三重県情報公開審査会 答申第10号
答申
1 審査会の結論
「(平成3年度)○○有限会社に係る産業廃棄物処理事業計画書に添付されている周辺住民の同意署名一覧表」について、実施機関が非開示にしたことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成4年6月12日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成3年度)○○有限会社に係る産業廃棄物処理事業計画書に添付されている周辺住民の同意署名一覧表」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成4年6月25日付けで行った非開示決定処分の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を非開示にしたというものである。
1 本件対象公文書について
本県では、産業廃棄物処理事業者による産業廃棄物処理施設設置等の計画にあたり、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の手続に先立ち、三重県産業廃棄物処理指導要綱(以下「要綱」という。)第7条の規定により事前協議を実施しているところである。
本件対象公文書は、前記の事前協議に際して、要綱第6条に基づき、あらかじめ○○有限会社(以下「処理事業者」という。)に課せられた事前調整対策の一つとして、関係地域住民(計画地の敷地境界からおおむね500メートル以内に居住する者(世帯主)及び事務所、店舗等の代表者又は責任者)との当該計画への合意形成を確認するものであり、処理事業者によって提出されたものである。
2 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書中、個人の氏名、住所、印影の部分は、個人に関する情報であり、開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得る。また、開示することにより、同意を行った個人が、その行為について、第三者から不当な干渉や基本的人権の侵害を受けるおそれがある。
3 条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書中、法人等の名称、所在地、印影の部分は、法人等に関する情報であって、開示することにより、同意を行った法人等が、その行為について、第三者から不当な侵害を受けるなど、当該法人等の名誉の毀損や社会活動の自由が損なわれ、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。
4 条例第8条第1号及び第2号ただし書に該当しないことについて
本件対象公文書は、開示することにより、関係地域住民の同意の意思が公になるにすぎず、異議申立人が主張するような人の健康や生命等に係わる情報を得られるものではない。
また、生活環境保全上のことは別途他法令により審査されており、三重県公害事前審査会や三重県公害事前調査会から、ダイオキシンを含め全て安全基準を下回っている旨の報告を得ているところである。
したがって、本件対象公文書を開示する必要があるとは認められない。
5 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本件対象公文書は、処理事業者と関係地域住民との個々の信頼関係に基づき、各個人及び法人等が個々の自由意思のもとに、非開示を前提に同意を行った結果であり、開示すると、処理事業者、関係地域住民、行政相互間の信頼関係が損なわれることとなる。
この結果、処理事業者の要綱に対する不服従並びに関係地域住民の同意行為への非協力等が発生するおそれがあり、そのため、今後の要綱の円滑な運用が困難となり、産業廃棄物の適正な処分や再生、減量化の促進のための適正な産業廃棄物処理施設の設置にも重大な影響を生じ、ひいては県下の産業活動にも重大な支障を生じることとなる。このことは、今後の本県の産業廃棄物行政の適正な執行に著しい支障を生ずることとなる。
4 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書、実施機関の非開示理由説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
1 異議申立てに至った経緯について
本件産業廃棄物中間処理施設(以下「本件施設」という。)は、ダイオキシン等毒性の極めて強い有害物質が排出される危険性があり、しかも、産業廃棄物の処理の仕方の如何によっては、広範囲な環境破壊・健康破壊をもたらすもので、その影響ははかりしれない危険な施設である。
また、本件施設の設置の届出書に添付された関係地域住民の同意書には重大な疑義があり、本来、要件が充足されていない届出が受理された疑いがある。
本県の同意書の扱いは、同意書の名義人本人対し、意思確認がなされておらず、偽造されたものでもそのまま有効として取り扱われる不合理性が払拭できないものとなっている。
以上のような懸念から、県民として、本件対象公文書の開示を求めるのは当然の権利であると考えるものである。
2 条例第8条第1号(個人情報)及び第2号(法人情報)に該当しないことについて
本件対象公文書が開示されることにより、同意者の基本的人権が侵害されるとすれば、それは不本意である。
しかしながら、本件施設の完成後の影響は、要綱で同意を求めている500メ-トルの範囲を超えた部分にも及ぶものであり、同意した者に対する配慮は必要であるにしても、本件施設設置が許可されるに至るまでの問題が全て秘密裡に行われるのは、事業が社会的責任をもっているだけに不平等である。
それぞれの意思が正確に反映され、公開のもとに進んでいくことが本来あるべき姿であって、本件対象公文書の開示はプライバシ-の侵害には当たらない。
また、プライバシ-の名のもとに一企業の利益が優先されるのは問題であり、優先されるべきは市民の生命と健康である。
