三重県情報公開審査会 答申第37号
答申
1.審査会の結論
「(平成8年度)平成9年度無認可保育所助成金に関する予算要求資料」について、実施機関が本件対象公文書を条例第8条第4号及び第5号を適用して、全面的に非開示としたことは妥当でなく、別紙1に掲げる公文書の非開示部分を除き、その余の部分は開示すべきである。
2.異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年3月6日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成8年度)平成9年度無認可保育所助成金に関する予算要求資料」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成9年4月3日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3.実施機関の非開示理由説明要旨
異議申立人の請求に該当する文書は、三重県予算調整及び執行規則第6条で定める予算見積書(第1号様式・その2)及びその添付資料である(以下「本件対象公文書」という。)。
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
予算見積書は、県の事務事業に係る意思形成過程そのものであり、これを開示すると、利害関係を有する者からの不適正な要求、要望等があることが考えられ、その結果、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられ、予算編成業務に著しい支障を生ずるおそれがある。
また、当該予算案が確定した後においても、将来の予算編成業務に対して大きな影響を与えることが考えられ、予算見積書は、意思形成過程における情報と見ることができる。したがって、当該予算の編成業務のみならず、将来の予算編成業務にも著しい支障を生じるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。
さらに、予算見積書に記載されている予算要求額や算出根拠については、公開することにより、当該又は将来の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあることから、条例第8条第5号に該当する。
4.異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で意見陳述している主たる理由は、次のように要約される。無認可保育所の予算のみならず、予算要求に使われる書類は、基礎資料を含む全てが公開されるべきである。
実施機関は、行政内部における自由な意見又は情報の交換が妨げられること及び予算編成業務に著しい支障を生ずるおそれがあることを非開示の理由としているが、具体的な支障を明らかにしていない。
予算見積書が非開示になると、県民は県政に対し自由な意見又は情報の交換をすることが妨げられ、情報公開制度の目的である県民の行政への参加・監視、県民の生活や健康に影響を及ぼす行政上の政策決定のチェックが不可能になる。
さらには、行政は予算の編成を行うにあたって、県民の意思がどこにあるのかを知る必要があるはずであるが、その機会を確保する上でも予算見積書の開示は必要なことである。
以上のことから、本件対象公文書の非開示決定は違法である。
5.審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第8条第4号及び第5号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
1 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
2 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定められたものである。
「当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」を非開示とすることができる、との本号の適用にあたっては、抽象的な支障のおそれがあるだけでなく、客観的かつ具体的に明らかな支障を生ずるおそれがある場合であると判断すべきである。
確かに本件対象公文書を開示することにより、利害関係を有する者からの種々の要求、要望等があることが考えられ、行政が混乱することも予想できなくはない。しかし、本件対象公文書は、最終的には予算が認められなかったものの、少なくとも児童家庭課により予算の必要性を示した意思決定文書であり、未成熟な文書ではない。
住民の意思を尊重する民主主義の下では、本件対象公文書を開示することにより、利害関係を有する者から種々の要求、要望等がありうるとしても、このような事態は当然に予想されることであり、これが客観的かつ具体的に明らかな支障を生ずるおそれに相当するものであるとは認めがたい。
また、最終的な意思決定に至った後において、その過程における情報を開示することにより、将来の同種の審議等に支障を及ぼすか否かについても、前述のとおり客観的かつ具体的な支障のおそれは認めがたい
したがって、本件対象公文書を条例第8条第4号に該当することを理由に非開示とするのは妥当ではない。
3 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示にできることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼす場合には、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるものである。
