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平成25年06月01日

情報公開・個人情報保護

三重県情報公開審査会 答申第16号

答申

1 審査会の結論

 実施機関が、農薬使用状況等記録簿〔年報〕及び水質検査結果報告書について、部分開示としたことは処分の時点においては妥当である。

2 異議申立ての趣旨

 異議申立ての趣旨は、異議申立人(以下「申立人」という。)が平成5年7月27日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った排水口付近に上水道の取水口を有するゴルフ場に係る(平成元年度~4年度)「ゴルフ場の維持管理に関する指導要綱(以下「指導要綱」という。)」第8に基づく報告書のうち農薬使用状況等記録簿〔年報〕、(平成元年度)指導要綱第8に基づく水質検査結果等報告書のうち排水口における水質検査結果の部分、(平成2年度)「ゴルフ場排出水に含まれる農薬等の自主検査に係る暫定指導指針(以下「水質暫定指導指針」という。)」第8に基づく水質検査結果等報告書、(平成3年度~4年度)「ゴルフ場排出水に含まれる農薬等の水質検査に係る指導指針(以下「水質指導指針」という。)」第92に基づく水質検査結果報告書(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成5年8月10日付けで行った部分開示決定処分の取り消しを求めるというものである。

3 実施機関の部分開示理由説明要旨

 実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を部分開示にしたというものである。

(1)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について

 個人の氏名及び印影の部分は、開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得ることから、条例第8条第1号に該当する。
 なお、これらの部分は本号ただし書きイ、ロ、ハに規定するいずれの情報にも該当しない。

(2)条例第8条第2号(法人情報)の該当性について

 水質検査・農薬施薬・浄化槽点検等の委託にかかる業者名、住所及び印影等の部分は、取引先等に関わる企業の内部情報に関する事項であり、開示すると競争上の地位その他正当な利益を害すると認められることから、条例第8条第2号に該当する。
 なお、これらの情報は本号ただし書きイ、ロ、ハに規定するいずれの情報にも該当しない。

(3)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について

 ゴルフ場名及びゴルフ場が特定される住所、河川名及び印影等の部分は、開示すると県とゴルフ事業者との信頼関係が損なわれ、指導要綱等に基づく調査・報告に必要な理解、協力が得られなくなるおそれがある。
 指導要綱は、平成元年3月に既設のゴルフ場事業者を説得して制定した経緯があり、その説得時にゴルフ場名は公開しない旨の口頭の約束を交わしている。したがって、一方的に県が約束を反故にしてゴルフ場名を開示した場合、県とゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれるおそれがある。
 ゴルフ場における農薬の減量及び適正使用については、平成5年1月に策定した「ゴルフ場における病害虫雑草安全防除指針」(以下「雑草防除指針」という。)により指導を行っている。 しかし、一般県民が「農薬は少なければ少ないほどよい」という認識を持っているなかでゴルフ場名が開示された場合、ゴルフ場の立地条件・気象条件・土壌条件等により農薬使用形態、使用量も個々に異なっているにもかかわらず、こうした諸条件の差異を考慮されることなく農薬の使用量のみをとらえて表面的、数量的に判断される危険性を含んでいることから、ゴルフ場事業者から正確な農薬使用状況の報告がなされなくなるおそれがある。また、水質指導指針による毎年の水質検査結果報告についても、全部又は一部が報告されなくなるおそれもある。
 加えて、ゴルフ場の周辺地域住民等からの水質検査結果等の情報の提供要請があった場合、ゴルフ場事業者が水質指導指針による情報提供をしなくなるおそれがある。
 指導要綱において求めた農薬使用状況等記録簿〔年報〕(以下「農薬記録簿」という。)を基に農薬適正使用の指導、農薬残留実態調査の行政検査(以下「行政検査」という。)を実施しているが、ゴルフ場名が開示されゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれると指導要綱の運用に支障が生じ、農薬使用状況を正確に把握できなくなる。そのため、「ゴルフ場の調査・点検パトロ-ル」等における農薬使用状況の立ち入り調査の強化をしいられるとともに、農薬残留実態調査の適正かつ効率的な実施が困難となることから、行政検査の調査する農薬の対象範囲・検査回数の増加を招き、ひいては県行政における事務事業量及び費用が著しく増大する。
 以上のことから、ゴルフ場名及びゴルフ場名が特定される部分については、条例第8条第5号に該当する。

