三重県情報公開審査会 答申第23号
答申
1 審査会の結論
「(平成7年度)岩石採取計画の認可について(有限会社○○○○○○)」のうち、建設促進要望書、使用土地目録、承諾書、隣地承諾書、同意書及び土石採取全体計画工程表について、実施機関が行った部分開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成7年9月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成7年度)岩石採取計画の認可について」外2件の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成7年10月12日付けで行った建設促進要望書、使用土地目録、承諾書、隣地承諾書、同意書及び土石採取全体計画工程表(以下「本件対象公文書」という。)の部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を部分開示にしたというものである。
(1) 本件対象公文書について
本件対象公文書は、事業者から実施機関に対して提出された採石法第33条による採取計画認可申請書類(以下「認可申請書」という。)であり、そのうち非開示部分の取消を求められたものは、同申請書に添付された建設促進要望書、使用土地目録、承諾書、隣地承諾書、同意書及び土石採取全体計画工程表である。
(2) 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
これらの書類に示された個人の氏名、住所、印影は個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であるため条例第8条第1号に該当する。
これらを非開示とした情報はあくまでも個人等の私的な情報であり、本号ただし書きイ、ロ、ハのいずれにも該当しない。
(3) 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
土石採取全体計画工程表のうち認可期間以外の採取計画は、法人内部に関する情報であり、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
しかも、それに記載されている情報自体は異議申立人が問題としている事業者が不正又は不誠実な行為をするおそれがある情報ではないことから、同号ただし書きイ、ロ、ハのいずれにも該当しない。
(4) 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
隣地承諾書・同意書及び土石採取全体計画工程表は、認可申請書の認可にあたり適正な判断を行うため、申請者より任意に取得したものである。
隣地承諾書・同意書に記載されている採石地地番・承諾地地番及び土石採取全体計画工程表における認可期間以外の採取計画を開示することは、申請者との信頼関係を著しく喪失するもので、今後の業務を円滑に推進するうえで支障となるものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
(1) 異議申立てに至った経緯について
平成5年に度会町柳地区において有限会社北村建設工業による岩石採取事業が計画されたが、柳地区住民の総意をもって、この事業計画に反対をしてきたにもかかわらず平成7年5月22日に認可申請書が提出された。
当該申請には、十数名による建設促進要望書が添付され、平成7年7月18日付けで採取計画の認可がなされたことから、柳地区住民は当惑している。
地区総会で建設促進要望書のことを確認したが、誰も書いていないと言っているので偽造の疑いがあり、誰が書いたのか明らかにしたい。さらに、使用土地目録、承諾書、隣地承諾書、同意書及び土石採取全体計画工程表についても、事実関係を知りたい。
5 審査会の判断
(1) 本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、事業者から実施機関に対して提出された認可申請書であり、そのうち非開示とされたのは、同申請書類に添付された建設促進要望書、使用土地目録、承諾書、隣地承諾書、同意書及び土石採取全体計画工程表の中の次の内容である。
ア 建設促進要望書のうち、個人の住所、氏名、印影
イ 使用土地目録のうち、個人の氏名
ウ 承諾書のうち、個人の住所、氏名、印影
エ 隣地承諾書のうち、個人の住所、氏名、印影、承諾地地番
オ 同意書のうち、個人の住所、氏名、印影、採石地地番、承諾地地番
カ 土石採取全体計画工程表のうち、認可期間以外の採取計画
(2) 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(3) 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。
本件で非開示とされたもののうち個人の氏名、住所、印影は個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であるため条例第8条第1号に該当する。
なお、これらの部分は本号ただし書きイ、ロ、ハに規定するいずれの情報にも該当しない。
(4) 条例第8条第2号(法人情報)の該当性の有無について
本号は、自由経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができることを定めたものである。
競争上の地位その他正当な利益が害されると認められる情報とは、例えば生産、技術、販売、営業上のノウハウに関する情報、経理、人事等の内部管理に関する情報のほか、開示することにより、法人等の社会的評価、社会活動の自由等が損なわれると認められる情報をいう。
ところで、本件対象公文書に記載されている土石採取全体計画工程表のうち認可期間以外の採取計画は、法人等の事業活動に係る情報であることは明らかであることから、これを開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるか否かについて判断する。
実施機関が本号に該当するとして非開示にした情報は、当該法人の土石採取全体計画工程表のうち認可期間以外の採取計画で、当該法人が将来にわたり土石を採取する事業計画である。これは、将来の予測にかかる情報であって不確定であるのみならず、将来の市場への骨材供給能力を表すものでもあり、当該法人にとっての重要な商取引情報と言えることから、開示すると当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
以上により、実施機関が条例第8条第2号を適用し、本件対象公文書中、土石採取全体計画工程表のうち認可期間以外の採取計画を非開示にしたことは妥当である。
(5) 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示とすることができることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるとするものである。
ところで、実施機関は、隣地承諾書・同意書及び土石採取全体計画工程表は、岩石採取計画の認可にあたり適正な判断を行うため、申請者より任意に取得したものであり、隣地承諾書・同意書に記載されている採石地地番・承諾地地番及び土石採取全体計画工程表における認可期間以外の採取計画を開示することは、申請者との信頼関係を著しく喪失するもので、今後の業務を円滑に推進するうえで支障となると主張しているのに対し、異議申立人は、実施機関が既に認可した書類については開示すべきであると主張している。
そこで、隣地承諾書・同意書に記載されている採石地地番・承諾地地番、及び土石採取全体計画工程表を開示した場合、行政運営に著しい支障を生ずるおそれがあるか否かについて判断する。隣地承諾書等を取得するに際して、事業者は目的外に承諾者名を公開しないことを前提に取得していることが認められ、かつ、そのような方法で取得することが一般的である。また、同意者も非公開を期待していることが十分予想されるところであること、さらにその同意等を取得するか否かは事業者の理解と協力のもとに成り立っていることを考え合わせると、同書類に記載されている採石地地番・承諾地地番の開示により事業者、同意者及び行政相互間の信頼関係が損なわれることは十分予想される。
また、土石採取全体計画工程表は事業者の骨材供給能力を表すものであり、認可期間以外の採取計画は、事業者にとって重要な商取引情報であるといえる。これを県と事業者との信頼関係により任意に取得していることから、これらを開示することにより事業者と県との信頼関係が損なわれ、今後の同種の事務事業の適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められる。
以上により、実施機関が条例第8条第5号を適用し、本件対象公文書中、隣地承諾書等に記載されている採石地地番・承諾地地番及び土石採取全体計画工程表のうち、認可期間以外の採取計画を非開示にしたことは妥当である。
(6) 結論
以上のことから総合して判断すると、本件対象公文書について実施機関が行った部分開示決定処分は妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
7.12.26 | ・諮問書受理 |
8. 1.12 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
8. 2. 5 | ・部分開示理由説明書受理 |
8. 2.14 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
8. 7.18 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
8. 7. 2 | ・書面審理 ・実施機関からの部分開示理由説明の聴取 (第58回審査会) |
8. 7.30 | ・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第59回審査会) |
8. 8.26 | ・審議 (第60回審査会) |
8. 8.26 | ・答申 |