なお、本件施設は現時点で既に許可がなされており、本件対象公文書を開示することによって、その決定に影響があるとは考えられず、今後のことを含め、同意書の内容、実際の扱い、どういう形で確認されているのか等が明らかとなったとしても、同意した個人やそれに関係した法人等の利益を損なうということはあり得ないことから、開示による支障は一切ないと考えられる。
3 条例第8条第1号及び第2号ただし書に該当することについて
要綱において、500メートル以内の住民の3分の2以上の同意を要件としていることは、いわば、その者らに本件施設の建設と稼働により影響を受ける住民全員の同意を代表させていることになると考えられ、要綱から排斥されている住民にとっては、要綱に定める500メートル以内の住民の同意について、誰が同意したのか、真意に基づくものなのか、数のうえで適正かどうかは、自らの生活環境や生命・健康に係わる問題であり、実施機関が情報を秘匿する例外事由には当たらず、全面非開示決定は違法である。
4 条例第8条第5号(行政運営情報)に該当しないことについて
本件の同意は非開示を前提に行われたとのことであるが、同意を取る場合に非開示を前提に行うとは要綱には規定されておらず、その根拠が不明確である。
また、本件対象公文書の開示により、処理事業者及び関係地域住民の行政への不服従、同意行為への非協力が発生することについて、最初から因果関係が存在するということ自体が問題である。
更に、非開示理由説明書には、内容によっては反対を表明することが県行政に重大な支障を来すと言わんばかりの部分があり、問題である。
5 審査会の判断
1 本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、要綱第7条に基づく「設置等に係る事前協議」として、処理事業者から実施機関に提出された産業廃棄物処理事業計画書に添付されたものである。これは、要綱第6条の事前調整対策として、処理事業者が事業計画の策定にあたって講ずべき種々の対策のうちの一つであり、その内容は、計画地の敷地境界からおおむね500メートル以内に居住する者(世帯主)及び事務所、店舗等の3分の2以上の者の当該計画への合意形成を確認する書類であって、同意を行った個人の氏名、住所、印影及び法人等の名称、所在地、印影が記載されている。
2 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
3 本件審査の中心争点について
異議申立人は、本件施設自体の問題点や要綱上の問題点を主張しているが、当審査会は、本件対象公文書に係る実施機関の非開示決定処分が妥当であるか否かを審査する場であって、これら問題点の審査にはなじまないものである。
したがって、当審査会は、本件対象公文書について、条例第8条第1号本文及びただし書並びに第2号本文及びただし書の該当性の有無並びに同条第5号の該当性の有無をそれぞれ順次判断するものとする。
4 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
ア 条例第8条第1号本文の該当性の有無について
条例第8条第1号本文において、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であつて、特定の個人が識別され、又は識別され得る」情報は、個人のプライバシーを最大限保護する必要があることから、原則として非開示とすることを定めている。
本件対象公文書に記載されている個人の氏名、住所、印影の部分は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であることは明らかであり、本号本文に該当することが認められる。
イ 条例第8条第1号ただし書の該当性の有無について
条例第8条第1号ただし書は、「イ 法令の規定により、何人でも閲覧できるとされている情報」、「ロ 公表を目的として作成し、又は取得した情報」、「ハ 法令又は条例の規定に基づく許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報であつて、公益上開示することが必要であると認められる情報」については、本号本文に該当する場合であっても開示することができると定めている。 本件対象公文書中に記載されている個人の氏名、住所、印影は、ただし書イ及びロに該当しないことは明らかである。
そこで、異議申立人は、本件対象公文書を開示することにより、「人の生命、身体、健康に係わる情報」を得られる旨主張していることから、以下本号ただし書ハの該当性の有無について判断する。
ところで、公益上開示することが必要であるというためには、情報それ自体に公益性を有することが認められなければならないと解されるところである。
異議申立人は、本件施設の危険性やその影響及び本件同意自体の疑義等から、本件対象公文書の開示の必要性を説き、人の生命、身体、健康に係わる情報を得られると主張する。
しかしながら、本件対象公文書は、直接には人の生命、身体、健康に係わる情報ではない。また、当該個人の同意の意思が公にされること自体に公益性があるとは認められるものでもない。
したがって、本件対象公文書について、公益上開示することが必要であるとは認められない。
以上により、実施機関が本号を適用し、本件対象公文書中、個人の氏名、住所、印影の部分を非開示にしたことは妥当である。
5 条例第8条第2号(法人情報)の該当性の有無について
ア 条例第8条第2号本文の該当性の有無について
条例第8条第2号本文は、自由経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができることを定めたものである。
そこで、本件対象公文書に記載されている法人等の名称、所在地、印影の部分を開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるかについて判断する。
