三重県情報公開審査会 答申第321号
答申
1 審査会の結論
実施機関の行った本決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成20年4月24日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「「知事と語ろう本音でトーク」(以下「本音でトーク」という。)に於て出席者から提起された県職員の県民(当事者)に対する不法行為の事実確認と懲戒処分結果についてわかる全ての文書」の公文書開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成20年5月8日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
健康福祉部職員の言動に関する県民からの苦情について
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
非開示とした情報は、いずれも条例第7条第2号に該当する個人に関する情報であり、実施機関の職員に関する情報と、職員以外の個人に関する情報である。
公務員の職務に関する情報は原則開示であるが、本件請求に対して実施機関が非開示としたのは、当該職員の私生活に関する情報である。当該職員が職務外でどのような団体に属しているかといった情報及び当該職員と親戚関係にある者の肩書きに関する情報は、職務上の情報であるとはいえず、これを開示すると当該職員の私生活上の権利利益を害するおそれがあることから非開示とすべきである。また、当該職員の肩書きが明示されているが、当該職名の職員は複数存在しており、職員が特定されるものではないことから、当該職員の氏名についても、公務員の職務外の情報として非開示とすべきである。
実施機関の職員以外の個人情報として非開示としたのは、個人の氏名及び所在地である。これらの情報は特定の個人が識別され得る情報として非開示とすべきである。
5 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により公務員の氏名等については非開示とする理由はないことから、本決定は取り消すべきであるというものである。
平成19年12月に県庁講堂で行われた「本音でトーク」の場で、県民が発言した事案である。会場では、県職員の名前まで言っているのに、議事録には名前が記載されていない、また、当該公務員の職務外の情報であるとして、実施機関は非開示とした。ホームページ上で職員の氏名までを公表しているものではないと言うが、「本音でトーク」の会場では氏名を言っていたことから、条例第7条第2号に該当して非開示とすることは妥当ではない。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
なお、公務員等の職務に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらないが、公務員等の職務に関する情報であっても、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある場合は、本号に該当するとしている。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の妥当性について
実施機関は、開示請求内容に記載された「本音でトーク」の議事内容と照らし合わせ、平成19年8月27日付け「健康福祉部職員の言動に関する県民からの苦情について(以下「本件対象公文書」という。)」を、本件開示請求の対象公文書として特定した。本件対象公文書において実施機関が非開示とした情報は、三重県職員の氏名、当該職員の所属する特定の団体の名称及び当該職員の親戚関係にある個人に関する情報、並びに三重県職員でない個人の氏名及び住所である。
実施機関は、三重県職員の氏名、当該職員の所属する特定の団体の名称及び当該職員の親戚関係にある個人に関する情報については、当該職員の職務外の情報であることから非開示と主張している。これに対して異議申立人は、「本音でトーク」という公開の場で発言されたことであるから非開示とする理由はない。職員の発言は職務に関する情報であるから開示は当然である。また、不当な行為をする公務員の氏名を非開示として公務員を擁護する必要はないと主張している。
本件対象公文書には、特定の団体の懇親会の場での県職員の言動に関して、その概要、相手方の主張、当該職員からの聴き取り及び実施機関の対応が記載されている。実施機関の説明によると、当該特定団体は、特定の資格を持つ者が会員になっている団体である。実施機関の説明によると、当該県職員は、職務外の活動として当該特定団体の活動に参加しており、勤務時間外の活動であること及び当該特定団体の会費等を当該職員の私費で負担していることから、当該特定団体の活動への参加は、当該職員の公務ではなく私的なものである。
以上のことから、県職員による県民への不当行為であると開示請求者が指摘する発言は、公務員の職務に関する情報であるとはいえず、「本音でトーク」の場で発言があったことをもって周知されているとまでは言えないことから、当該職員の氏名、当該職員の所属する特定の団体の名称及び当該職員の親戚関係にある個人に関する情報については、当該職員の職務外の情報であり、当該職員を特定しうる情報であるとして非開示とした判断は妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
20. 5. 9 | ・諮問書の受理 |
20. 5.14 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
20. 6. 9 | ・非開示理由説明書の受理 |
20. 6.11 |
・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
20. 7.24 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第299回審査会)
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20. 8.18 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第301回審査会)
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20. 9.22 | ・審議
(第304回審査会)
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20.10.20 | ・審議 ・答申 (第306回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 |
氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
委員 | 川村 隆子 | 三重中京大学講師 |
※委員 | 樹神 成 | 三重大学教授 |
※委員 | 田中 亜紀子 | 三重大学准教授 |
※会長職務代理者 | 早川 忠宏 | 三重弁護士会推薦弁護士 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。