三重県情報公開審査会 答申第25号
答申
1 審査会の結論
(平成7年度)二級河川又口川河川調査委託外12件の不存在通知、非開示決定及び部分開示決定に対する異議申立て事案について、「平成7年度又口川における株○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書について」のうち又口川における河川区域内の土砂の撤去に係る報告メモは、個人が特定される部分を除いて開示すべきであるが、その余の部分について実施機関が公文書不存在及び非開示としたことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成7年12月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「別紙公文書目録記載の公文書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成7年12月28日付けで行った不存在通知、平成8年1月16日付けで行った非開示決定及び部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示等理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を不存在、非開示及び部分開示にしたというものである。
(1) 文書不存在について
株○○○○○○が告発された事件に関し、尾鷲土木事務所長が尾鷲警察署から関係書類の提出を求められたため、捜査に協力する目的で提出した公文書については、開示請求の時点では尾鷲土木事務所には存在していない。
(2) 非開示及び部分開示について
ア 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
個人の職、氏名、年齢、住所、経歴書、土地の所有状況、資格等に関する情報は個人に関する情報であり、開示することにより、特定の個人が識別され、または識別され得る。なお、これらの情報は本号ただし書きには該当しない。
イ 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
土地の所有状況等については、法人の内部管理に関する情報であり、開示することにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。なお、これらの情報は本号ただし書きには該当しない。
ウ 条例第8条第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)の該当性について
株○○○○○○に対して行った指示や聴取内容に関する情報は、県の行政指導に至る過程に関する情報であり、開示することにより当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成及び事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。
エ 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
工事設計書、予定価格調書等の県の入札に関する情報及び完成結果に係る考査表という県の検査に関する情報は、開示することにより、将来の同種の事務事業の公正もしくは適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。
オ 条例第8条第6号(捜査情報)の該当性について
捜査関係事項照会及び現場検証に関する情報は、犯罪の事実、内容、手段、方法等に関する情報であり、開示することにより、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがある。
4 異議申立ての理由
尾鷲土木事務所は、不存在とされている公文書の写しが存在するにも拘わらず、「尾鷲警察署に提出しているため不存在」として開示しなかった違法がある。
近年、全国的に産業廃棄物の不法投棄や悪質な不適正処理があり、環境汚染を引き起こしている。この様な問題に対して、知事は措置命令、改善命令を発することができるが、ほとんど法的効力のない行政指導でこれにあたっている。このため行政指導について、情報の公開を求めているが開示されていない。
今回の産業廃棄物の不法投棄においても、廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び河川法が関係しているにも拘わらず、行政は事業者に毅然とした態度をとることなく、安易な行政指導で対応している。また、当中間処理施設が位置する河川の下流域は、海山町上水道の水源であり、当河川区域で違法行為を行ってきた事業者の情報を非開示処分にして擁護することは、公益の立場から理解できない。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は公文書不存在、条例第8条第1号、第2号、第 4号、第5号及び第6号に該当するので非開示及び部分開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 文書不存在について
条例第2条第2項において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画、写真、フィルム及び磁気テープであって、実施機関において管理しているものと規定されている。
開示請求の対象とすることができるのは、公文書として存在し、実施機関において管理していることが必要である。このことから、条例に基づく開示は、公文書の原本をもって行うことが規定されていると解すべきものである。
本件対象公文書中、「平成7年度 又口川における株○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書に対する回答書、確約書、計画書」及び「昭和63年度 河川区域の明示について」の公文書は、尾鷲警察署に提出され実施機関が所有していない。
その写しが存在するのは、尾鷲土木事務所において便宜上とられた措置であって、同所の作成権者或いは管理者によって作成或いは管理されたものとは認められず、開示の対象となる公文書であると解することはできない。なお、大阪高等裁判所平成8年9月27日判決は「情報開示不作為の違法確認等、調査書非開示処分取消請求控訴事件」(平成6年行コ第98号)において「写しの文書は開示の対象となる公文書でない」との判断を示している。
従って、実施機関が原本を管理していないことを理由に、公文書不存在としたことは妥当である。
(3) 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
個人の職、氏名、年齢、住所、経歴書、土地の所有状況、資格等に関する情報は個人に関する情報であり、開示することにより、特定の個人が識別され、または識別され得る。なお、これらの情報は本号ただし書きに規定するいずれの情報にも該当しない。
(4) 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
土地の所有状況等については、法人の内部管理に関する情報であり、開示することにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。なお、これらの情報は本号ただし書きに規定するいずれの情報にも該当しない。