4 異議申立ての理由

 申立人が、異議申立書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
 平成2年11月に同種の公文書に係る部分開示決定処分について異議申立てを行ったが、当時の実施機関の非開示理由は水質指導指針を制定中であり、意思形成過程情報に該当するというのが主な理由であった。その水質指導指針が平成3年5月に施行されてからすでに3年以上経過しており、意思形成過程情報には該当しなくなっている。

 農薬に対する水源の安全性については「安全である」という宣伝ばかりが先行しており、水道水質の安全基準の議論ができないのが現実である。また、農薬も含めて、化学物質の中にはまだ毒性が解明されていないものもあり、ゴルフ場で使われている農薬についてもゴルフ場名を開示してもらい、県民の側でも検査ができる体制が必要である。

 申立人があるゴルフ場で聞いたところ、「使っている農薬を開示してもかまわない」ということであった。また、大半の業者は「開示してもよい」と考えていると思われる。したがって、ゴルフ場名が開示されないのは、悪質な業者と県が非開示という態度をとっているからであると主張し、また、県はゴルフ場でどのような農薬をどれだけ使っているかというデ-タをいつまで秘匿しておくつもりなのか非常に疑問であり、ゴルフ場名も含めて全面的に開示を求めたいとも主張している。

5 審査会の判断

(1)本件対象公文書の内容について

 本件対象公文書は、排水口付近に上水道の取水口を有するゴルフ場に係る(平成元年度~4年度)指導要綱第8に基づく報告書のうち農薬使用状況等記録簿〔年報〕、(平成元年度)指導要綱第8に基づく水質検査結果等報告書のうち排水口における水質検査結果の部分、(平成2年度)水質暫定指導指針第8に基づく水質検査結果等報告書、(平成3年度~4年度)水質指導指針第92に基づく水質検査結果報告書である。

 本件対象公文書のうち農薬記録簿は、平成元年に施行された指導要綱に基づき、実施機関が各ゴルフ場に対して使用した農薬名・使用量及び施薬場所・防除面積を年1回報告させたものである。また、水質検査結果報告書(以下「水質報告書」という。)は、平成3年5月に施行された指導指針(平成元年度については指導要綱、平成2年度については水質暫定指導指針)に基づき、実施機関が各ゴルフ場に対して原則として年2回以上自主的に検査した排出水の水質検査結果を報告させたものであり、検査場所付近の概略図面及び計量証明書の写しが添付されている。

(2)条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について

 条例は第8条第1号において「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」は開示しないことができると規定している。
 本件対象公文書に記載されている記入担当者・環境計量士・分析担当者の氏名及び環境計量士・ゴルフ場担当者の印影部分は、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であると認められる。また、これらの部分は、本号ただし書きイ、ロ、ハに規定するいずれの情報にも該当しないことは明らかであるから、本号に該当するとして非開示としたことは妥当である。

(3)条例第8条第2号(法人情報)の該当性について

 条例は第8条第2号において「法人その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの」は開示しないことができると規定している。
 本件対象公文書のうち、ゴルフ場が委託する水質検査計量業者、浄化槽保守点検業者、浄化槽清掃業者、農薬施薬業者に関する業者名・住所等の情報は企業の取引先に関する情報であり、また法人代表者の印影は法人内部情報であるので、開示すると当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。また、これらの業者名・住所等の情報は人の生命、県民の生活に関わる情報でないのは明らかであることから、適用除外事項である本号ただし書きイ、ロ、ハに規定するいずれの情報にも該当しないと認められる。したがって、本号に該当するとして非開示としたことは妥当である。

