三重県情報公開審査会 答申第7号
答申
1 審査会の結論
「(平成2年度)カスミサンショウウオの生息調査について(伺い)」及び「(平成2年度)カスミサンショウウオの生息調査結果」について、実施機関が調査指導者の所属名、職名及び氏名の部分を非開示にしたことは妥当であるが、担当者の職名及び氏名の部分を非開示にしたことは妥当でない。
2 異議申立ての内容
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成3年12月13日、三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「(平成2年度)カスミサンショウウオの生息調査について(伺い)」及び「(平成2年度)カスミサンショウウオの生息調査結果」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成3年12月19日付けで行った部分開示決定処分の取消しを求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書、実施機関の部分開示理由説明書及び補充説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、次のように要約される。
ア 条例第8条第1号(個人情報)に該当しないことについて
当該野生生物の調査は、三重県職員が三重県の指示の下に行ったものであり、個人が私的に行った調査でも、また個人について調査したものでもない。条例でいう個人情報とは、「私人」である個人、あるいは「公人」であってもその人の「私的」な情報を指すと考えるべきであり、調査指導者及び担当者の氏名等は個人情報に該当しない。
にもかかわらず、それらを個人情報に該当するとする実施機関の非開示理由は本号を拡大解釈するものである。
また、調査指導者の氏名等も非開示にしているが、三重県が専門家と認めるほどの学識経験者の氏名を秘密にすることは、その方にとって大変失礼なことであり、また真に秘密にしなければならない程のレベルの学識しかない人物であったとしたら、県民の税金により行っている三重県の野生生物調査に関する姿勢や見識を疑う。
更に、当該調査報告の内容は非常にずさんなものであるが、氏名等を開示しないということは、そのようなずさんな調査を立案し、指導した人を援護しているとしか思えない。
イ 条例第8条第5号(行政運営情報)に該当しないことについて
実施機関は、今回の調査は専門的な知識及び経験を有する指導者の助言、協力を得て実施したものであると主張するが、その調査が開示されたとおりの内容であったとすれば、中学生でもできるレベルの低いものであり、当該又は将来の同種の事務の執行に際して指導者の選定に困ることは全くないと言える。 また、大規模な開発事業の実施が環境に及ぼす影響について審査、調査等を行っている委員に対して過去になされたのと同様の迷惑行為が、今回の調査指導者に対しても予想されたと主張するが、どのような迷惑行為があったのか具体的に述べていない。
更に、調査指導者の氏名は公表をしないということで調査を引き受けてもらったため、それについて配慮しなければならなかったと主張するが、氏名を公表しないとして指導を依頼するとは常識はずれであり、調査結果の信頼性を疑わせるものである。
3 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を部分開示にしたというものである。
1 カスミサンショウウオの生息調査の性格について
カスミサンショウウオの生息調査(以下「本調査」という。)は、事業者が行ったカスミサンショウウオの移植について、その後、実施機関が別途任意に移植先の周辺環境及び生息状況を調査したものである。
2 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書中、調査指導者及び担当者の氏名等の部分は、個人に関する情報であり、開示すると特定の個人が直接識別され得ることは明白であり、ただし書きに規定する「イ 法令の規定により、何人でも閲覧できるとされている情報」、「ロ 公表を目的として作成し、又は取得した情報」及び「ハ 法令又は条例の規定に基づく許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報であって、公益上開示することが必要であると認められる情報」のいずれにも該当しない。
3 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されている調査指導者の氏名等を開示しなかったのは、大規模な開発事業の実施が環境に及ぼす影響について審査、調査等を行っている委員に対して過去になされたのと同様の迷惑行為が、本調査の指導者に対してもなされることが十分考えられること、更に、本調査への協力依頼の際、氏名の公表はしないということで引き受けてもらったことから、それについては実施機関としても配慮する必要があったからである。
これらのことから、調査指導者の氏名等の部分は、開示すると、その者と実施機関との信頼関係が損なわれ、今後の同種の事務事業の実施に必要な理解、協力を得ることができなくなることが考えられ、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に支障を生ずるおそれがある。
以上により、調査指導者の氏名等の部分は条例第8条第1号及び第5号に、また、担当者の氏名等の部分は条例第8条第1号に該当する。
4 審査会の判断
1 本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、実施機関の「環境影響評価の実施に関する指導要綱」に基づく環境影響評価の手続きに従って事業者が行ったカスミサンショウウオの移植について、これをフォロ-する意味で、実施機関が別途任意に事後調査として移植先の周辺環境及びカスミサンショウウオの生息状況を確認するため、限られた条件の下で、専門的な知識及び経験を有する指導者の助言、協力を求めて実施した調査結果等を記録したものである。
2 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
3 本件審査の中心争点について
異議申立人は本調査の調査方法がずさんであること、そういうずさんな調査を防止するためにも調査指導者及び担当者の氏名等の開示が必要であること等を主張しているが、当審査会は調査方法がずさんであったか否かについて結論を出す場ではなく、実施機関が非開示にした部分について、条例に照らし、その理由が妥当であるか否かを判断するものである。
4 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
条例は、第8条第1号において、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る」情報は、原則として非開示とすることを定めている。