(5) 条例第8条第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)の該当性について
ア 条例第8条第4号(意思形成過程情報)
本件対象公文書のうち、「平成7年度又口川における株○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書について」に記載された又口川における河川区域内の土砂の撤去に係る報告メモは、行政と事業者のそれぞれの主張を記録したにすぎない。これが開示されることにより県民に誤解を与え、又は無用の混乱を招くおそれ及び将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるものとは認められないので開示すべきである。
また、平成8年6月には、土砂の撤去による原状回復がなされ、行政指導が完了した結果、意思形成が終了している。
イ 条例第8条第5号(行政運営情報)本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるとするものである。
当該行政措置文書には、河川法違反の適正処理を促す内容が記載されており、これらを開示すると、違反があたかも現在も続いているとの誤解をまねく可能性がある。行政指導に従って改善した処理業者の信頼を損なうおそれがあるとの実施機関の主張には理由があり、事業者の信頼を損なえば、以降の行政指導の実施や情報収集において処理業者からの協力が得られなくなる可能性もあると認められる。
しかしながら、最近の許認可を巡る事業者と住民とのトラブル或いは、行政の措置等を鑑みると、行政と事業者との信頼関係も必要であるが、これにも増して行政と住民との信頼関係が重要な時期であると言える。これら社会情勢の変化、情報公開を求める世論の動向を考察すると、行政が所有する情報を積極的に開示することにより、行政と住民の信頼関係を構築することが求められる。
条例第8条第5号では「開示することにより適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」は開示しないことができるとされているが、河川法違反に対して行った行政指導内容を公開したことを原因として、事業者が行政指導に従わないとするならば、河川法による行政処分権限が担保されていることから、本件公文書を開示しても著しい支障を生ずるおそれがあるものではないと判断する。
(6) 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本件対象公文書に係る設計書、予定価格調書等の県の入札に関する情報及び完成結果に係る考査表という県の検査に関する情報のうち、予定価格調書の開示は、競争によって納税者である住民の利益を最大限に実現するという競争入札制度の根幹に触れるものであることから、事後開示といえども開示することによって将来の同種の事務事業の公正もしくは適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められる。また、設計書等入札に関する情報についても同様の理由による。
なお、建設業法で定める中央建設業審議会が、建設大臣の諮問に対する答申において、建設業者の真面目な見積努力が失われること及び競争入札制度の根幹に触れるものである等、予定価格を事前はもとより事後についても開示することは適当でないとの見解を示している。
完成結果に係る考査表という県の検査に関する情報は、事業者の業務遂行能力等を採点したもので、事業の発注に係る業者選定に際し、判断資料の一部としていることから、これを公開すると同業務の公正もしくは適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められる。
(7) 条例第8条第6号(捜査情報)の該当性について
本号は、公共の安全と秩序の維持を確保するため、開示することにより人の生命、身体及び財産の保護に支障を生じたり、犯罪の予防、犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生ずるおそれのある情報が記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。
捜査関係事項照会及び現場検証に関する情報は、犯罪の事実、内容、手段、方法等に関する情報であり、犯罪の捜査の終了していない開示請求の時点においては、開示することにより、犯罪の捜査その他公共の安全と秩序の維持に支障が生じるおそれがあると認められる。
(8) 結論
以上のことから判断すると、本件対象公文書のうち「平成7年度又口川における株○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書について」に記載された又口川における河川区域内の土砂の撤去に係る報告メモは、個人が特定される部分を除いて開示すべきであるが、その余の部分について実施機関が公文書不存在及び非開示としたことは妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
別紙
公文書目録
昭和63年度
- 河川現況台帳(二級河川銚子川)
- 河川区域の明示について
平成7年度
- 二級河川又口川河川調査委託
- 又口川における(株)○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書について
- 又口川における(株)○○○○○○の河川法違反行為に係る指示書に対する回答書、確約書、計画書
- 又口川における河川区域内の土砂の撤去について
- 二級河川又口川に係る捜査関係事項照会について(伺い) (平成7年10月9日付け)
- 二級河川又口川に係る捜査関係事項照会について(伺い) (平成7年10月24日付け)
- 二級河川又口川に係る捜査関係事項照会について(伺い) (平成7年10月30日付け)
- 二級河川又口川に係る捜査関係事項照会について(伺い) (平成7年11月7日付け)
- 現場検証について(又口川)
- 捜査関係事項照会について(伺い) (平成7年11月22日)
- 海山町の水源地を守る会への回答について
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
8. 2.27 | ・諮問書受理 |
8. 3.11 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
8. 3.28 | ・部分開示理由説明書受理 |
8. 4.15 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
8. 4.17 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
8. 9.24 | ・実施機関からの部分開示理由説明の聴取 ・審議 (第61回審査会) |
8.10.21 | ・異義申立人からの口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第62回審査会) |
8.11.25 | ・実施機関からの部分開示理由説明の再聴取 ・審議 (第63回審査会) |
8.12.17 | ・審議 (第64回審査会) |
9. 1.30 | ・審議 (第65回審査会) |
9. 1.30 | ・答申 |