(4)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について

 本件審査の中心争点は、農薬記録簿及び水質報告書に記載されているゴルフ場名の開示の是非であり、実施機関は条例第8条第5号に該当するとして、ゴルフ場名及びゴルフ場を特定できる部分を非開示としているので、この点について以下のとおり判断する。
 条例は第8条第5号において「検査、監査、取締り、入札、試験、交渉、渉外、争訟等の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」情報について、非開示とすることができると定めている。
 本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
 また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるとするものである。

 本件対象公文書は、「検査、監査、取締り、入札、試験、交渉、渉外、争訟等の事務事業に関する情報」であることは明らかであるので、本件対象公文書を開示した場合、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについて判断する。
 実施機関の部分開示理由説明書及び口頭理由説明による主張を要約すると、次のとおりである。 ゴルフ場名が開示されると、第1に県とゴルフ場事業者との間の信頼関係が損なわれ、指導要綱に基づく使用農薬名・使用量等の報告、水質指導指針に基づく水質検査結果の報告、指導要綱に基づくゴルフ場の維持管理に関する調査に必要な理解、協力が得られなくなるおそれがある。第2にゴルフ場の立地条件・気象条件等諸条件の差異を考慮されることなく、農薬使用量の多寡又は水質検査結果の検査値の高低のみをとらえて表面的、数量的に判断され、各ゴルフ場の農薬使用量又は水質検査値のみが単純に比較されることによって、農薬使用量の多い又は水質検査値の高いゴルフ場の評価が下がること等によって営業上の不利益を被るおそれがある。そのことから実施機関とゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれ、報告がなされなかったり正確な報告がなされないおそれがある。第3に指導要綱(平成元年3月施行)制定時において県とゴルフ場事業者との間にゴルフ場名については公開しない旨の口頭の約束があり、一方的にこの約束を反故にすることはできない。第4に農薬記録簿を拠り所にして、県が実施している行政検査の適正かつ効率的な実施が困難となり、検査する農薬の対象範囲・検査回数の増加を招き、ひいては県行政における事務事業量及び費用等が著しく増大すると主張している。

 これに対して異議申立人は、水質指導指針が施行されてからすでに3年以上経過しており、平成2年11月当時の非開示理由である意思形成過程情報には該当しなくなっている。また、一部のゴルフ場事業者から使用している農薬名を開示してもよいと聞いていることから、飲料水の安全性に関わる情報であって、しかも水道水の安全基準を議論するうえでも、ゴルフ場名を含めて全面的に開示するべきだと主張している。

 そこで、当審査会が直接ゴルフ連盟から意見聴取を行ったところによると、次のような意見が表明された。すなわち、現時点では、ゴルフ場で使用する農薬に対する県民一般の認識は「農薬はこわいものである」というものであり、また、ゴルフ場の存在自体に反対している者は「農薬は悪である」という認識を持っている。このような状況のなかでゴルフ場名を開示すると、相対的に農薬使用量の多いゴルフ場や水質検査結果が県で定めている残留農薬基準に適合しているにもかかわらず、検査値が相対的に高いとか場合によっては単に農薬が検出されたということのみでゴルフ場が環境保護団体又は周辺住民等から集中的に非難されるおそれがある。そのため、ゴルフ連盟はゴルフ場名の開示には否定的である、というものである。

