三重県情報公開審査会 答申第307号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った公文書不存在決定については、その決定を取り消し、対象公文書を特定し改めて決定すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成19年6月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定のマンションについて、国及び特定の地方公共団体から受けた文書一式、国及び特定の地方公共団体に宛てた文書一式(決裁文書を含む)」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成19年7月2日付けで行った公文書不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
開示請求の対象となった特定の建築物は、平成14年7月16日に建築確認され、平成15年12月24日に検査済証の交付を受けて完成している。当時の建築確認及び検査済証の交付は特定の建設部で行っており、当該事務の所管は県であった。しかし、当該建築物の建築場所である特定地方公共団体は、平成17年4月1日から建築基準法第2条第32号に規定する特定行政庁となったことから、現在の所管は当該地方公共団体である。
異議申立てでは「建築基準法の権限が移譲された場合には、確認検査に関連する情報の一部について、県から当該地方公共団体に写しが送付されているのではないか。」と主張するが、平成17年4月1日に建築基準法の権限を移譲した際、特定の建設部から当該地方公共団体へ同市内の建築基準法に関する一切の書類の写しではなく本冊を引き継いだことから、県には当該建築物の建築確認申請書をはじめとする書類は、写しも含めて存在しない。
また、県から当該地方公共団体へ引き継いだ当時に文書の目録を作成したが、当該建築物を特定したものではないため、該当しない。
4 異議申立て理由
異議申立人は、以下の理由により本決定の取消を求めている。
建築基準法の規定による事務は、特定行政庁の事務である。
本件建築計画に関する事務は、建築確認、完了検査の時点では、県の事務であったが、事務が特定地方公共団体に移譲された後で本件建築計画に欠陥があったことが判明した。
この欠陥に関する建築主への指導は当該地方公共団体の所管であるが、完了検査に関する責任は県にある。このようなケースで、県から当該地方公共団体に対してどのような情報が提供されているかを知りたいと思い、本件開示請求を行った。また、それを決裁した部局や時期が分かるように、請求対象に決裁文書を含めた。
本件建築計画の建築確認申請書等の本冊が県から当該地方公共団体に引き継がれ、文書不存在とのことであるが、そのことは本決定通知書では分からず、平成19年9月12日付けの理由説明書で初めて知ることとなった。
決裁した文書が存在しているのであれば、その文書は開示していただきたい。
本件建築計画について、県の担当者が「構造計算上問題はない」とコメントしているが、その判断の根拠となった文書の存否についても調査いただきたい。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本決定の妥当性について
異議申立ての主旨は、実施機関が公文書不存在決定を行ったことに関して、請求対象の公文書の特定に異議を提起していると解される。当審査会は公文書の特定に関して、以下のとおり判断する。
実施機関の説明を整理すると、建築確認申請に関連する事務の所管は以下のとおりであると認められる。
本件開示請求の対象となった特定の建築物に関する建築確認申請に係わる事務は、建築確認申請及び完了検査の時点では県の所管する事務であった。その後、当該建築物に関する建築確認申請に係わる事務は、当該特定行政庁に移譲されている。また、権限移譲の際、県には関連する書類を保存しておく権限も義務もないことから、関連書類の目録と関係書類本冊の全てを当該地方公共団体に引き渡している。
したがって、本件開示請求時点では、県は関連する文書及びその写しを保有していないとする実施機関の説明に不自然な点はない。
異議申立人は、本件建築計画の建築確認申請書等の本冊が県から当該地方公共団体に引き継がれたため文書不存在であることは本決定通知書では分からず、平成19年9月12日付けの理由説明書で初めて知ることとなったと主張する。また、県より当該特定行政庁に引継等が決裁された文書があれば、その開示を求めると主張する。
これに対して実施機関は、権限移譲に際して作成された文書を保有しているが、本件開示請求の対象公文書として、当該特定地方公共団体への権限移譲に係る文書が含まれているとは考えられず、新たな開示請求であると主張している。
しかしながら、実施機関の説明及び異議申立人の意見書の中からは、本件開示請求から本決定に至るまでの間に、対象公文書の特定のためのやりとりがあったとは認められない。実施機関は、異議申立人と連絡を取ることができなかったと主張するが、その主張どおりに連絡が取れなかったとしても、開示請求者の請求内容を広くとらえて対象公文書の特定をする必要があると考える。
実施機関は、本件開示請求に対して、特定時点での特定建築物でおきた事件を念頭において、開示請求対象を特定しているが、開示請求書及び異議申立書等の文面からは、異議申立人は開示請求当初より当該建築物の建築確認等も含め広く請求をしていると解されることから、実施機関の対象公文書の特定は狭いといわざるを得ない。
公文書の不存在決定を行う場合には、開示請求の意図を十分に把握し、対象公文書の特定に注意を払われたい。
(3)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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19. 9. 6 | ・諮問書の受理 |
19. 9. 7 | ・実施機関に対して非開示(不存在)理由説明書の提出依頼 |
19. 9.13 | ・非開示(不存在)理由説明書の受理 |
19. 9.19 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
19.12. 3 | ・異議申立人からの意見書を受理 |
19.12. 3 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
19.12. 4 | ・実施機関からの意見書を受理 |
19.12. 5 | ・異議申立人に対して意見書(写)の送付 |
19.12.11 | ・異議申立人からの意見書(2)を受理 |
19.12.11 | ・実施機関に対して意見書(2)(写)の送付 |
19.12.13 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第287回審査会)
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20. 1.24 | ・審議
(第289回審査会)
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20. 2.21 | ・審議 ・答申 (第290回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 伊藤 睦 | 三重大学人文学部准教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 元三重中京大学短期大学部教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学准教授 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市看護医療大学副学長 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。