三重県情報公開審査会 答申第39号
答申
1 審査会の結論
「(平成8年度)住民監査請求に係る聞き取り調査結果(平成8年11月1日受理に係るもの)」について、実施機関が条例第8条第4号及び第5号に該当するとして非開示にしたことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年1月17日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成8年度)住民監査請求に係る聞き取り調査結果(平成8年11月1日受理に係るもの)」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県監査委員(以下「実施機関」という。)が平成9年1月30日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
監査委員は、その職務の性質上地方自治体の長からの独立性の確保が要求されており、その意思形成に関しては、自由な討議の過程が必要である。
監査結果の形成に係る調査記録等の資料を公表することは、監査委員の審議における自由な意見交換に支障を及ぼし、適正な監査結果の決定を阻害することになり、条例第8条第4号に該当する。
また、住民監査請求に係る聞き取り調査は、被調査者が公表を予定していないこと、監査委員が被調査者との間で公開することを前提として作成し、取得したものでないことから、公開することになれば、被調査者との信頼関係が著しく損なわれ、被調査者から今後の調査について協力を得られなくなり、適正な監査結果を導き出すことに重大な支障をきたすことになることから、条例第8条第5号に該当する。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で意見陳述している主たる理由は、次のように要約される。
監査委員は、その職務を遂行するにあたっては、常に公正不偏の態度を保持して、監査をしなければならない(地方自治法第198条の3第1項)。しかるに、県監査委員は、異議申立人らの県監査委員及び県監査委員事務局職員の不正出張についての住民監査請求に対して、十分な調査をせずに故意に却下や棄却を行うなど、法に著しく違反した監査を行っている。このことから、当該案件に対して非開示とした理由は信用できず、住民監査請求において公正で十分な調査をしていないことを隠蔽しようとしているものとしか考えられない。
以上のことから、本件対象公文書の非開示決定は違法である。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第8条第4号及び第5号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定められたものである。
「当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」を非開示とすることができる、との本号の適用にあたっては、抽象的な支障のおそれがあるだけでなく、客観的かつ具体的に明らかな支障を生ずるおそれがある場合であると判断すべきである。
地方自治法第196条第2項及び第3項では、監査委員の選任にあたり地方公共団体の職員からの就任について規制しているが、これは、監査委員の独立性の確保を図るためのものであるとされている。
また、監査委員の職務権限を定める同法第199条においては、その第11項で、「監査の結果に関する報告の決定又は……意見の決定は、監査委員の……合議によるのもの」とされ、住民監査請求について規定する同法第242条においては、その第6項で、「……監査及び勧告についての決定は、監査委員の……合議によるもの」とされ、この「合議」とは、監査委員が協議し、最終的には意見が一致する意味であるとされている。
このことから、監査委員には、長からの独立性と自由な議論の保障が要求されることが認められる。
本件対象公文書は、関係人と監査委員との審尋の内容が記録されたもので、これ自体が意思形成過程情報といえる。これを開示すると、意思形成の過程で様々な圧力が予想され、将来の同種の審議に際し自由な意見交換が妨げられるおそれが認められる。
したがって、本件対象公文書は本号に該当すると認められる。
(3)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示にできることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼす場合には、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるものである。
そこで、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報であるかどうかについて検討する。
なお、この場合、「著しい支障を生ずるおそれがあるもの」とは、抽象的な支障のおそれがあるだけでなく、客観的かつ具体的に明らかな支障を生ずるおそれがある場合であると判断すべきである。
監査委員の職務権限を定める同法第199条においては、その第8項で、「監査のため必要があると認めるときは、関係人について調査することができる」としている。しかし、関係人がこれに応じない場合においてこれを強制することはできないとされている(逐条地方自治法第12次改訂新版602頁)。したがって、このことを前提とした調査は、被調査者が調査結果を公表されることを予定していないこと、また、監査委員が公開することを前提として作成し、取得したものでないことが認められる。
本件対象公文書を開示することになれば、被調査者との信頼関係が著しく損なわれ、被調査者から今後の調査について協力を得られなくなることは十分予想される。このため、事実関係の把握が困難となり、また、様々な圧力が予想され、将来の同種の審議に際し自由な意見交換が妨げられるなど、適正な監査結果を導き出すことに著しい支障をきたすことが認められる。
したがって、本件対象公文書は本号に該当すると認められる。
(4)結論
実施機関が、本件対象公文書を条例第8条第4号及び第5号に該当するとして非開示としたことは妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
9. 3.26 | ・諮問書受理 |
9. 4. 1 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
9.11.26 | ・非開示理由説明書受理 |
9.12. 3 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
9.12.16 | ・実施機関からの非開示理由説明の聴取 ・審議 (第77回審査会) |
10. 2. 4 | ・異議申立人からの口頭意見陳述申出書受理 |
10. 2. 4 | ・異議申立人からの意見書受理 |
10. 2.13 | ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第79回審査会) |
10. 3.23 | ・審議 (第81回審査会) |
10. 5.11 | ・審議 ・答申 (第82回審査会) |
三重県情報公開審査会委員名簿
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学教授 |
会長職務代理者 | 夏秋 幹 | 三重テレビ放送㈱代表取締役社長 |
委員 | 谷 信子 | 県商工会議所婦人会連合会会長 |
委員 | 今井 正彦 | 弁護士 |
委員 | 曽和 俊文 | 関西学院大学教授 |