三重県情報公開審査会 答申第14号
答申
1 審査会の結論
- (平成4年度)建築基準法第12条第3項に基づく報告書(津土第2301号)については、報告者及び代理人の印影部分を非開示としたことは妥当であるが、その他の部分は開示すべきである。
- (平成4年度)建築確認申請書(4市34)に添付された建築申請送付書については、施工業者の担当者名の部分を非開示としたことは妥当であるが、その他の部分は開示すべきである。
- (平成4年度)建築確認申請書(4市34)に添付された仮処分決定書は開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人(以下「申立人」という。)が平成5年1月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成4年度)建築基準法第12条第3項に基づく報告書(津土第2301号)」「(平成4年度)建築確認申請書(4市34)」の開示請求に対し、三重県知事が平成5年2月5日付けで行った非開示決定処分及び部分開示決定処分の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示及び部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示及び部分開示にしたというものである。
(1)建築基準法に基づく建築確認について
ア 建築基準法の目的は、個々の建築物を防火、安全、衛生等の上から支障のないものにするとともに、都市計画区域内においては、市街地の良好な形成を図ることにあり、建築主事は法律に従って専門技術的な判断を下すこととしている。
イ 建築基準法における建築確認とは、建築計画が関係法令の規定に適合するかどうかを建築主事が判断する行為である。
ウ 建築基準法では、その建築物によって、自らの敷地や建築物等がどのような影響を与えるかなどを知らせるとともに、無確認建築物の売買等を防止するために、建築物の敷地と建築物との関係を表示する「建築計画概要書」を何人にも閲覧させることを可能としている。
エ 建築主が建築確認申請をする場合は、所在地の市町村が窓口となる。(建築基準法施行細則第3条)
オ 建築確認申請が必要な建築物
(ア)特殊建築物(劇場、映画館、病院、ホテル等)で延面積100m2を超えるもの
(イ)木造建築物で3階以上又は延面積500m2高さ13m若しくは軒高9mを超えるもの
(ウ)鉄骨造や鉄筋コンクリート造といった非木造物で、2階以上又は延面積が200m2を超えるもの(エ) 都市計画区域内において新築する場合は、面積に関係なく建築確認申請が必要である。
(2)本件対象公文書について
ア (平成4年度)建築基準法第12条第3項に基づく報告書(津土第2301号)〔以下「報告書」という。〕
当該公文書は、津土木事務所長が建築主に対して同法第12条第3項による報告を求めたことについての報告書であり、建築確認申請に当たり、当該敷地の内、共有地に係る使用権及び敷地の概念に対する見解が述べられている。
イ (平成4年度)建築確認申請書(4市34)〔以下「確認申請書」という。〕
当該公文書は、建築主が津市を経由して津土木事務所に提出した確認申請書である。それには建築申請送付書及び仮処分決定書が添付されている。
(3)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
ア 報告書について
当該報告書は、同法の規定に基づき、特定行政庁が求めたことに対する報告書であり、報告者の住所、氏名、見解などが記載されている。
特に、敷地の概念論である見解は個人の思想であり、個人に関する情報であって、開示することにより、特定の個人が識別され得ることは明らかであることから、条例第8条第1号に該当し、非開示が妥当である。
イ 建築申請送付書の「その他の意見等」の欄について
当該意見欄を開示すると個人のプライバシーが侵害されることになり、また、当該情報は公益上開示することが必要であるとも認められないことから、条例第8条第1号に該当し、ただし書にも該当しないため、非開示が妥当である。
また、当該意見欄は、市町村の建築担当者の意見を記載するようになっており、この欄を開示すると、市町村と県との建築行政上の協力関係が著しく損なわれると認められることから、条例第8条第3号(国等協力関係情報)にも該当し、非開示が妥当である。
ウ 仮処分決定書について
確認申請書に添付されていた仮処分決定書は、当事者間の争いに係る個人情報であり、特定の個人が識別され得ることから、条例第8条第1号に該当し、非開示が妥当である。
4 異議申立ての理由