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシ-は最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシ-の概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることを定めたものである。
ところで、実施機関は「個人に関する情報」を一切の個人に関する情報と捉え、調査指導者及び担当者の氏名等の部分は本号に該当すると主張し、それに対して、異議申立人は「個人に関する情報」を限定的に解釈し、「私人」である個人の情報、あるいは「公人」であってもその人の「私的」な情報を指すと考えるべきであり、実施機関の解釈は条文の拡大解釈であると主張している。
そこで、調査指導者及び担当者の氏名等の部分が、「個人に関する情報」に該当するか否かについて判断する。
本号でいう「個人に関する情報」とは、実施機関が判断したように一切の個人に関する情報ではなく、あくまでも個人の私的な情報を指し、公務員の職務に関する個人情報はそもそも公務員の職務の性格上、公益性が強いことから「個人に関する情報」には含まれないと解すべきである。
なお、公務員であっても、例えば給料の額や扶養家族の有無など公務員個人の私的な情報は本号でいう「個人に関する情報」に該当するものであるが、職務に関する個人情報は本号の「個人に関する情報」に該当せず、原則開示であると考える。
ただし、公務員の職務であってもその人の個人的な資質や能力にかかわる場合は、「個人に関する情報」に該当するものと考える。
従って、それを本事案について当てはめると、実施機関の担当者は、本調査につき職務として従事していることは明らかであり、これら氏名等の部分は、公務員の職務に関する個人情報であり私的な情報ではないことから、そもそも本号で定める「個人に関する情報」に該当せず、実施機関がその部分を非開示にしたことは妥当でない。
しかしながら、調査指導者は本調査につき私人としての専門的資質や能力を期待され、担当者を指導したものであって、このこと自体が私的な情報と認められることから、これら氏名等の部分は「個人に関する情報」に該当し、かつ、特定の個人が識別され得る情報とし、実施機関がその部分を非開示にしたことは妥当である。
5 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について
条例は、第8条第5号において、「検査、監査、取締り、入札、試験、交渉、渉外、争訟等の事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」情報について、非開示とすることを定めている。
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報や反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなり、又は公正若しくは適正な執行に著しい支障を生ずるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
ところで、実施機関は調査指導者の氏名等がわかるとその者に対して迷惑行為がなされるおそれのあること、更に、本調査協力依頼に際し、氏名等の非公開を前提に調査を引き受けてもらった経緯があったことを理由に挙げ、開示すると、実施機関とその者との信頼関係が損なわれ、今後の同種の事務事業の実施に必要な理解、協力を得ることができなくなり、ひいては当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあると主張し、それに対して、異議申立人は実施機関が迷惑行為を具体的に述べていないことや氏名の公表をしないとして指導を依頼することは常識はずれであることを理由にその部分を開示しても著しい支障は生じないと主張している。
そこで、調査指導者の氏名等の部分を開示した場合、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについて判断する。
本調査は、環境影響評価書に基づいて事業者が行ったカスミサンショウウオの移植について、実施機関がその後、これをフォロ-するために、周辺環境の状況や生息状況を調査したものであるが、制度上特に実施機関が行わなければならないものではなく、また、調査方法等決まったものもなく、限られた条件の下で専門的知識及び経験を有する指導者の助言を得て行っていることが認められる。
実施機関は、上述のような調査が行なわれた場合、調査指導者の氏名等が明らかになると調査指導者に対して迷惑行為がなされるおそれがあると主張するが、迷惑行為そのものが不明確なことから実施機関のこの主張は採用することができない。
つぎに、氏名等の非公開が受諾の前提条件の場合、これに実施機関が配慮し当該部分を非開示にしなければならないか否かであるが、本号の趣旨は異議申立人が主張するような氏名の非公開が前提の調査依頼が適当であるか否かを斟酌するものではなく、実施機関の行う事務事業が多くの関係当事者との信頼関係で成り立っていることに鑑み、実施機関がそれを損ねると判断した場合に当該部分を非開示にするということである。
今回の場合は、口頭でそのような約束を取り交わしたことは事実であると認められることから、調査指導者の氏名が特定できる部分を開示すると実施機関とその者との信頼関係を損ね、結果として、今後の同種の事務事業の実施に必要な理解と協力を得ることができなくなり、ひいては当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に支障が生ずるおそれがあるとして、実施機関がその部分を非開示にしたことは妥当である。
6 結論
総合して判断すると、本件対象公文書について、実施機関が行った部分開示決定処分のうち、調査指導者の所属名、職名及び氏名の部分を非開示にしたことは妥当であるが、担当者の職名及び氏名の部分を非開示にしたことは妥当でない。
5 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。
別紙
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
4.2.18 | ・諮問書受理 |
4.2.21 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出要求 |
4.3.6 | ・部分開示理由説明書受理 |
4.3.11 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付及び意見書の提出要求 |
4.3.25 | ・意見書及び口頭意見陳述申出書受理 |
4.4.20 (第17回審査会) |
・書面審理 ・実施機関からの部分開示理由説明の聴取 |
4.5.20 (第18回審査会) |
・異議申立人からの口頭意見陳述の聴取 ・審議 |
4.7.6 (第19回審査会) |
・実施機関からの部分開示補充説明の聴取 ・異議申立人からの口頭意見陳述の再聴取 ・審議 |
4.8.6 (第20回審査会) |
・審議 |
4.8.6 | ・答申 |