 まず最初に、実施機関の主張に対する判断については、それぞれの理由に関連性や重複性が認められることから、総合的に判断する。
 まず、指導要綱又は水質指導指針等に基づいて実施機関がゴルフ場事業者から本件対象公文書を提出させる行為は、個別法において具体的な根拠となる規定を有していないいわゆる行政指導であり、ゴルフ場事業者の任意の協力によるものである。行政指導とは、相手方に対する拘束力を有しない非権力的な作用であり、相手方の任意の協力を期待してなす行為であることから、行政指導を有効に行うためには相手方との信頼関係の維持・確保は重要な問題で・り、これなくしては行政指導は成り立たないものである。
 そこで、ゴルフ場名を開示することによって実施機関とゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれるか否かについて考察する。
 実施機関は指導要綱(平成元年3月施行)の制定時において、ゴルフ場事業者との間にゴルフ場名については公開しない旨の口頭の約束があったと主張しており、この約束のうえに立って、実施機関はゴルフ場事業者の理解と協力により指導要綱を運用していることから、一方的にこの約束を反故にしてゴルフ場名を開示することは、ゴルフ場事業者との信頼関係が損なわれてしまうおそれがあることは否定できない。
 もっとも、ゴルフ場名が開示されると、各ゴルフ場の農薬使用量または水質検査値のみが単純に比較され、基準値に適合しているにもかかわらず相対的に農薬使用量の多い又は水質検査値の高いゴルフ場が、環境保護団体又は周辺住民等から非難され、ゴルフ場の評価が下がること等によって営業上の不利益を被るおそれがあるという主張に関しては、むしろゴルフ場名を開示し、立地条件や気象条件等諸条件についての特徴及び農薬・水質の科学的安全基準について議論を深めれば、そこには合理的理由が存していることが判明し、そのことは説明をすれば県民の理解を得られるものであり、農薬に対する正しい知識を啓発・普及することにもなると認められるので、非開示の理由としてはにわかに採用しがたいところである。したがって、実施機関が一方的にゴルフ場名を開示すると信頼関係の維持が損なわれるという理由はいつまでも存続するものではないと思われる。
 しかし、現実の指導要綱の運用において本県はゴルフ場事業者に対して全国的にも厳しい水質基準を課して順守させており、各種報告書も円滑に提出されており、これらの業務遂行は信頼関係を前提として成り立っている。加えて、審査会が参考としてゴルフ連盟から直接意見を聴取したところ、ゴルフ場事業者はゴルフ場名の開示に否定的であることが認められることから、現時点において開示することは、実施機関とゴルフ場事業者との間の信頼関係が損なわれ、調査・報告に必要な理解、協力が得られなくなるおそれがあると認められる。
 さらに、信頼関係が損なわれた場合、実施機関が直接これら検査を実施する必要が生じ、行政検査に要する経費と時間が著しく増大することが予想され、行政における体制が整っていない段階においては、当該事務事業が停滞するおそれがある。

 以上のことから、ゴルフ場事業者の、ゴルフ場名の開示に対する十分な理解・協力が得られていない現段階において、一方的に実施機関がゴルフ場名を開示すると、実施機関とゴルフ場事業者が指導要綱の制定段階から積み重ねてきた信頼関係が損なわれるおそれがあるとの主張は、条例第8条第5号「当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生じるおそれがある」に該当するものと認めることができる。
 よって、本件対象公文書のうちゴルフ場名及びゴルフ場名が特定できる部分を、条例第8条第5号に該当するとして非開示としたことは処分の時点においては妥当である。

(5)結論

 以上のことから総合して判断すると、本件対象公文書について実施機関が行った部分開示決定処分は処分の時点においては妥当である。

6 審査会の処理経過

 当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

7 審査会としての提言

 審査会の結論は以上のとおりであるが、地球規模の環境保全が人類的課題になっている現代社会において生活環境に関わる問題は住民の重大な関心事になっており、特にゴルフ場が使用する農薬及び排出水に含まれる残留農薬については身近な問題であることから、その情報は広く県民に提供されることが望ましいと考えられる。したがって、早急に実施機関とゴルフ場事業者がゴルフ場名の開示にむけて協議することを当審査会として提言する。


別紙

審査会の処理経過

年月日 処理内容
5. 9.20 ・諮問書受理
5. 9.27 ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼
5.10.22 ・部分開示理由説明書受理
5.11. 4

・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、
意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認

5.11.10 ・口頭意見陳述申出書受理
6.11.22

・書面審理、実施機関からの部分開示理由説明の聴取及び審議
                     (第43回審査会)

7. 1.25 ・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取、参考人からの意見聴取及び審議
                     (第44回審査会)
7. 2.23 ・実施機関からの部分開示理由説明の再聴取及び審議
                     (第45回審査会)
7. 3.20 ・審議                  (第46回審査会)
7. 3.20 ・答申

本ページに関する問い合わせ先

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津市栄町1丁目954(栄町庁舎1階)
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