のうち、被処分者、当時の課長(グループリーダー)や監督員などの関係職員の氏名は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものであるため。
また、公務員等の職務に関する情報であって、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるため。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、以下の理由により本決定は取り消すべきであるというものである。
公務員の氏名は全部開示が当然で、氏名を部分非開示とすることは、行政庁の違法行為を隠蔽するもので、県民への説明責任と法律遵守義務に反し、県民の信託を裏切るもので、地方公共団体の行政事務の透明性を欠き、県民、請求者の知る権利を侵害するもので、到底容認できない。県行政の信頼を大きく損なうものである。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないことととしている。
なお、公務員等の職務に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらないが、公務員等の職務に関する情報であっても、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合は、本号に該当するとしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の妥当性について
本件対象公文書は、「河川法許可に関する不適切な事務処理に関する注意処分」と題する被処分者一覧(以下「一覧A」という。)を含む起案文に、県土整備部より提出された「河川法上の許可を受けずに工事の施行を行ったことに関する関係者の処分について」が添付される形で構成されている。添付された文書「河川法上の許可を受けずに工事の施行を行ったことに関する関係者の処分について」には処分対象者の一覧表(以下「一覧B」という。)と河川法の許可を受けずに施行した案件一覧表(以下「案件一覧」という。)が含まれている。
本決定で非開示とされた情報は、一覧A、第2案及び第4案に記載された被処分者の氏名、一覧Bに記載された被処分者の氏名、案件一覧に記載された所長(部長)、室長(マネージャー、副部長)、課長(グループリーダー)及び着手当時の監督員の氏名である。
一覧Aでは、職員の氏名は非開示とされているが、当該職員の現所属名、現職名、年度、当時の所属名及び職名及び処分書上の表記が記載され、一覧Bでは、職員の氏名は非開示とされているが、当該職員の現所属、職名、年度、当時の所属及び職名が記載され、案件一覧では、職員の氏名は非開示とされているが、事務所名、施行年度、協議物件名、河川協議完了日、許可日・処理予定日、工事着手日及び最初に着手した工事名が記載されていると認められる。
異議申立人は、当該職員の現所属、職名、年度、当時の所属及び職名が開示されていることから、当時の三重県職員録と照合することにより、職員の氏名は明らかになることから、非開示とする理由がないと主張している。
これに対して実施機関は、本処分案件については、職員個々の責任というより、組織としての責任が問われるべきものであることから、説明責任を果たすためにも可能な限りの開示を行ったが、処分に関する情報は、公務遂行等に関して不適切な行為があったことを示すだけにとどまらず、公務員の立場を離れた個人としての評価を低下させる性質を持つ情報であることから、本条本号に該当する非開示情報であると主張している。
本件対象公文書は、河川法許可に関する不適切な事務処理について作成された文書であり、本件対象公文書に記載された職員の処分は公務執行と密接不可分なものである。実施機関は、当該処分は公務員の職務に関する情報ではあるが、公にすることにより当該職員個人の私生活上の権利利益を害する情報であるとしている。
しかしながら、本件事案については、実施機関も説明するように、本件対象公文書に記載された処分は、個々の職員の責任を問うものではなく、組織としての責任を明確にしたものであることから、処分された職員の氏名を開示することにより当該職員個人の評価を低下させるものとまではいえず、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するとまではいえない。処分に至らなかった職員についても、上記の理由により、当該公務員の職務に関する情報であり、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するとは認められない。また、本決定においては、既に当該職員の職名と年度までを開示していることから、職員録等他の公になっている情報と照らし合わせることにより、非開示とされた職員を特定し得ると認められる。
以上のことから、当該職員の氏名を非開示とした本決定は妥当でないと判断せざるを得ない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
20. 5.16 | ・諮問書の受理 |
20. 5.21 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
20. 6.11 | ・非開示理由説明書の受理 |
20. 6.30 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述 の希望の有無の確認 |
20. 7.24 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第299回審査会)
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20. 8.18 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第301回審査会)
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20. 9.22 | ・審議
(第304回審査会)
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20.10.20 | ・審議 ・答申 (第306回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 |
氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学講師 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において、主に調査審議を行った。