三重県情報公開審査会 答申第32号
答申
1.審査会の結論
「(平成6年度)監査委員事務局職員の県外出張に係る復命書のうち、鑑文以外の文書(平成7年1月から3月)の事案について、実施機関が非開示としたことは妥当でなく、開示すべきである。
2.異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成8年4月11日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成6年度)監査委員事務局職員の県外出張に係る復命書のうち、鑑文以外の文書(平成7年1月から3月)」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県監査委員(以下「実施機関」という。)が平成8年4月25日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3.実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
本県条例第8条第5号は、監査その他の事務事業に関する情報であって公開することにより、当該事務事業の公正かつ円滑な事務の執行に支障を生じるおそれがあるものが記録されている公文書については、公開しないことができる旨を規定しているが、その趣旨は、監査の計画及び実施要領のように、行政の行う事務事業の内容及び性質からみて、公開することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正、円滑な執行ができなくなり、ひいては県民全体の利益を損なうこととなるおそれのある情報は非開示とするものである。
また、同号に規定する支障のあるおそれとは、「おそれ」という文言の解釈からして当該情報を公開することにより、同号において定められているような内容の支障が生ずる抽象的な危険すなわちその可能性があれば足りるというべきである。
本件対象公文書は、本県監査委員事務局職員が、本県の監査事務執行の参考とする趣旨で調査した監査事務に関する他府県の状況が記録されていることから、当該情報は、本県条例第8条第5号に例示されている監査事務に関する情報に該当する。
また、本件復命書のうち調査概要は、監査事務処理に関する内規、意思形成過程の情報その他公表を予定されていない情報であること及び本県監査委員事務局が他府県との間で、公開することを前提として作成し、又は取得したものではないことから、公開することにより、他府県との協力関係又は信頼関係が損なわれ、本県における監査事務実施のための必要な情報や理解、協力が得られなくなるおそれがあることから、同号に規定する支障が生じるおそれがあるものと、認められる。
4.異議申立ての理由
請求した内容は、「県外出張の際に収集した文書類」であるが、特定された文書は「県外出張に係る復命書のうち鑑文以外の文書」となっており、異議申立人の請求で当然包含されるはずの、出張者が収集したと思われる各県立美術館等文化施設のパンフレット類などについては開示されなかった。
非開示理由に、調査概要については開示することにより監査方法及び監査の着眼点等が明らかになり、監査の本来の意義が著しく阻害されたり、監査を実施する意味を喪失する恐れがあるとしているが、従来三重県監査委員が実施してきた監査の手法等が記載されている部分に限り、かつ三重県監査委員が今後他県の方法をそっくり真似しようとする場合にのみ、当該非開示理由が当てはまる可能性があるが、従来、三重県監査委員が実施してきたことと同じ部分については非開示の理由は成立しない。
また、復命書の鑑文以外の部分に「県情報公開条例」第8条第5号に該当するものが含まれていたとしても、一言一句総てがそれに当たるとは到底考えられない。
以上のことから、本件対象公文書の非開示決定は不当である。
5.審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第8条第5号に該当するので非開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
1 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
2 本件対象公文書の性格等について
本件対象公文書は、三重県監査委員事務局職員が本県の監査事務執行の参考とするため、当該開示請求対象期間中に県外に出張した19件の調査概要等(海外出張の1件及び平成7年2月22日~24日○○、○○、○○3氏の○○○への出張を含まない。)のうち、監査等執行状況調査報告文書5件と海外研修に係る事前の説明会文書の1件である。残る13件のうち12件がカラ出張のため本件対象公文書が作成されておらず、また1件は正規な出張であるが復命書が作成されていない。
本件対象公文書の内容は次のとおりである。
ア.監査等執行状況調査