そこで、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報であるかどうかについて検討する。
なお、この場合、「著しい支障を生ずるおそれがあるもの」とは、抽象的な支障のおそれがあるだけでなく、客観的かつ具体的に明らかな支障を生ずるおそれがある場合であると判断すべきである。
イ.予算見積書(第1号様式・その2)
本文書に示された情報のうち、積算基礎欄における補助基準額算出根拠及び所要見込額の積算は、具体的な予算積算の基礎を示すものであり、また、特定対象への適用を推測させるものでもある。したがって、これを開示すると将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものと認められるので非開示とし、その他の部分は開示すべきである。
ロ.平成8年度事務事業目的評価表
本件予算見積書の添付資料のひとつである事務事業目的評価表は、平成8年度から導入されたもので、平成9年度において作成方法が一部変更されるなど、評価システムそのものが試行錯誤の段階にあった。したがって、平成8年度事務事業目的評価表は未成熟な情報であり、非開示とする行政運営上の必要が認められるので、当該文書を非開示としたことは妥当である。
なお、平成9年度の事務事業目的評価表は既に情報提供されている。
ハ.延長保育支援事業について(無認可保育に対する考え方)
添付資料の中の「延長保育支援事業について(無認可保育に対する考え方)」については、これを公開することにより利害関係人からの圧力が増し、新たな考えに基づく事業の取り組みに著しい支障が生じると実施機関は主張するが、当該文書は予算要求時点での無認可保育所に対する考え方をまとめたものであり、将来にわたり拘束力を持つものではなく、公開することによりなんら具体的に明らかな支障を生ずるおそれがあるとは認められないので全面的に開示すべきである。
ニ.延長保育支援事業に係る補助要件
添付資料の中の「延長保育支援事業に係る補助要件」について、これを明らかにすると、圧力等不適正な介入を招き、行政内部の自由な意見等の交換を妨げ、予算編成業務に著しい支障が生じると実施機関は主張するが、内容的には計画する事業の補助基準であり、前記と同様に非開示とする理由が認められないので、全面的に開示すべきである。
ホ.無認可保育施設に助成している県の補助基準の概要
添付資料の中の「無認可保育施設に助成している県の補助基準の概要」については、当該事業に助成している各県の補助基準を調査したもので、前記と同様に非開示とする理由が認められないので、全面的に開示すべきである。
ヘ.延長保育児童委託補助事業に係る補助要件
添付資料の中の「延長保育児童委託補助事業に係る補助要件」については、当該事業を実施するにあたり、無認可保育所における各種の基準を調査したものであることから、調査施設名を公開すると今後、調査の協力が得られず、予算編成業務に著しい支障を生じると認められるので、施設名は非開示とし、その他の部分は開示すべきである。
ト.延長保育支援事業について
添付資料の中の「延長保育支援事業について」については、前述「ハ」と同様であるので全面的に開示すべきである。
チ.平日、午後7時30分を超えて保育を実施している無認可保育施設
添付資料の中の「平日、午後7時30分を超えて保育を実施している無認可保育施設」については、調査した無認可保育施設の開所時間等を示したもので、具体的な施設名及び設置場所等を開示すると、ここに記載されなかった施設から不信、不満を持たれ、予算編成業務に著しい支障を生じると認められるので、非開示は妥当である。
リ.無認可保育所一覧表
添付資料の中の「無認可保育所一覧表」について、当該文書に記載されている情報は、各施設における入所児童数等の状況を示すもので、既に異議申立人に対し平成9年2月28日付け児第287号で開示決定がなされているので判断を省略する。
4 結論
実施機関が、本件対象公文書を条例第8条第4号及び第5号を適用して、全面的に非開示としたことは妥当でなく、別紙1に掲げる公文書の非開示部分を除き、その余の部分は開示すべきである。
6.審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
別紙 1
対象公文書 | 非開示部分(非開示が妥当な部分) |
---|---|
1 予算見積書(第1号様式・その2) 2 平成8年度事務事業目的評価表 3 延長保育児童委託補助事業に係る補助要件 4 平日、午後7時30分を超えて保育を実施している無認可保育施設 |
補助基準額算出根拠、所要見込額の積算 全部 施設名 全部 |
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
9. 4.30 | ・諮問書受理 |
9. 5.12 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
9. 6.16 | ・非開示理由説明書受理 |
9. 6.25 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
9. 7. 2 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
10. 1.14 | ・異議申立人からの意見書受理 |
10. 1.20 | ・実施機関からの非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第78回審査会) |
10. 3.16 | ・実施機関からの非開示理由説明の聴取 ・審議 (第80回審査会) |
10. 3.23 | ・審議 (第81回審査会) |
10. 3.23 | ・答申 |