三重県情報公開審査会 答申第18号
答申
1 審査会の結論
「(平成5年度)開発行為許可申請書に添付の隣地土地所有者同意書」について、実施機関が法人の代表者印の印影を非開示にしたことは妥当であるが、開発許可申請者及び隣地土地所有者の名称、所在地、開発行為の目的及び場所等の部分を非開示にしたことは妥当でなく開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成6年8月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成5年度)開発行為許可申請書に添付の隣地土地所有者同意書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成6年9月5日付けで行った非開示決定処分の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
(1) 本件対象公文書について
本件の開発行為は都市計画法第29条(開発行為の許可)に関するものであるが、本件対象公文書は同法第30条第2項(許可申請の手続)及び同法施行規則第17条の規定により提出が義務づけられている同意書ではなく、木曽岬町開発指導要綱第4条第4項(事業計画の協議)に基づいて開発許可申請書に任意に添付された隣地土地所有者の同意書である。
(2) 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書は、開発行為についての同意の意思を示す公文書であるが、開発行為許認可事務の実態において、本来第三者に公開されないことを前提として、任意に取得するものが多く、その性格上、当事者に限りその内容をしりうるものであるため、仮に開示されると同意書を提出した隣地土地所有者である法人と開発を行う法人との信頼関係が損なわれたり、当該両法人の事業活動に著しい支障が生じることが予想されることから、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
4 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び実施機関の非開示理由説明書に対する意見書で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
(1) 異議申立てに至った経緯について
異議申立人は開発区域に隣接する用水路の所有者及び管理者である。都市計画法によれば、開発許可申請者は公共施設の管理者である異議申立人の同意を得て同意書を許可申請書に添付しなければならないとしているが、本件の開発行為においては、異議申立人の同意のないままに開発申請が許可されている。
そこで、開発許可において誰が同意書を提出しているのか、また、同意内容はどの様なものかを知りたい。さらに、開発許可について不正、違法な点がなかったのか否かについても知りたい。
(2) 条例第8条第2号(法人情報)に該当しないことについて
実施機関が主張する非開示理由は全く抽象的であり何の説明もしていないのと同様である。
隣地土地所有者が開発行為に同意したことは開発許可の前提条件になるに過ぎず、このことと法人の競争上の地位とは無関係であると考える。
したがって、実施機関は当該情報を開示する義務がある。
5 審査会の判断
(1) 本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、開発事業者から木曽岬町を経て県に提出された開発許可申請書類の内、木曽岬町開発指導要綱に基づいて同申請書類に添付された隣地土地所有者の同意書であり、その内容は申請者及び隣地土地所有者の所在地・名称及び代表者印の印影と開発行為の目的・場所が記載されている。
(2) 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(3) 条例第8条第2号(法人情報)の該当性の有無について
ア 申請者名及び開発目的等の情報について(法人代表者印の印影を除く)
条例第8条第2号本文は、自由経済社会においては、法人等又は事業を営む個人(以下「法人等」という。)の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができることを定めたものである。
そこで、本件対象公文書に記載されている法人等の名称、所在地等の部分を開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるか否かについて判断する。
ところで、実施機関は、本件対象公文書が開示されると、当該法人等が同意の理由等を追求されたり、同意者の平穏な生活や経済活動が損なわれること及び当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。
しかしながら、一般的に、当該法人等の同意の意思が公にされたとしても、当該法人等の経済活動等の自由が直ちに損なわれるとは考えられず、さらに、同意をしたということ自体は、当該法人等の取引上の情報に属さないことから、競争上の地位を害するというこれらの主張は、にわかには採用しがたい。
ただし、同意をしたということがわかることにより、考え方を異にする第三者から不当な干渉等を受け、その結果として、当該法人等の正当な利益が害される場合のあることは予想されるところであるが、本件においてはその蓋然性は低いものと判断される。
イ 法人代表者印の印影について
本件対象公文書中の法人代表者印の印影については、商業登記法上で閲覧が利害関係人に限定されている等の理由から非開示相当と判断される。
(4) その余の判断について
本件の開発行為に関する木曽岬町の開発指導要綱の執行が、開発事業者や隣地土地所有者の理解と任意の協力のもとに成り立っていることを考えると、本件対象公文書の開示により、将来の要綱行政の円滑な運営が困難になり、ひいては、開発許可行政の適正な執行に著しい支障を生じるおそれがあり、そのことから県と木曽岬町との協力関係に支障が生じるおそれがあることは予測されるところであるが、実施機関からその旨の主張がなかったため、当審査会は条例第8条第2号(法人情報)本文のみの判断を行った。
(5) 結論
以上により、実施機関が本号を適用し、本件対象公文書中、法人等の代表者印の印影部分を非開示にしたことは妥当であるが、法人等の名称、所在地、開発行為の目的及び場所の部分を非開示にしたことは妥当でなく開示すべきである。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
6.11. 7 | ・諮問書受理 |
6.11.22 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
6.12. 7 | ・部分開示理由説明書受理 |
6.12.20 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
7. 1. 9 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
7. 7.13 | ・書面審理 (第48回審査会) |
7. 8.21 | ・異議申立人からの口頭意見陳述の棄権通知 |
7. 8.22 | ・実施機関からの部分開示理由説明の聴取及び審議 (第49回審査会) |
7. 9.26 | ・審議 (第50回審査会) |
7. 9.26 | ・答申 |