三重県監査委員事務局の調査項目及びこれに関する本県の状況と調査対象県の調査内容
イ.監査等執行状況調査に係る関連資料
県広報、行政事務監査報告書、監査事務提要、監査報告書、監査結果、行政監査 結果、歳入歳出決算審査意見書、各要領・規則等
ウ.海外研修に係る事前の説明会文書
視察研修上の注意書
3 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることとするものである。
そこで、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報であるかどうかについて検討する。
実施機関は、本件対象公文書について、条例第8条第5号に規定する「支障を生ずるおそれ」とは、「おそれ」という文言の解釈からして、当該情報を公開することにより、同号に定められているような内容の支障が生ずる抽象的な危険すなわちその可能性があれば足りると主張するが、条例第8条第5号で規定する「著しい支障を生ずるおそれ」とは、行政運営の適正かつ円滑化を図る要請と行政の恣意的な秘密扱いを防ぐ必要性に鑑み、客観的かつ具体的に認められる場合であると解するのが相当であり、支障が生じる抽象的可能性でたりるとの実施機関の主張は認められない。
また、実施機関は、本件対象公文書のうち監査等執行状況調査は、監査事務処理に関する内規、意思形成過程の情報その他公表を予定されていない情報であること及び本県監査委員事務局が他府県との間で、公開することを前提として作成し、又は取得したものではないことから、公開することにより、他府県との協力関係又は信頼関係が損なわれ、本県における監査事務実施のための必要な情報や理解、協力が得られなくなるおそれがあることから、同号に規定する支障が生じるおそれがあると主張するので、このことについて検討する。
本件対象公文書のうち、監査資料として収集された県公報、行政事務監査報告書、監査報告書、監査結果、行政監査結果、歳入歳出決算審査意見書等については、それぞれの県内において公表することを目的として作成されたものであり、また、各要領・規則、監査事務提要・概要及び視察研修上の注意書についても、格別に秘密にすべき性質を有する文書ではないので、いずれも条例第8条第5号に該当せず、実施機関の主張は認められない。
他方、監査等執行状況調査は、本県及び調査対象県の監査業務の運営に関する調査であることから、その内容によっては条例第8条第5号に該当し、著しい支障が生じるおそれがあると認められるものも存在する可能性はあるが、本件の場合に限って判断すると、調査内容は非開示にすべき内容を含んでいるものとは認められず、開示しても行政執行上著しい支障があるとは認めがたい。
4 結論
以上のことから、実施機関が非開示とした本件対象公文書は、全て開示すべきである。
6.審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
本件対象公文書
- 海外事前研修の復命書
- 監査等執行状況調査の復命書
1 ○○県
- 監査等執行状況調査表等
- 住民監査処理要領
- ○○県債権管理規則
- ○○県補助金等交付規則
- ○○県公報
- ○○県歳入歳出決算審査意見書等
- 行政監査資料作成要領
- 行政監査資料
2 ○○県
- 監査等執行状況調査表等
- 監査基準整理表
- ○○県公報
- 平成5年度監査事務概要
3 ○○県
- 監査等執行状況調査表等
- 監査結果取扱要領
- 住民による監査実施要領
- ○○県公報
- 行政事務監査報告書
- 監査報告書
- 監査事務提要
4 ○○県
- 監査等執行状況調査表等
- ○○県公報
- 住民監査請求に係る事務処理要領等
- 監査結果
- 平成5年度歳入歳出決算審査意見書等
- 行政監査結果
- 監査事務提要
5 ○○県
- 監査等執行状況調査表等
- ○○県公報
- 監査事務提要
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
8. 6.18 | ・諮問書受理 |
8. 7. 4 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
9. 4. 4 | ・非開示理由説明書受理 |
9. 5. 9 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
9. 5.28 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
9. 7.22 | ・書面審理及び実施機関からの非開示理由説明の聴取及び審議 (第70回審査会) |
9. 7.22 | ・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取及び審議 (第70回審査会) |
9. 8.20 | ・審議 (第71回審査会) |
9. 8.20 | ・答申 |