申立人が、異議申立書、実施機関の非開示及び部分開示理由説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
(1)確認申請の敷地の内、進入道路は持分2分の1の共有地にもかかわらず、この土地の全面積を申請部分として確認申請したことが問題であり、建築基準法に適合しない確認申請である。
従って、実施機関が条例第8条第1号(個人情報)により非開示及び部分開示の行政処分を行ったことは、許されることではなく、また、建築行政の違法指導でもある。
ア 報告書について
実施機関は個人情報の保護を主張しているが、当該報告書には、申立人の占有権に関わる内容が記載されており、共有者としてその内容を知っていないと不利益を被る。
また、実施機関が非開示の理由として、条例第8条第1号をあげているのは、建築行政の立場に不都合な内容があるからである。
イ 確認申請書に添付さた建築申請送付書を部分開示したことについて
建築申請送付書の最下段の「その他の意見等」の欄に記述されている内容は、条例第8条第1号に該当しない。
ウ 仮処分決定書について
仮処分決定の債務者は申立人自身であり、本人情報でもあるので、申立人への開示は可能である。
5 審査会の判断
(1)本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、平成4年12月2日付けで津土木事務所長が建築主に対して建築基準法第12条第3項による報告を求めたことに対する報告書(平成4年12月7日付け津土第2301号)及び建築主が平成4年4月6日付けで津市を経由して津土木事務所に提出した確認申請書(4市34)である。
報告書には建築主の住所、氏名、報告する件についての委任代理人の住所、氏名、印影、電話番号及び委任状、建築予定地の地番、当該共有地に対する建築主の見解等が述べられている。確認申請書には、津市から津土木事務所へ送付された建築申請送付書及び建築主と申立人を当事者とする共有地(確認申請敷地の一部)に係る仮処分決定書が添付されていることが認められる。
(2)答申の方法について
本件対象公文書に係る異議申立てに関して、実施機関は当審査会に対し、2件の諮問を行っているが、本件対象公文書はいずれも同一の建築主の確認申請に関連する公文書であることから、当審査会はそれらを1件にまとめて答申を行うこととする。
(3)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(4)本件審査の中心争点について
実施機関は非開示及び部分開示決定処分を行った理由として条例第8条第1号を適用している。これに対して申立人は、報告書及び建築申請送付書の「その他の意見等」の欄の部分については条例第8条第1号に該当しないこと、仮処分決定書については本人情報であるので、開示は可能であると主張している。
当審査会は、本件対象公文書の非開示部分が条例第8条第1号に該当するか否か、また、仮処分決定書については条例第9条第1項に該当するか否かについても判断する。
(5)条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
条例は第8条第1号において「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」は開示しないことができると規定している。
本号でいう個人に関する情報とは、思想、信条、信仰、職歴、資格、学歴、所属団体、家庭状況、収入、財産状況、心身の状況、健康状態、病歴等に関する情報をいう。
また、本号の趣旨は、個人のプライバシ-がみだりに公開されないためのものである。
ア 報告書について
当該報告書は、法令の規定により津土木事務所長が建築主に意見を求めたことに対しての回答であることが認められる。
報告書の内容を詳細に検討すると、報告書の記述内容の内、敷地に関する見解の部分は、建築主の思想・信条ではなく、ごく常識的な法律の解釈論を述べているにすぎないことから、本号で規定する個人情報には該当しない。
報告者の住所、氏名については、原処分を行った一連の公文書及び建築計画概要書等から、だれが提出した報告書であるかということは既に明らかであることから、非開示にする理由はない。
また、代理人の住所、氏名、電話番号については、事業を営む個人の当該事業に関する情報であり、条例第8条第1号(個人情報)には該当せず、開示しても、代理人の当該事業における競争上の地位、その他正当な利益を害するとは認められないため、条例第8条第2号にも該当しない。ただし、報告書に押印された代理人の印影は条例第8条第2号に該当し、また、報告者の印影については条例第8条第1号に該当するので非開示が妥当である。