ところで、実施機関は、本件対象公文書が開示されると、当該法人等に対する名誉の毀損や社会活動の自由が損なわれること及び当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張する。
しかしながら、一般的に、当該法人等の同意の意思が公にされたとしても、当該法人等の名誉の毀損や社会活動の自由が直ちに損なわれるとは考えられず、更に、同意をしたということ自体は、当該法人等の取引上の情報に属さないことから、競争上の地位を害するというこれらの主張は、にわかには採用しがたいものがある。
ただし、同意をしたということがわかることにより、考え方を異にする第三者から不当な干渉等を受け、その結果として、当該法人等の正当な利益を害することが予想されるところである。
イ 条例第8条第2号ただし書の該当性の有無について
条例第8条第2号ただし書は、「イ 事業活動によつて生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体及び健康を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」、「ロ 違法又は著しく不当な事業活動によつて生じ、又は生ずるおそれのある支障から県民の生活を保護するため、開示することが必要であると認められる情報」、「ハ イ又はロに掲げる情報であつて、公益上開示することが必要であると認められるもの」が記録されている公文書は、本号本文に該当する場合であっても開示することができると定めている。
そこで、本件対象公文書に記載されている法人等の名称、所在地、印影の部分を公益上開示することが必要であるかについて判断する。
ところで、公益上開示することが必要であるというためには、情報それ自体に公益性を有することが認められなければならないと解されるところである。
異議申立人は、本件施設の危険性やその影響及び本件同意自体の疑義等から、本件対象公文書の開示の必要性を説き、人の生命、身体、健康に係わる情報を得られると主張する。
しかしながら、本件対象公文書は、直接には人の生命、身体、健康に係わる情報ではない。また、当該法人等の同意の意思が公にされること自体に公益性があるとは認められるものでもない。
したがって、本件対象公文書について、公益上開示することが必要であるとは認められない。
以上により、実施機関が本号を適用し、本件対象公文書中、法人等の名称、所在地、印影の部分を非開示にしたことは妥当である。
6 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について
条例第8条第5号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくはある情報は非開示とすることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることができるとするものである。
実施機関は、本件対象公文書は要綱に基づき、処理事業者に課せられた事前調整対策の一つとして、非開示を前提に関係地域住民が同意を行った結果であって、本件対象公文書を開示することにより、処理事業者、関係地域住民、行政相互間の信頼関係が損なわれ、このため、今後の要綱の円滑な運用が困難となり、その結果、将来の産業廃棄物行政の適正な執行に著しい支障が生ずると主張している。
そこで、本件対象公文書を開示した場合、将来の産業廃棄物行政の適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについて判断する。
ところで、実施機関は、産業廃棄物行政の一環として要綱を制定し、処理事業者に対し、できるだけ紛争を少なくするという主旨で、関係地域住民との合意を得るよう求めている。公正かつ適正な産業廃棄物行政の執行の面からは、今後とも、同意書に住民の意思が正確に反映されなければならないことはいうまでもないことである。
しかしながら、本件同意を取得するに際して、同意をなす関係地域住民に、同意書の取扱いは非開示であるとの説明がなされたことが認められ、また、本件のようなケースでは、目的外にその氏名等を公開しないことを前提に同意を取得することが一般的であるとも考えられる。
したがって、本件対象公文書を開示すると、その約束が破棄されることになり、処理事業者、関係地域住民及び行政相互間の信頼関係が損なわれることは十分予想されるところである。
更に、本件施設の設置に関する要綱の執行が、処理事業者の理解と協力のもとに成り立っていることをも考え合わせると、本件対象公文書の開示により、前述の信頼関係が損なわれ、将来の要綱の円滑な運用が困難となり、ひいては将来の産業廃棄物行政の適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められる。
以上により、実施機関が本号を適用し、本件対象公文書を非開示にしたことは妥当である。
7 結論
総合して判断すると、本件対象公文書について、実施機関が行った非開示決定処分は妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
4.7.20 | ・諮問書受理 |
4.7.31 | ・実施機関(環境施設課)に対して非開示理由説明書の提出要求 |
4.9.4 | ・非開示理由説明書受理 |
4.9.11 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付及び意見書の提出要求 |
4.9.30 | ・意見書及び口頭意見陳述申出書受理 |
4.10.5 | ・実施機関に対して非開示理由説明書に対する意見書(写)の送付 |
4.11.25 (第24回審査会) |
・書面審理 |
5.1.18 (第26回審査会) |
・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取 ・実施機関からの非開示理由説明等の聴取 ・審議 |
5.2.8 (第27回審査会) |
・審議 |
5.2.26 (第28回審査会) |
・審議 |
5.2.26 | ・答申 |