三重県情報公開審査会 答申第311号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件対象公文書を不存在とした決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19年4月16日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県教育委員会が市教育委員会に特定の日付の文書及び特定の個人が記述した顛末書の送付を求めた文書他」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成19年4月27日付けで行った公文書開示決定で、「三重県教育委員会が市教育委員会に特定の日付の文書及び特定の個人が記述した顛末書の送付を求めた文書」(以下「請求対象公文書」という。)を不存在とした決定(以下「本件不存在決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
特定の日付の文書及び特定の個人が記述した顛末書(以下「本件特定文書」という。)は市教育委員会に保管されている文書である。県教育委員会は当該教員の任命権者として服務監督者たる市教育委員会に対し本件特定文書の提出を口頭で依頼したものであるから、県教育委員会が本件特定文書の送付を求めた文書は存在しない。文書で送付依頼を行うか口頭での依頼にとどめるかは県教育委員会及び市教育委員会の裁量に属する事項である。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次の理由により、本件不存在決定は取り消すべきであるというものである。
本件特定文書は市教育委員会が作成・保管している文書で、県教育委員会が送付を求めなければ存在しない文書である。したがって、送付を求めた文書が存在しなければ不自然である。また、三重県教育委員会処務規程により、軽微な事案以外は、文書による事務処理を規定されており、特定の公文書の送付を依頼する事務処理は軽微な事案とは考えられないことから、市教育委員会が保有する本件特定文書を県教育委員会が送付依頼したことを示す決裁文書が存在するはずである。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、本件異議申立ての対象となった本件不存在決定に関して、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
三重県教育委員会処務規程(平成14年教委訓第4号。以下「処務規程」という。)第6条第1項には「事務の処理は、原則として文書によるものとする。」と規定され、同条第2項には「前項の規定にかかわらず、意思決定と同時に文書を作成することが困難である場合、及び処理にかかる事案が軽微な場合は文書を作成しないことができる。ただし、前者にあっては事後に文書を作成するものとする。」と規定されている。
実施機関の説明から、本件特定文書は公立中学校教諭の分限処分に係る文書であり、その処分において重要な役割を果たした文書であると認められる。公立中学校教諭の身分にかかわる文書が、処務規程に規定する軽微な事案であるとは認めがたく、処務規程の原則に則り文書により処理されるべきものであると考えられる。
公立中学校教諭の人事管理に関し、県教育委員会と市教育委員会がその役割を分担するという実態から、両者が非常に密接な関係にあることは理解できるが、そもそも両者は別個の組織であることから、本件のように分限処分に係る重要な文書の送付依頼に関しては文書による処理がなされるべきであると考える。
しかし、公立中学校教諭の人事管理に関しては、任命権者としての県教育委員会と服務監督権者としての市教育委員会がその役割を分担し連携していることから、実施機関には、両者の関係は通常の自治体間に比べより密接な一体関係にあるとの認識があったことから、実施機関は、処務規程の規定にかかわらず、本件特定文書の送付について文書による決裁を経ず口頭で依頼した。このことは、審査会が聴取した実施機関の認識からすると、実務上あたかも一つの組織内部での事務であるかのように処理されており、文書による決裁を経ず口頭で依頼したと考えられる。
したがって、処務規程に則り本来文書によって処理されるべきであったと考えられるものの、不存在と決定したことは妥当である。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の意見
審査会の判断は上記のとおりであるが、次のとおり意見を申し述べる。
上記のように、実施機関に市教育委員会との関係について特段の認識があるとしても、別個の行政機関との文書の収受については、処務規程に則った適正な事務処理の必要性についての認識を新たにし、適正な運用と改善に努められたい。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、以下のとおりである。
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 6.27 | ・諮問書の受理 |
19. 7. 4 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
19. 7.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
19. 8.24 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
20. 2.21 | ・意見書の受理 |
20. 2.21 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第290回審査会)
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20. 3.14 | ・審議 ・答申 (第292回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。