三重県個人情報保護審査会 答申第50号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、改めて未成年者本人に文書等により意思確認を行ったうえで、開示・非開示等の判断をして決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成○年○月に発生した○○高校○○の傷害事件に関する報告書等」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成20年7月15日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書において主張している異議申立ての主たる理由は、以下のように要約される。
親権者として未成年者の法定代理人なのだから情報開示されて当然の権利。保有個人情報開示手続説明書中の「意思を確認させていただく場合があります」の記載は、子どもの人権に精通した弁護士に「法的効力がない」と確認済。学校を通じ心身共に過剰なストレスを与えない旨も伝えた。未成年者の法定代理人という事で今回の事件の閲覧及び謄写が可能で家庭裁判所に出向けたのだから実施機関も開示されて当然。家庭裁判所でも法律記録全部可能だったので、実施機関が部分開示や非開示はあり得ない。これ迄にもたくさんの資料を開示しているのだから非開示は矛盾している。事件後、生徒指導の教師が担任、学年主任と家庭訪問で説明に来られた時にも報告文書を読ませてもらっている。事件の件で本人を交えて、時には、本人の欠席の上でも何度も話し合ってきているので今更親に聞かれたくない、知られたくないはあり得ない。
4 実施機関の非開示理由説明
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
三重県個人情報保護事務取扱要領では、満15歳以上の未成年者の法定代理人から開示請求があったときには、未成年者本人の意思確認を行うものと定められていたことから、当該事務取扱要領に基づき、本人の意思を確認しようとした。しかしながら、何回か電話での確認、また、家庭訪問による確認を行うも、本人と会うことができず、本人の意思確認ができなかったことから、非開示と決定した。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 未成年者の法定代理人による開示請求について
本件は、未成年者の法定代理人から開示請求された事案である。
条例第14条第2項は、保有個人情報の開示請求について、実施機関が別に定めるところにより、代理人によってすることができるとしている。教育委員会関係三重県個人情報保護条例施行規則(平成14年三重県教育委員会規則第19号)は、条例の施行については、三重県個人情報保護条例施行規則(平成14年三重県規則第45号)の規定の例によるとしているところ、同規則第3条に条例第14条第2項の代理人として本人が未成年者である場合における法定代理人が規定されている。
自己情報の開示請求は、本来、本人からの請求により当該本人に対して開示する制度であり、広く代理を認めることは個人情報の保護に欠けるおそれがあることから、原則として本人からの請求に限られるが、例外的に代理人による請求を認めることとしている。
また、条例第16条第8号では、未成年者又は成年被後見人の法定代理人から開示請求がなされた場合に、開示すると当該未成年者又は成年被後見人の権利利益を害するおそれのある情報を非開示情報と定めている。「未成年者又は成年被後見人の権利利益を害するおそれのある情報」とは、法定代理人と当該未成年者又は成年被後見人の利益が相反している場合、あるいは、当該未成年者又は成年被後見人の意思に反する開示をすることとなる場合が該当すると考えられる。
したがって、未成年者の法定代理人から開示請求があった場合、実施機関は、法定代理人と当該未成年者の利益が相反している場合に該当するか否かを判断するものとし、客観的に「利益が相反している」とは認められない場合には、「当該未成年者の意思に反する開示をすることとなる場合」に該当するか否かを判断することになる。
(2) 非開示決定の妥当性について
前述のとおり、未成年者の意思に反する開示は、当該未成年者の権利利益を害するおそれがあり、条例第16条第8号に規定する非開示の場合に該当すると考えられる。また、保有個人情報の開示請求は、本来的に、当該個人情報の主体である本人に対して認められる権利という条例の趣旨からすると、実施機関が、意思能力を有すると考えられる未成年者本人の意思を確認しようと努めたことは、条例の趣旨に沿うものと考えられる。
しかしながら、実施機関は、本件開示請求に対し、本人の意思を確認しようと努めてはいるものの、結果として本人と会うことができず、本人の意思確認ができなかったことから非開示決定をしているが、本人と会うことができないことを理由に意思確認ができないとしたことについては、意思確認としては不十分であると言わざるをえない。
したがって、実施機関は、未成年者本人に対し、意思確認の文書を送付するなどして、改めて本人の意思確認を行ったうえで、開示・非開示等の判断をすべきである。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日
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処理内容 |
平成20年8月29日 |
・ 諮問書の受理
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平成20年9月1日 |
・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼
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平成20年9月3日 |
・ 理由説明書の受理
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平成20年 9月8日 |
・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
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平成20年 11月25日 |
・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 (第64回個人情報保護審査会) |
平成20年 12月15日 |
・ 審議 (第65回個人情報保護審査会) |
平成21年 1月19日 |
・ 審議 (第66回個人情報保護審査会) |
平成21年 2月27日 |
・ 審議 ・ 答申 (第67回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 |
氏名 |
役職等 |
会 長 |
浅 尾 光 弘 |
弁護士 |
会長職務代理者 |
樹 神 成 |
三重大学人文学部教授 |
委 員 |
寺 川 史 朗 |
三重大学人文学部准教授 |
委 員 |
藤 野 奈津子 |
三重短期大学法経科准教授 |
委 員 |
安 田 千 代 |
司法書士、行政書士 |