以上のことから、実施機関の非開示決定処分は妥当でなく、報告者及びその代理人の印影部分を除き、開示すべきである。
イ 建築申請送付書の「その他の意見等」の欄について
建築計画概要書は、建築基準法第93条の2により縦覧制度が定められており、何人でも閲覧できる情報である。
「その他の意見等」の欄には、建築確認に当たり津市から津土木事務所に対し問題点の確認を依頼する旨の内容が記載されている。
その記述内容は、当該建築確認申請についての津市の意見であり、本号が規定する個人情報ではないと認められる。
ただし、施工業者の担当者名の部分は条例第8条第1号に該当するため、非開示妥当と判断される。
以上のことから、実施機関が当該「その他の意見等」の欄を非開示としたことは妥当でなく、施工業者の担当者名を除いて開示すべきである。
ウ 仮処分決定書について
実施機関は、仮処分決定書は建築主の個人情報であり、条例第8条第1号に該当すると主張し、一方で、申立人は、当該仮処分決定の当事者(債務者)であり、本人情報であると主張している。
今回の仮処分命令申立事件は、建築主と申立人との共有地について、建築主が当該共有地を建築申請敷地の一部として申請したことに起因するものであったが、すでに仮処分決定書は建築主(債権者)及び申立人(債務者)に送達されている事が認められる。そのことから、当該仮処分決定書が建築主と申立人に係る本人情報であることが認められ、条例第9条第1項(本人情報)に該当すると判断できる。
以上のことから、実施機関が当該仮処分決定書を非開示としたことは妥当でなく、開示すべきである。
(6)「その他の意見等」の欄に対する実施機関の非開示理由の追加について
実施機関は原処分において条例第8条第3号を非開示理由として適用していなかったが、審査会での補充説明の場において、同号を理由追加した。
これに対して申立人から、当該「その他の意見等」の欄は何ら津市と県との協力関係を阻害するものではないと反論があったため、以下のとおり判断する。
条例第8条第3号(国等協力関係情報)は、「国等との協力、協議、依頼等により作成し又は取得した情報であって、開示することにより国等との協力関係が著しく損なわれると認められるもの」は開示しないことができると規定されている。
建築申請送付書は建築基準法施行細則第3条により、確認申請書を津市から津土木事務所へ送付する際に、津市が添付するものであり、法令上義務づけられたものである。
建築申請送付書の「その他の意見等」の欄は、確認申請書に対する津市の意見を県に伝達する箇所であり、法令上、その報告は義務を負っていることが認められる。
当審査会が「その他の意見等」の欄に記載されている内容を審査したところ、非開示とした部分を開示しても津市と県との協力関係を著しく損なう内容であるとは認められず、また、法令上、津市は県に対して意見の伝達義務を負うことから、条例第8条第3号には該当しないと判断する。
(7) 結論
総合して判断すると、1のとおり判断する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
5.4.28 | ・諮問書受理 |
5.5.10 | ・実施機関(建築営繕課)に対して非開示及び部分開示理由説明書の提出要求 |
5.6.15 | ・非開示及び部分開示理由説明書受理 |
5.6.17 | ・異議申立人に対して非開示及び部分開示理由説明書(写)の送付及び意見書の提出要求 |
5.7.2 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
5.7.7 | ・意見書受理 |
5.7.9 | ・実施機関に対して非開示及び部分開示理由説明書に対する意見書(写)の送付 |
6.5.16 | ・書面審理(第37回審査会) |
6.6.30 | ・実施機関からの非開示及び部分開示理由説明等の聴取 ・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取(第38回審査会) |
6.7.20 | ・審議及び答申(案)の確定(第39回審査会) |
6.7.20 | ・答申 |
三重県情報公開審査会委員名簿
職名 | 氏名 | 備考 |
---|---|---|
会長 | 武田 進 | 前三重大学学長 |
会長職務代理者 | 夏秋 幹 | 三重テレビ放送株代表取締役社長 |
委員 | 梅村 郁子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 今井 正彦 | 弁護士 |
委員 | 曽和 俊文 | 三重大学教授 |